いとなみ

甲州街道のイチョウ並木で、二人だけの秋

【甲州街道のイチョウ並木で、二人だけの秋】

秋の訪れを感じ始めた頃、私は彼と一緒に甲州街道のイチョウ並木へ足を運んだ。4.5キロにも及ぶ並木道に並ぶ770本のイチョウが黄金色に染まり、秋晴れの空の下で優雅に風に揺れている。その光景に私は思わず息をのんだ。

「綺麗だね」と彼が隣で言う。彼の顔に映るイチョウの葉の陰影がどこか幻想的に見えて、私は何度も立ち止まって彼の顔を見つめてしまう。そんな私の様子を察したのか、彼はふと笑って「ちゃんと歩けよ」と言いながら、そっと手を握ってくれた。彼と付き合って3年が経つが、彼がこうして手を繋いでくれる瞬間は、今も新鮮な気持ちになる。

「八王子いちょう祭りも今年で45回目なんだって」と、私は言葉を切り出す。お祭りが盛り上がるこの季節に、二人で訪れるのは今回が初めてだった。屋台が立ち並び、全国から集まった観光物産展やふるさとバザールのブースで賑わう道沿いは、家族連れやカップルたちであふれている。いつもは静かな街道も、今日はどこか特別な雰囲気だ。

「この道中通行手形、12カ所の関所で焼印を押してもらえるんだって」と、彼は私に見せるように手形を掲げてみせた。関所オリエンテーリングの一環として配られる通行手形は、このイベントの恒例行事で、彼は子どもの頃にも親に連れられて参加したことがあるらしい。

「あ、ここに焼印あるみたい！」と私が指差すと、彼がその場所に向かって私を引っ張った。焼印を押してもらうと、手形には温かみのある色で浮かび上がる小さな印がついて、なぜだか子どもみたいに嬉しくなってしまう。彼もそんな私の顔を見て、微笑んでいた。

一通り関所を巡り終えた後、私たちは道沿いに並ぶ屋台に立ち寄った。焼きたての焼き芋の香ばしい香りが漂い、私は思わず彼の腕を引っ張った。「焼き芋、一緒に食べない？」と私が尋ねると、彼もまた嬉しそうに頷き、屋台の前で二人分の焼き芋を買った。

「熱いね」と言いながら焼き芋を頬張ると、体の芯から温まるような甘みが広がる。二人で分け合いながら焼き芋を食べ、私は改めて彼と一緒に過ごせるこの時間がかけがえのないものだと感じていた。

「この道、昔から続いてるんだね。イチョウの木が成長するまでに、どれだけの人がここを通ったんだろう」と彼が遠くを見つめながら呟く。彼の言葉に、私もふとその景色に歴史の重みを感じた。私たちの人生もまた、このイチョウ並木のようにいつか色鮮やかに染まるだろうか。そんな想いが心の中に芽生えた。

日が傾き、イチョウの木々に夕陽が差し込む頃、街道はより一層黄金色に染まった。彼が握る私の手が温かく、秋風が頬を撫でてもその温もりが私を包んでくれる。

「また来年も、ここに来ようか？」と彼が小さな声で言った。私は驚きながらも嬉しくて、少しだけ涙が滲んだ。それを誤魔化すように、私は彼の肩に顔を埋め、「うん、来年も、ずっと一緒に来ようね」と囁いた。

その黄金のトンネルの中で、私たちは未来の約束を交わした。