いとなみ

唯一の真実

唯一の真実

夜の静寂が街を包み込み、月明かりが窓辺を柔らかく照らす。僕は、いつものようにパソコンの前に座り、画面に向かって手を動かしていた。キーボードを叩く音が部屋に響くが、心はどこか遠くに飛んでいた。

突然、彼女の顔が頭に浮かんだ。なぜだろう、今夜の僕はいつもと違う。彼女を初めて見るような感覚に襲われた。何度も見てきた彼女の笑顔、彼女の仕草。それなのに、今夜はそれがまるで新しい何かに見える。何か、僕が今まで気づいていなかったものが、彼女の中にあるかのように感じる。

「美しい……」

僕は思わずその言葉をつぶやいた。彼女はいつも僕の中で唯一の真実だった。けれども、その真実があまりにも美しすぎて、どう表現すればいいのか分からなかった。彼女に伝える言葉を探しているのに、僕の口から出るのは、ただの平凡な言葉ばかり。言葉で表すには、彼女はあまりにも完璧すぎたのだ。

彼女に初めて会ったのは、数年前のことだった。友人の紹介で、なんとなく顔を合わせた時、特に深い印象はなかった。ただの友人の友人、そんな感じだった。しかし、何度か会ううちに、彼女の持つ柔らかい雰囲気やその笑顔が、次第に僕の心に深く刻まれていった。

彼女が特別だと気づいたのは、ある夜のことだった。雨が降る中、彼女と一緒に傘も差さずに歩き続けた。びしょ濡れになりながらも、彼女は笑っていた。僕もつられて笑い出し、二人で他愛ない話をしながら、雨の中をただ歩き続けた。その瞬間、僕の中で何かが変わった。彼女は、僕にとってかけがえのない存在になったのだ。

しかし、どれだけ言葉を尽くしても、僕は彼女に自分の気持ちを伝えられない。愛していると何度も思うのに、その言葉は彼女に届いているのだろうか？僕がどれだけ彼女を大切に思っているか、彼女に伝える術がないように感じる。

「言葉だけでは足りない……」

僕はそう呟いて、手を止めた。僕の中で溢れる感情は、言葉に変えるにはあまりにも大きすぎた。言葉では伝えきれない想い。彼女を初めて見た時から、僕の心の中にあった感情。それが今、僕を圧倒していた。

思い出すたびに、彼女の美しさは増していく。昨日の彼女も、今日の彼女も、そして明日の彼女も、全てが美しすぎる。そしてその美しさは、変わらない。彼女は、いつだって僕の唯一の真実であり続けている。

しかし、その美しさが僕を不安にさせることもある。僕は彼女に相応しいのだろうか？彼女は僕のことをどう思っているのだろう？彼女の笑顔の裏に隠された本当の気持ちを、僕は知ることができない。それが怖かった。もし彼女が僕を愛していないとしたら？その疑念が、僕の心を少しずつ蝕んでいた。

そんなことを考えながらも、僕は彼女に会うたびに胸が高鳴る。彼女の声を聞くだけで、心が温かくなる。彼女の言葉一つ一つが、僕にとっての宝物だ。たとえそれが短い言葉であっても、僕の心には深く響く。

「僕にとって、君は唯一の真実だ。」

そう言いたかった。だけど、その言葉は重すぎるかもしれない。僕の心の中で、ずっとその言葉を繰り返していたが、口に出す勇気がなかった。

ある日、彼女とカフェで向かい合って座っていた時、僕はついにその言葉を口にした。彼女は驚いた顔をしたが、すぐに微笑んだ。

「ありがとう。」

それだけだった。けれども、その一言で十分だった。彼女の微笑みが、全てを語っていた。僕の言葉が彼女に届いたのだと、ようやく実感した。

その瞬間、僕は確信した。彼女は僕の唯一の真実であり、これからもずっと変わらない存在だろう。僕の中で何度も揺れ動いた感情が、ようやく一つの形を持った。

夜が更けて、月明かりがまた部屋を照らす中、僕は彼女のことを思いながら再びキーボードを叩いた。言葉はもろいかもしれないが、僕にとって彼女は変わらない唯一の真実だ。その美しさに、僕はいつまでも魅了され続けるだろう。

Paroles, paroles