いとなみ

彼女の笑顔

「彼女の笑顔」

直樹は、いつも笑顔でいる彼女・美咲が大好きだった。二人は付き合ってもう一年になるが、彼女はどんな時もポジティブで、何があっても前向きでいる。そんな美咲に会う度に、直樹は元気をもらっている気がしていた。

ある日、直樹が仕事でミスをして落ち込んでいたときのことだった。取引先への確認を怠ったせいで、商品の出荷が一週間も遅れてしまったのだ。上司には厳しく叱責され、同僚にも迷惑をかけてしまった。自責の念にかられてどうにも気持ちが晴れず、その日は仕事が終わった後も彼女に会うのがためらわれた。

しかし、そんなときに限って美咲から「今日もお疲れさま！夕飯一緒にどう？」というメッセージが届いた。彼女に会えば少しは気持ちが軽くなるかもしれない…そう思って、直樹は彼女との待ち合わせ場所に向かった。

「お待たせ、直樹！」駅前のベンチでにっこりと笑う美咲の姿に、彼の胸の中でほんの少しだけ暗い雲が晴れた気がした。

「大丈夫？なんか元気なさそうだね。」そう言って、彼女はさりげなく彼の肩に手を置いた。その温かさに、直樹はふっとため息をつき、今日あったことを彼女に話した。仕事での失敗、同僚への申し訳なさ、上司の怒り、そして自己嫌悪。普段はあまり自分の弱音を吐かない直樹だったが、彼女の前ではつい心を開いてしまうのだ。

話を聞いた美咲は、少しも驚いた様子を見せず、むしろ優しい目で微笑んだ。「そっか、大変だったんだね。でもさ、ミスをしたのは直樹が全部悪いわけじゃないよ。こうして悩んで反省してるんだから、次はもっといい仕事ができるよ！」

彼女はそう言いながら、少し照れたように「直樹の頑張り、私はちゃんとわかってるからね。」と言ってくれた。その言葉に彼の胸はじんわりと温かくなり、少し肩の力が抜けた気がした。

「ありがとう、美咲。そうやって励ましてくれるから、なんとか頑張れるよ」と直樹は感謝を伝えたが、美咲はすぐに顔を横に振った。

「私はただの応援団だよ。直樹がいつも前向きに頑張ってるから、私も元気をもらってるんだよ。」と、また笑顔で言う。彼女のその純粋な笑顔が、本当に直樹の救いだった。

その後、二人は美咲の提案で近くの居酒屋に入り、ビールで乾杯した。彼女は明るい話題を振り続け、直樹が思わず笑ってしまうようなエピソードを次々と語ってくれた。彼の仕事の愚痴にまで優しく耳を傾け、時には冗談で励ましてくれる彼女に、彼は改めて惚れ直してしまった。

帰り道、直樹は勇気を出して彼女に聞いてみた。「美咲はさ、どうしてそんなにポジティブでいられるんだ？」

彼女は少し考えた後、真剣な顔で答えた。「んー、私も時々落ち込むことはあるけどね。でも、落ち込んでるときに無理して元気になるんじゃなくて、ちょっとずつ自分の気持ちを受け入れて、それでも前に進むって決めてるだけかな。」

その言葉に、直樹は驚いた。いつも笑顔でいる彼女にも、当然、悩みや不安はあったのだ。それでも、彼女は自分なりの方法で前向きに生きる道を見つけていたのだ。

「美咲、すごいな。俺ももっと前向きに考えられるように頑張るよ」と直樹が言うと、彼女は少し照れたように笑った。

「ありがとう。でもね、無理にポジティブにならなくてもいいんだよ。大切なのは、誰かがそばで支えてくれることだから。私がその役目になれるなら、それで充分かな。」

その言葉に、直樹は彼女の温かさと強さを改めて感じた。ポジティブなだけじゃない、美咲の深い優しさと信念が、彼を惹きつけてやまない理由だったのだ。直樹は、そんな彼女と一緒に過ごせることに心から感謝した。

別れ際、彼女が手を振りながら「また明日も頑張ろうね！」と明るく言ってくれた。その声に励まされ、直樹はまた新たな一日を前向きに歩いていける気がしたのだった。