いとなみ

春秋花壇

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恋愛 ― 幸福な結婚に通ずるとびら

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恋愛 ― 幸福な結婚に通ずるとびら

真由美は、長いこと「恋愛」とは何かを考えていた。二十代も半ばを過ぎ、周りの友人たちは次々と結婚し、家庭を築いていく。それでも真由美は、恋愛が本当に結婚という「幸福の扉」に繋がるものなのか、確信を持てずにいた。

大学時代の友人である奈々子が、結婚式の招待状を送ってきた。彼女の相手は、奈々子が数年前に出会ったという会社の同僚。真由美はその時のことを思い出す。奈々子が初めてその彼のことを話したとき、「運命の人かもしれないの」と目を輝かせていた。その時、真由美は羨ましいと思うと同時に、どこか冷静な自分を感じた。「運命の人」という言葉が、あまりにも夢物語のように聞こえたのだ。

奈々子の結婚式当日、華やかな式場の中、真由美は一人、祝福の笑顔を浮かべていた。奈々子は白無垢姿で、まさに輝いていた。隣に立つ新郎の顔には、満面の笑みが浮かんでいる。二人の姿を見ていると、確かに「幸福」そのものが目の前にあるように思えた。しかし、心の奥底では疑問が膨らんでいく。

「恋愛が必ず結婚という扉を開くとは限らない。もし違う道があるとしたら、私はそれを探しているのかもしれない」と、真由美は心の中で思った。

結婚式の帰り道、真由美は新宿駅のホームで電車を待っていた。行き交う人々の中で、彼女の心はどこか空虚だった。幸福とは何か。恋愛を経て、結婚に辿り着くことが本当にその答えなのだろうか?

その時、ふと隣に座っていた男性が彼女に声をかけた。

「今日、結婚式に出席されたんですか?」

真由美は驚いたが、振り向くと、その男性も礼服を着ており、どうやら同じ会場で式に参加していたようだった。

「ええ、友達の結婚式で。あなたもですか?」

「はい。新郎の同僚です。でも、結婚ってやっぱり不思議ですよね。恋愛があれば結婚に繋がるのか、それとも違う何かが必要なのか、まだ僕にはよく分かりません。」

その言葉に真由美は驚いた。まさに自分が感じていた疑問を、そのまま口にされた気がした。

「私も、同じことを考えていました」と、彼女は微笑みながら答えた。

「そうですか。恋愛が幸福な結婚に繋がると誰もが信じているけれど、それが本当に全てなのかは分からないですよね。」

二人はそのまま電車に乗り込み、隣同士に座った。見知らぬ者同士だったが、互いに同じ疑問を抱えているという共通点が、自然と会話を弾ませた。彼の名前は田中亮太。真由美と同じ年で、結婚に対しても恋愛に対しても、まだ模索中のようだった。

「僕は、恋愛はもちろん大切だと思うけれど、結婚にはそれ以外の要素がたくさんあるんじゃないかと思うんです。信頼とか、互いに支え合う気持ちとか。恋愛はその入口に過ぎないのかもしれません。」

その言葉に、真由美は心の中で何かが解けるような感覚を覚えた。そうだ、恋愛が全てではない。恋愛だけでは結婚の扉を開けないこともある。むしろ、恋愛が扉を開けたとしても、その先にあるのは別の何かだと気づかされた。

「私もそう思います。恋愛だけに頼るのは、ちょっと怖いですよね。もっと他の要素があってこそ、結婚という扉が真に開くのかもしれません。」

亮太は頷き、真由美に向かって穏やかな笑みを見せた。その瞬間、真由美の心に一筋の光が差し込んだ。今まで彼女は、恋愛が結婚の全てだと思い込み、その枠に自分を閉じ込めていた。しかし、亮太との会話を通じて、その枠が崩れ始めていたのだ。

それから数ヶ月が経ち、真由美と亮太は時折連絡を取り合うようになった。お互い忙しい日々を送りながらも、ふとした瞬間に相手を思い出す。恋愛に急ぐことなく、自然と心の距離が縮まっていった。

ある日、真由美は亮太と一緒にカフェで話しているとき、不意に彼が問いかけた。

「もし、僕たちがこのまま恋愛に発展しなかったとしても、友達でいられると思いますか?」

真由美は少し驚いたが、すぐに笑顔で答えた。

「もちろん。私たちはもう、恋愛だけに頼らない関係だから。」

亮太もその答えに満足そうに微笑んだ。二人は恋愛という枠組みを越え、互いに信頼し、支え合える関係を築きつつあった。

結婚という扉はまだ遠い未来にあるかもしれないが、真由美はその扉の前で迷うことはなくなった。亮太との関係を通じて、恋愛が幸福な結婚に通じる道の一つであることに気づき、そしてそれが全てではないという新しい視点を得たのだ。

扉の先には、まだ見ぬ未来が広がっている。しかし、真由美はその未来に対して、不安よりも希望を感じていた。恋愛は確かに扉を開くきっかけであり、その後に続く道は、自分たちがどのように築いていくか次第なのだ。







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