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春秋花壇

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偉大なる愛の約束

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 偉大なる愛の約束

春の風が桜の花びらを運び、街は淡いピンクに包まれていた。大学のキャンパスには、新しい季節の始まりに胸を躍らせる学生たちが行き交っていた。その中に、若干の寂しさを抱えた青年が一人、図書館のベンチに座っていた。

彼の名前は中川隼人(なかがわ はやと)、22歳。文学部の四年生であり、周囲からは優秀な学生として知られていた。いつも本を手にしている隼人は、未来の自分に対して高い目標を掲げていた。卒業後には作家として名を成し、多くの人に影響を与えたいという夢があった。

しかし、隼人にはもう一つ、心の奥に秘めた願いがあった。それは、彼が長い間思いを寄せ続けている女性、同じ文学部の友人である宮田玲子(みやた れいこ)の存在だ。

玲子は聡明で、美しく、いつも輝いている女性だった。彼女は周囲に自然と人を惹きつける魅力があり、隼人もその一人だった。だが、隼人は自分の気持ちを伝えることができずにいた。彼は自分がまだ未熟で、彼女に相応しい存在ではないと思い込んでいたのだ。

「僕がもっと偉大な人間にならなければ、彼女を愛する資格なんてない。」

そんな思いが、隼人の心を縛りつけていた。自分の夢を叶え、社会に認められる存在になった時、初めて彼女に告白しようと決心していた。

その日も、玲子と顔を合わせることなく一日が過ぎようとしていた。彼女は大学の人気者で、常に誰かに囲まれていた。隼人は遠くから彼女を見るだけで、言葉を交わす機会を得ることができなかった。

夕方、隼人が図書館を後にしようとしていると、突然後ろから声がかけられた。

「中川君!」

振り向くと、そこには玲子が立っていた。風で少し乱れた髪を手で整えながら、微笑んでいる。隼人は驚き、胸が高鳴った。

「久しぶりだね。最近、ずっと忙しそうだったから、話す機会がなかったけど…ちょっとお茶しない?」

玲子の突然の誘いに、隼人は戸惑いながらも頷いた。二人は近くのカフェに入り、窓際の席に座った。玲子はお茶を一口飲みながら、静かに言葉を続けた。

「実は、中川君にずっと話したいことがあったんだ。」

隼人の胸がさらに強く鼓動を打つ。まさか、彼女も自分に気持ちがあるのでは…そんな期待が頭をよぎった。

「私、卒業後は海外に行くことにしたの。作家としての道を本格的に歩みたいから、ニューヨークで勉強することに決めたんだ。」

玲子の言葉に、隼人は一瞬息を呑んだ。彼女もまた、自分と同じように作家を目指していたことは知っていたが、その決意がどれほど強いものか、今になってようやく理解した。

「すごいね、宮田さん。君なら絶対に成功すると思う。」

隼人はそう言ったが、心の中では自分の未熟さを痛感していた。彼女はすでに次のステージに進もうとしているのに、自分はまだ何も成し遂げていない。ただ夢を追いかけるだけで、何も行動に移せていない。

玲子は微笑んだが、その瞳にはどこか寂しさが漂っていた。

「中川君も、いつか作家になるんでしょ?だから、私も頑張らなきゃって思ったの。お互い、遠く離れても応援し合えるといいね。」

隼人はその言葉に深く頷いたが、その胸には苦しさがこみ上げてきた。彼女がいなくなる、そんな現実が彼を打ちのめした。

カフェを出て、夕暮れの道を歩く二人。玲子の横顔を見つめながら、隼人は心の中で問いかけた。

「僕がもっと偉大になれたなら、彼女は僕を振り向いてくれるのだろうか?」

別れ際、玲子は立ち止まり、隼人に向かって言った。

「いつか、君の本がニューヨークで出版される日を楽しみにしてるよ。」

それは、玲子からの無言の励ましでもあり、別れの合図でもあった。隼人はそれに応え、彼女を見送った。彼女の背中が遠ざかるたび、胸の中にぽっかりと穴が開いたような感覚が広がった。

その夜、隼人は一人、自分の机に向かってペンを握りしめた。

「僕は、偉大な作家になる。そして、君にもう一度会いに行く。」

そう誓い、彼は執筆に没頭し始めた。彼女に告白できる日はまだ遠いかもしれない。それでも、彼は信じていた。自分が成長し、偉大な存在になった時、恋の方から自然と後を追ってくるだろうと。

そして、何年か後、彼がその誓いを果たす時、玲子がどこにいても、彼の元に戻ってくると信じていた。







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