いとなみ

マジで

「マジで」

美咲は、友人の結婚式から帰る電車の中で、ぼんやりと窓の外を眺めていた。二十代後半になり、友人たちが次々と結婚していく中で、ひとり取り残されるような感覚に、いつもは気にしないようにしていた焦りがこみ上げてくる。

「私もそろそろ、本気で恋愛しないといけないのかな……」

周りには優しい友達や仕事仲間がいるし、彼氏がいなくても楽しい毎日を過ごしてきた。けれども、結婚式で目にした幸せそうな新郎新婦の姿を見て、ふと、心にぽっかりと穴が開いたような気がしたのだ。

そんな気持ちを抱えたまま電車を降りると、聞き覚えのある声が後ろからかかった。

「美咲、久しぶり！」

振り向くと、高校時代の同級生である大輝が立っていた。彼は気さくで明るい性格で、当時から皆に人気があった。高校を卒業してからは、連絡を取ることもなくなっていたが、こうして偶然再会したのだ。

「大輝？　久しぶり！　こんなところで会うなんて、びっくりだね！」

二人は軽く近況を話しながら歩き、せっかくだからと近くのカフェに入ることになった。彼は以前と変わらない笑顔で、楽しそうに話してくれた。

「今、何してるの？彼氏とかいるの？」と、彼が少し茶化すように聞いてきたので、美咲は少し恥ずかしそうに首を横に振った。

「そういう大輝はどうなの？彼女いるんでしょ？」

すると、大輝は意外にも「今はいないんだよなー」と苦笑いを浮かべた。二人は恋愛話を含めて、高校時代の思い出話に花を咲かせ、気づけば何時間も経っていた。

「やっぱり美咲と話すと楽しいな。俺たち、本当に久しぶりなのに、全然そんな気がしないよな」

大輝の言葉に、美咲も心の奥でじんわりと嬉しさが湧いた。彼といると気負うことなく、自然体でいられる。こんなふうに気軽に話せる相手とまた会えたことが、今の彼女にとっては思いがけない喜びだった。

それからというもの、二人は頻繁に会うようになった。仕事帰りに食事をしたり、休日には出かけたりして、自然と距離が縮まっていった。美咲は自分の心が少しずつ大輝に向かっていることに気づいていたが、彼も同じ気持ちなのか確信が持てず、告白する勇気が出せずにいた。

そんなある日、二人は夜の公園を散歩していた。風が心地よく、木々の間から月明かりがさしてロマンチックな雰囲気だった。ふと、大輝が立ち止まり、美咲の方をじっと見つめた。

「美咲、俺さ……」

大輝の言葉に、美咲の心臓がドキドキと高鳴った。彼が真剣な表情をしているのを見て、もしかして、と期待が膨らむ。

「……俺、美咲のことが、マジで好きなんだ。今まで友達だと思ってきたけど、もう我慢できない。付き合ってほしい」

その言葉を聞いた瞬間、美咲は驚きと嬉しさで涙がこぼれそうになった。彼も同じ気持ちだったなんて、まるで夢のようだ。しばらくの間、言葉が出ないまま彼の顔を見つめていたが、やがてそっと微笑んだ。

「私も、大輝のことが……ずっと好きだったの。付き合ってくれるの、すごく嬉しい」

二人は自然と手を繋ぎ、夜の静かな公園を歩き続けた。握った手から伝わる温もりが、彼女にとって何よりも安心できるものだった。

それからの毎日が、二人にとって特別なものに変わっていった。美咲は大輝と一緒に過ごす時間を大切にし、彼の隣で未来を描くようになった。過去の偶然の再会が、こんなにも素晴らしい結末をもたらすなんて、彼女は思ってもみなかった。

やがて、大輝は彼女にプロポーズをする。美咲はそのプロポーズを受け入れ、二人は幸せな結婚生活を歩み始めた。