いとなみ

愛が奏でる場所

【愛が奏でる場所】

　秋の午後、銀杏並木が黄金色に染まり、風が通り抜けるたびに葉が舞い散る様は、まるで夢のようだった。その中を歩く一組のカップル、玲奈（れいな）と悠馬（ゆうま）がいた。彼らは大学の同級生であり、互いに自然と惹かれ合うようになったが、そこに至るまでの道のりは、決して平坦ではなかった。

　初めての出会いは、大学のサークルの新歓コンパだった。玲奈はどこか物静かで、いつも一歩引いて周りを見ているような女性だった。一方の悠馬は、明るく場を盛り上げるタイプで、どこにいても人を惹きつける人気者だった。ふたりはその日も同じ空間にいながら、交わす言葉はほとんどなかった。

　しかし、偶然が重なり、ふたりはひょんなことから同じ授業のペアワークを組むことになった。最初はただの課題のためのパートナーだったが、いつしかその時間が待ち遠しくなっていった。玲奈が見せる真面目な一面や、意外と負けず嫌いなところ、そして照れ隠しに浮かべる小さな笑顔。悠馬は次第に、彼女のそんな細かな表情に心を奪われていった。

　一度、玲奈が自分のミスで課題を失敗してしまい、肩を落としていたときがあった。彼女は普段から強がっていたが、そのときばかりは打ちひしがれた様子を隠せずにいた。悠馬はそんな彼女を励まし、夜遅くまで一緒にリカバリーの作業を続けた。「玲奈なら大丈夫だって、俺は信じてるから」彼のその言葉が、玲奈の心をそっと解きほぐした。

　「悠馬、どうしてそんなに私のことを信じてくれるの？」玲奈は、ふとそう聞いた。

　「玲奈が、自分以上に努力してるの知ってるからさ」悠馬は微笑みながら、そっと答えた。　

　それ以来、玲奈の中で悠馬は「ただの友達」ではなくなり始めていた。何かを乗り越えるときにそばにいてくれる存在、どんな自分も受け入れてくれる存在。悠馬が自分にとってどれほど特別かを、玲奈はそのとき初めて感じたのだ。

　そうして、彼らの関係は少しずつ変わっていった。そして今、銀杏並木の中で悠馬と並んで歩く玲奈は、再び不安を口にした。

　「悠馬、私たち、これからもずっと一緒にいられるかな？」

　彼女の問いに、悠馬は少し驚いた顔を見せたが、すぐに微笑み、玲奈の手を優しく握りしめた。「玲奈、僕はどこにいても、君を想ってるよ。たとえ距離があっても、心は変わらない」

　玲奈の瞳に涙が浮かぶ。自分の不安を受け止めてくれる彼の温かさが、彼女の胸を打った。「ありがとう、悠馬。私も、あなたを信じる」

　彼らは再び手をつなぎ、並木道を歩き出した。その姿は、散りゆく銀杏の葉とともに、誰かが語り継ぐ美しい恋の風景となっていった。