いとなみ

ごみ屋敷の夜

ごみ屋敷の夜

蒼い街灯が灯る夜道を歩きながら、田中は心の中で葛藤していた。クラブで出会った美しい彼女、由紀は彼にとってまるで星のような存在だった。彼女の笑顔は魅力的で、彼の心をつかんで離さなかった。今日はデートの後、彼女を自宅まで送ることになっていたが、田中はちょっとした不安を抱えていた。

「もうすぐ着くわよ。」由紀が優しく微笑みながら言った。

「うん、ありがとう。楽しみにしてるよ。」

マンションのエレベーターが静かに音を立てて、階を上がる。田中はドアの前で軽く息を整え、由紀が鍵を取り出すのを見守った。心の中で、何も問題がないことを願っていた。

「それじゃ、どうぞ。」由紀がドアを開けた。

田中が部屋の中に入った瞬間、彼の目は驚きに見開かれた。部屋の中は予想外の光景が広がっていた。床には数か月前の食べ物が散乱し、袋に入ったゴミが山積みになっていた。壁に掛けられたカーテンはほこりだらけで、家具も同じく古びている。部屋全体がまるで物の海のように見え、普段の彼女の姿からは想像もできない状態だった。

「こ、これ…」田中は言葉を失った。

由紀は慌てて笑顔を作り、「ごめんなさい、最近忙しくて掃除ができてなくて…」と、恥ずかしそうに説明した。

「い、いえ、気にしないで。」田中は戸惑いながらも、その場の空気を和らげようと努めた。「大丈夫だよ。」

由紀はリビングの奥のソファに腰掛け、田中もそっとその隣に座った。彼はどうにかして会話を続けようとしたが、部屋の状態に気が散り、どうしても集中できなかった。

「最近、どんな音楽を聴いてるの？」田中は話題を変えようとした。

「えっと…最近はあまり聴けてないの。掃除とか仕事で忙しくて。」由紀が少し気まずそうに答えた。

田中はその言葉にしばらく無言で頷いた。彼の心の中では、由紀に対する尊敬の念が少しずつ薄れていくのを感じていた。しかし、彼はまだそのことを直接口にする勇気が持てなかった。

しばらく沈黙が続き、田中は「飲み物でも？」と提案した。由紀は立ち上がり、冷蔵庫へ向かった。田中は彼女の背中を見守りながら、部屋の散らかり具合を再確認していた。やはりこの状態では、これ以上の会話は難しいと感じていた。

由紀が飲み物を持って戻ると、彼はどうにかして穏やかに振る舞うよう努力した。二人は、できるだけ楽しい時間を過ごそうとしたが、会話はぎこちなく、部屋の乱れが気になって仕方がなかった。

「実は、今日のデートは楽しかったよ。」田中が何とか言葉をつなごうとした。「また遊びに行こう。」

「うん、ありがとう。」由紀が微笑んだが、その笑顔には少しの悲しみが見え隠れしていた。

夜が深まるにつれて、田中は帰る決断をした。「そろそろ帰らなきゃ。ありがとう、由紀。」

由紀は立ち上がり、「送るわけじゃなくてごめんなさいね。」と、小さな声で謝った。

「いいんだよ。気にしないで。」田中は優しく微笑んだが、心の中では彼女との関係に対する複雑な感情が渦巻いていた。

部屋を出た後、田中はしばらくの間静かに歩きながら考えた。彼女が抱える問題や生活の厳しさを理解しようと努めたが、どうしてもその衝撃からは逃れられなかった。部屋の乱れは彼の心に深い影響を与え、彼はこのまま関係を続けていくべきかを真剣に考え始めていた。

結局、田中は由紀の部屋の光景に対する戸惑いと、それでも彼女を理解しようとする気持ちの間で揺れ動きながら帰路に着いた。彼の心の中では、これからの関係がどうなるのか、まだ答えが見つからなかった。