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春秋花壇

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政略結婚でも幸せになります

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「政略結婚でも幸せになります」

青空が広がる秋の午後、古い日本庭園の一角に、白無垢に身を包んだ美しい花嫁が立っていた。彼女の名前は藤本美咲、25歳。彼女は今まさに、人生の大きな転機に立っている。数ヶ月前、彼女の家族と財界の有力者である一条家との間で決められた「政略結婚」。両家の繋がりを強めるために結ばれたこの結婚には、愛情の余地などなかった。

美咲は幼い頃から家族の期待に応え、両親の言うことに逆らわずに育ってきた。父は小さな企業を経営しており、一条家との繋がりは会社の発展を左右するほどの重要なものであった。美咲はそれを理解していたし、家族のためなら何でもする覚悟があった。だが、心のどこかで「愛のない結婚なんて」と考えたことも事実だ。

結婚相手、一条聡は30歳。彼は冷静で、仕事に没頭するタイプの男性だった。彼とは初めて顔を合わせた時から、ほとんど感情を見せず、ビジネスの一環として結婚を受け入れているように見えた。その無表情な態度に、美咲もまた心を閉ざしていた。

結婚式の準備が進む中、二人は形式的な会話を交わすだけだった。美咲は自分の役割をこなすために努力していたが、心の中では「これでいいのだろうか?」と問い続けていた。結婚の瞬間が近づくたびに、彼女の心はますます重くなっていった。

結婚式当日

美咲は和室で鏡に映る自分の姿を見つめていた。美しい衣装、完璧に整えられた髪型。外見は完璧だが、その瞳には不安が渦巻いている。彼女の心には、まだ覚悟ができていないものがあった。愛のない結婚生活が、果たして自分を幸せにするのか?その答えはまだ見えなかった。

「美咲さん、そろそろ時間です。」

和室の外から声がかかり、美咲は深呼吸をしてから立ち上がった。結婚式場へ向かう途中、彼女は一度だけ立ち止まり、澄んだ空を見上げた。「これが私の運命なんだ」と、自分に言い聞かせるように。

式は形式的に進行し、美咲はその中で感情を押し殺していた。隣に立つ聡の表情は相変わらず読めない。それでも式は滞りなく終わり、二人は正式に夫婦となった。周囲から祝福の声がかかる中、美咲はまるで遠い世界にいるような気持ちでいた。

新婚生活

結婚後の生活は、予想通り形式的なものだった。豪華な一条家の屋敷での生活が始まったが、聡は仕事に忙しく、家にはほとんどいなかった。二人の間に深い会話もなく、毎日がただ流れていくだけだった。美咲は家の中で孤独を感じ、時折自分の選択を後悔することもあった。

そんなある日、美咲は書斎でふと目に留まった一冊の本を手に取った。それは古い詩集だった。中を開くと、書き込みがされているページがあった。そこには、幼い頃の聡が自分の思いを綴った詩が書かれていた。感情をあまり表に出さない彼とは思えないほど、詩には心の奥底に秘めた孤独や葛藤が滲んでいた。

「こんな人なんだ……」美咲は、聡の意外な一面に驚いた。彼もまた、心に抱える何かがあるのだと感じた。それを知った瞬間、美咲の心に少しだけ彼に対する理解が芽生えた。

その夜、家に戻ってきた聡に美咲は思い切って問いかけた。

「この詩、あなたが書いたの?」

聡は一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに無表情に戻った。「子供の頃のことだ。そんなに気にすることじゃない。」

しかし、美咲はその言葉を聞いてさらに踏み込んだ。「気にするわ。あなたが何を考えているのか、もっと知りたいから。」

その言葉に、聡はしばらく沈黙していた。そして、ゆっくりと口を開いた。「僕は、この結婚がビジネスだと思っていた。感情なんて不要だと。でも、美咲さんが本当にこの家に来てから、少しだけ違うかもしれないと思い始めている。」

その言葉を聞いた美咲の心に、今まで感じたことのない温かさが広がった。彼もまた、自分と同じようにこの結婚に戸惑い、何かを探しているのだと感じた。そしてその夜、美咲と聡の間に初めて少しだけ心が通じ合った瞬間が訪れた。

新しい日々

それからの生活は、少しずつ変わり始めた。まだ完璧ではないが、二人は少しずつお互いを理解しようと努めていた。聡は仕事の合間を縫って、美咲と過ごす時間を増やし、二人で庭を散歩したり、食事を共にすることが増えた。

ある日、美咲が聡に尋ねた。「私たち、どうなるんだろうね?」

聡は彼女を見つめ、少しだけ微笑んだ。「わからない。でも、少なくとも今は、ビジネスじゃない。」

その瞬間、美咲の胸に幸せの感覚が広がった。愛のない結婚だと思っていたが、今は少しずつその概念が変わり始めていた。もしかしたら、この政略結婚の中にも、二人だけの幸せが見つかるかもしれない――そう、美咲は初めて心から感じた。

外を見ると、紅葉した木々が風に揺れていた。その光景はまるで、二人の未来を祝福しているかのように感じられた。

「これからも、一緒に。」
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