いとなみ

知的なのに どこかおちゃめな君

知的なのに　どこかおちゃめな君

冬の午後、図書館の静寂の中で、私は一冊の本に没頭していた。その時、ふと視線を感じて顔を上げると、目の前のテーブルに座る彼、佐藤がこちらを見ていた。彼はいつもは真剣な顔で本を読み込んでいるが、その表情はどこかおちゃめさを秘めているように見えた。

彼の存在は、私にとって不思議な魅力を放っていた。知的でありながら、何か抜けたところがあって、時折見せる冗談に思わず笑ってしまうことも多い。そんな彼が、今も私をじっと見つめている。その視線に少し照れくささを感じながら、私は本に視線を戻した。

「何を読んでるの？」突然、彼が声をかけてきた。私が手にしていたのは、文学評論に関する本だった。「文学の神秘ってやつさ」と冗談めかして答えると、彼は笑いながら、肩をすくめた。

「それ、難しそうだね。どうせ、頭の良い人が書いてるんだろう？」彼の言葉に思わず笑ってしまった。そう、彼は自分のことを「知的じゃない」と謙遜していたが、その実、彼の考え方はとても深いものがあった。

「いや、意外と理解できるよ。難解な言葉は出てこないし、要は自分の感情をどう表現するかってことだよ」と私が言うと、彼は少し真剣な顔になり、「それなら、私も挑戦してみたいな」と言った。

そうして、彼は私の横に座り、自分も本を読むことにした。彼が手に取ったのは、私の持っていた文学評論とは全く異なる、サスペンス小説だった。彼はページをめくるたびに、時折顔をしかめたり、声を出して笑ったりしていた。その様子を見ていると、彼の知的さが裏切られるような、どこか可愛らしいおちゃめさが浮かび上がってきた。

数分後、彼が小説の一節に引き込まれた瞬間、声を上げて驚いた。「えっ！それは予想外！」彼の反応に、周囲の人々がこちらを振り返った。私は思わず彼に笑いかけ、「静かにしないと、図書館だよ」と軽く注意した。彼は照れくさそうに笑い返し、もう少し小声で読み進めた。

そんな彼の姿を見るたび、私の心が温かくなった。彼は自分の知識や経験を大切にしつつも、時には子供のように無邪気な一面を見せる。そんなギャップに、私は何度も惹かれていた。

数時間後、彼は本を閉じ、「この本、最高だね。もっと早く出会っていればよかった」と満足そうに言った。私は彼の顔を見つめながら、「でも、君が楽しんでくれたならそれが一番大事だよ」と答えた。

「そうだね。次は、君が好きな本を教えてほしいな」と彼は言った。その提案に心が踊った。彼と一緒に本を読み合う時間が、私にとって特別なものになると感じたからだ。

「それなら、今度一緒に読書会でも開こうか」と私は提案した。彼は目を輝かせ、「いいね！君のオススメの本を一緒に読むのが楽しみだよ」と嬉しそうに答えた。

そして、私たちは次の読書会の計画を立てながら、再び図書館の本棚に向かった。彼は本を手に取りながら、時折私に冗談を言っては笑わせる。その瞬間、彼の知的な側面とおちゃめな側面が絶妙に交わり、私の心に深く刻まれていくのを感じた。

その日の帰り道、私はふと彼のことを考えた。知的でありながら、どこかおちゃめな彼。その二面性が、私にとって彼を特別な存在にしているのだと気づいた。彼と過ごす時間は、私の心に新たな色を添えてくれる。

次の読書会で彼と何を話そうか、どんな本を紹介しようか、そんな期待に胸を膨らませながら、私は冬の寒さに包まれた街を歩いた。彼の笑顔を思い出すたびに、心が温かくなるのだった。