いとなみ

君と彼の狭間で

「君と彼の狭間で」

17歳の夏、私の人生はひとつの秘密によって揺れ動いた。私が初めて人を愛したのは、その夏だった。そして、その相手は、決して愛してはいけない人だった。彼の名前は大地。親友の真奈美の彼氏で、誰もが憧れるような存在だった。彼の優しい笑顔、気さくな性格、そして何よりも真奈美を心から大切にする姿勢に、私はいつの間にか心を奪われていた。

真奈美とは小学校からの親友だった。彼女は明るく、誰とでもすぐに仲良くなれる性格で、私は内気な自分とは対照的だった。彼女はいつも私を支えてくれた。高校に入ってからもその関係は変わらず、私は彼女に助けられ、彼女を慕い続けていた。

大地と真奈美が付き合い始めたのは、高校2年の春だった。彼はサッカー部のエースで、明るくて誰にでも優しい。その優しさが私の心に刺さるようになったのは、彼らが付き合い始めてから数ヶ月後のことだった。放課後、真奈美と大地が一緒に帰る姿を見るたびに、私はその光景を見ないふりをしながら、心の中で自分を責めていた。

大地の視点
彼女たちが親友同士であることは知っていた。真奈美はいつも楽しそうに彼女の話をしてくれた。彼女の内気で少し控えめなところが、真奈美にはない特別な魅力に思えた。真奈美と一緒にいるとき、彼女が話題に上ることが多く、俺も自然と彼女に興味を持つようになっていた。真奈美は明るく、いつも周囲を盛り上げてくれる存在で、俺もそんな彼女を愛していた。だけど、彼女の影にいつもいる、静かで繊細な親友の姿が気になって仕方なかった。

ある日、真奈美が体調を崩して学校を休んだ。放課後、俺は彼女に「真奈美のノートを届けてほしい」と頼んだ。二人きりで真奈美の家に向かう道中、彼女は緊張しているようで、会話はぎこちなかったが、それでも不思議と心地よかった。彼女が普段どんなことを考えているのか、どんな気持ちで俺たちを見ているのか、その時はまだ知る由もなかったけれど、彼女の静かな存在感は俺にとって安らぎのようなものだった。

真奈美の家に着くと、彼女は部屋の窓から手を振っていた。彼女はノートを届けて、その場を去ろうとしたが、俺は無意識に「もう少し一緒にいよう」と言いかけていた。何故だか分からないけれど、その一瞬で彼女の存在がもっと知りたくなったのかもしれない。しかし、彼女はその申し出を聞くことなく、「またね」とだけ言って笑って去って行った。その笑顔が何故か寂しそうに見えたのは気のせいだろうか。

再び主人公の視点
それから私は大地を避けるようになった。大地も最初は声をかけてくれたけれど、次第に私の態度に気づいたのか、彼も少しずつ距離を取るようになった。それが私には正しいことだと思えた。彼への気持ちを隠し通さなければ、真奈美を裏切ることになる。それが怖かった。

ある日の放課後、屋上で泣いている私を見つけた大地が、何も言わずに隣に座った。「どうしたの？」と尋ねる彼に、私は何も答えられず、ただ涙を流した。彼はそっと肩を抱き寄せてくれた。私はその温もりに一瞬だけ甘えたが、すぐに体を離した。彼の優しさに触れるたび、私は自分の気持ちを抑えきれなくなりそうで怖かった。

「大丈夫、君なら大丈夫だよ」と彼が言ってくれたその言葉が、私の心に刺さった。それは私が欲しかった言葉だったけれど、同時に聞きたくなかった言葉でもあった。彼の優しさが、私の心の中の何かを崩していった。彼を好きになってはいけない、でも、彼のそばにいたいという矛盾した気持ちに苦しむ私を、彼は何も知らずにただ抱きしめてくれた。

結末の余韻
夏が過ぎ、秋が訪れた頃、私は大地への気持ちを胸に秘めたまま、日々を過ごしていた。真奈美と大地は今でも仲良く、二人の笑顔を見ていると、私の胸はまだ少し痛んだ。それでも私はその痛みを受け入れることにした。彼を愛したこと、それは私にとって大切な記憶であり、もう戻ることのない過去の一部だった。

数年後、私は大学進学のためにこの街を離れることになった。真奈美と大地とは連絡を取り合うことは少なくなっていったが、たまにSNSで二人の幸せそうな姿を見るたびに、私は心の中でそっと応援していた。彼らの幸せが、私の未練を静かに消し去っていくように感じた。

社会は変わり続け、高校時代の悩みや苦しみは、大人になった今では小さなことに思える。しかし、あの時の大地への初恋は、私にとって忘れられないものであり、私を少しずつ強くしてくれた。高校の屋上で泣いたあの日、彼の温もりに触れた記憶は、今でも私を支えてくれている。誰かを愛することの痛みと喜びを教えてくれた、大切な時間だった。

真奈美と大地のことは、もう遠い昔の思い出だ。でも、あの夏に感じた感情は、私の中でずっと生き続けている。彼を愛したこと、そして彼との一瞬の触れ合い、それは私の心に静かに刻まれ、今でも小さな灯火のように私を照らしている。