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春秋花壇

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17歳の相思相愛

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17歳の相思相愛
新学期の始まりを告げるベルが鳴り響くと、校庭の桜が咲き誇る春の香りが風に乗って教室に流れ込んできた。高校二年生になったばかりの朝日奈悠真(あさひな ゆうま)は、教室の片隅から彼女の姿を探していた。彼女の名前は小倉結(おぐら ゆい)。同じクラスにいるにもかかわらず、悠真はまだ彼女にまともに話しかけたことがなかった。

「おはよう、結ちゃん!」と友人たちの声が響き渡る。結はいつも通りの明るい笑顔でクラスメイトに挨拶を返していた。その姿を見ているだけで、悠真の胸は高鳴り、どうしようもない緊張感に包まれた。

実は、悠真と結は幼馴染だった。小学生の頃から家も近所で、毎日のように遊んでいた。放課後はお互いの家を行き来し、近所の公園で鬼ごっこやかくれんぼをして時間を過ごした。特に、結が得意だったのは縄跳びで、彼女は何度も跳び続けるたびに悠真に「見て見て!」と笑顔を向けた。悠真はその度に「すごいな、結!」と応えて、二人は無邪気に笑い合ったものだ。

ある日のこと、小学校の運動会で結がリレーのアンカーを任されたことがあった。彼女は小柄だったが、その速さはクラスメイトの中でも一番だった。運動会の日、悠真は彼女の走る姿を心の底から応援していた。結がバトンを受け取り、一気に先頭に立った瞬間、悠真は思わず「頑張れ、結!」と声を張り上げた。結はその声に応えるように、ゴールへと駆け抜けた。見事な走りでクラスは優勝し、結は満面の笑みで悠真に向かって手を振った。その瞬間、悠真は自分の胸が熱くなるのを感じていた。

しかし、中学に入ると、お互いに新しい友人ができて、自然と距離ができてしまった。中学生の頃、結は部活動で忙しくなり、悠真も勉強や部活に追われる日々が続いた。次第に、放課後一緒に過ごす時間は減り、会話も少なくなっていった。気づけば、昔のように無邪気に笑い合うことができなくなっていた。

そして高校に入学したとき、二人は再び同じクラスになった。しかし、昔のように自然に話しかけることはできず、悠真は心の中で彼女との距離を感じていた。結と目が合うたびに、あの小学生の頃の楽しかった思い出がよみがえるが、同時にそれが遠い過去のもののようにも感じていたのだ。

そんなある日、放課後の帰り道で、悠真は偶然にも結と二人きりになった。夕焼けが町をオレンジ色に染める中、二人の影が道に長く伸びている。

「久しぶりだね、こんな風に一緒に帰るの」結がふと口を開いた。

「うん、そうだね…」悠真はぎこちなく笑い返すが、心の中では何を話せばいいのか全く分からなかった。彼女と一緒にいる時間が愛おしい反面、どう接していいのかが分からない自分に苛立ちを感じていた。

沈黙が続く中、結が小さくため息をついた。「私たち、なんでこんなに距離ができちゃったんだろうね。昔はもっと…自然に話せたのに。」

結の言葉が胸に刺さる。悠真も同じことを思っていたのだ。しかし、それを言葉にする勇気が出なかった。ずっと一緒にいた幼馴染が、いつの間にか好きな人になっていた。そして、その感情に気づいたときには、どうしても素直に振る舞えなくなっていた。

「俺も、同じこと考えてたんだ…」悠真はぽつりと言った。その声は小さく、かすかな風に消えてしまいそうだったが、結はしっかりと聞いていた。

「そっか。なんか、安心した。」結は少しだけ照れたように微笑んだ。「私ね、ずっと悠真君とちゃんと話したかったんだ。」

その言葉に、悠真の心は一瞬で温かくなった。彼女も同じ気持ちでいてくれたのだと知り、自然と笑みがこぼれた。

「俺もだよ、結。ずっと、話したかった。」悠真の声は今度はしっかりとしていた。まるで、自分の中に溜まっていた感情がすべて言葉になったかのように。

二人はそのまま無言で歩き続けたが、今度はぎこちない沈黙ではなく、心地よい静けさがそこにあった。桜の花びらがひらひらと舞い落ち、二人の間を通り抜ける。その風景はまるで、二人を祝福しているかのようだった。

やがて、結の家の前にたどり着くと、彼女はふと立ち止まり、悠真に向き直った。「ねえ、悠真君。私たち、また前みたいに戻れるかな?」

悠真は結の瞳をまっすぐに見つめた。彼女の目には不安と期待が混ざっているのが見て取れた。悠真はゆっくりと頷き、決意を込めて言った。

「うん、戻れるよ。でも、それだけじゃなくて…もっと、今よりも近くなりたい。」

その言葉に結は驚いたように目を見開いたが、すぐにその表情は柔らかい笑顔に変わった。「私も…そう思ってた。」そう言うと、結は少しだけ頬を赤らめて、はにかんだように笑った。

悠真の胸は熱くなり、次第に言葉が見つからなくなった。しかし、その場の空気は確かに変わっていた。お互いの気持ちがようやく通じ合ったことを感じていた。

新たな一歩
翌日、悠真はこれまでと同じように教室に入った。しかし、いつもと違うのは、結の笑顔が彼に向けられていたことだ。二人の間には、昨日までの壁はもう存在しなかった。

放課後、また一緒に帰る約束をしていた二人は、校門を出た後、自然と隣に並んだ。今日は沈黙なんてもう怖くない。二人はどんな話でも、たわいないことでも、心から楽しんでいた。

「ねえ、今度一緒に海に行こうよ。」結が突然言い出した。以前、彼女が幼い頃から大好きだった場所だと聞いたことがある。

「いいね、行こう。」悠真は笑って応えた。「あの頃みたいに、ずっと一緒にいたいから。」

結はその言葉に嬉しそうに頷いた。二人は並んで歩きながら、これから先のことを話し合った。夢の話、将来のこと、そして今感じている気持ちを互いに伝え合った。

17歳の春、相思相愛の二人は新しい一歩を踏み出した。まだ不確かな未来が待っているかもしれないが、それでも今、二人は同じ道を歩んでいる。その事実だけで、どこまでも行ける気がしていた。
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