いとなみ

9歳の片思い

9歳の片思い

小学校3年生のさやかは、放課後の公園が大好きだった。いつも友達と遊ぶ場所だったが、最近は一人で行くことが増えた。心の中に小さな秘密があったからだ。それは、同じクラスのまことに対する、切ない片思いだった。

まことは、背が高くてサッカーが上手な男の子だった。明るい笑い声と、優しい笑顔が彼女をドキドキさせる。さやかは、彼がサッカーをしている姿を見ているだけで、胸が高鳴るのを感じていた。しかし、彼と話す勇気はなかなか出なかった。

ある日のこと、公園で遊んでいると、さやかはまことが友達とサッカーをしているのを見つけた。彼のシュートが決まるたびに、さやかは心の中で拍手を送った。すると、まことがふと彼女の方を見て、にっこりと笑った。その瞬間、さやかの心臓は大きく跳ねた。思わず顔が赤くなるのを感じる。

「やっぱり、まことはかっこいいなあ」と思いながら、さやかは彼から目を離せなかった。友達が彼に話しかけているのを見て、さやかは羨ましさを感じた。自分も、彼と話したい。でも、どうしたらいいのか分からなかった。

数日後、学校の文化祭が近づいてきた。クラスでは、劇を上演することが決まり、さやかたちは役を決めることになった。まことは主役の役に選ばれた。さやかは嬉しい反面、自分の役はどんなものになるのか不安になった。まことと同じ舞台に立つことができるのは、彼に近づけるチャンスだ。

役が決まった日、さやかは緊張していた。自分はまことの相手役だった。舞台の上で彼と一緒に演じることができるなんて、夢のようだ。しかし、いざとなると、彼にどう接すればいいのか分からなくなった。

リハーサルの日、さやかは自分のセリフを覚えようと何度も練習したが、まことの目を意識してしまい、うまく言えなかった。彼が近づいてくると、心臓が早鐘のように鳴り、言葉が出てこない。まことは優しく「大丈夫だよ、さやか。ゆっくりやればいい」と言ってくれた。その言葉に少し救われたが、同時に恥ずかしさが増した。

文化祭当日、さやかはドキドキしながら舞台に立った。まことと一緒に演じることができる喜びと、彼の前で失敗したくないという緊張が入り混じる。劇が進むにつれて、さやかは次第にリラックスしていった。まこととの掛け合いが楽しくて、彼の笑顔を見ているだけで幸せだった。

劇が終わり、観客からの拍手が響く。さやかは達成感と共に、まことの隣で微笑み合った。その瞬間、心の中の気持ちが一つになったような気がした。さやかは勇気を出して「まこと、楽しかったね！」と声をかけた。まことは驚いた顔をしたが、すぐに笑顔で「うん、すごく楽しかった！」と返してくれた。

それから数日後、さやかは放課後の公園に行くことにした。まことも来ているかもしれないと思ったからだ。公園に着くと、すでに数人の友達が遊んでいた。しかし、まことの姿は見当たらない。少し残念に思いながらも、さやかは友達と遊ぶことにした。

そのとき、突然、まことが現れた。「さやか、何してるの？」と声をかけてきた。さやかはドキドキしながら振り向くと、彼の笑顔がそこにあった。「今、友達と遊んでるところだよ」と答えた。すると、まことは「一緒に遊ぼうよ」と提案してくれた。

その瞬間、さやかの心は嬉しさでいっぱいになった。彼と一緒に遊べるなんて、夢のような出来事だった。二人は友達と一緒に鬼ごっこをしたり、笑ったりしながら楽しい時間を過ごした。まことと過ごす時間が、さやかにとって特別なものになっていくのを感じていた。

日が暮れかけたころ、さやかはふと心の中の気持ちに気づいた。「私は、まことのことが好きなんだ」と。自分の気持ちを素直に受け止めることができた瞬間だった。まだ小さいけれど、その片思いは純粋で、彼女の心に大きな存在感を持っていた。

その後も、さやかはまことと少しずつ距離を縮めていった。彼との関係がどうなるのか、まだ分からない。でも、今のこの瞬間がとても大切で、彼との思い出が増えていくことが嬉しかった。

9歳のさやかの片思いは、まだまだ始まったばかり。未来には何が待っているのか分からないけれど、彼との関係を大切に育てていこうと心に決めた。彼女の小さな胸の内には、まことへの思いが優しく花開いていた。