いとなみ

春秋花壇

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新しいスタート

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新しいスタート

夏休みの終わり、15歳の紗良は部屋の窓から夕焼けを眺めていた。赤やオレンジ、ピンクの色が空に広がり、まるで絵画のような景色だった。風がそよそよと吹き、カーテンが揺れる。その風が紗良の髪をそっと撫で、明日から始まる新学期への期待を胸に膨らませた。

「もう夏休みも終わりか…」

紗良は心の中でそうつぶやいた。夏休み中、部活や友達との時間も楽しかったけれど、学校での新しい出会いや出来事を心待ちにしていた。特に彼のことを考えると、胸が高鳴った。彼の名前は蓮。クラスメートであり、同じ委員会に所属しているが、二人きりで話すことはあまりなかった。

夏休み中にSNSで少しだけメッセージのやりとりをしたけれど、学校ではどんな顔をすればいいのか、少し不安だった。でも、その不安も、どこか心地よい緊張感に変わっていた。蓮ともっと仲良くなりたい、話したい。そんな思いが胸の奥でくすぶっていた。

翌朝、紗良はいつもより早く目が覚めた。寝不足だったはずなのに、不思議と目覚めが良い。鏡の前で髪を整え、制服に袖を通す。少しでも可愛く見られたいと、慣れない手つきで髪を巻き、リップをひと塗りする。母に見つからないようにコソコソと支度を整え、部屋を出た。

「行ってきます!」

元気よく玄関を飛び出し、自転車にまたがった。学校までの道のりは、見慣れた風景だったけれど、今日はなんだか少し違って見えた。道端の花が輝いて見えたり、風が優しく吹いたり。そんな些細なことが、紗良の心をさらに弾ませた。

学校に着くと、友達の美咲が手を振って待っていた。美咲は明るくて、誰にでも優しい性格で、紗良にとって大切な友達だった。

「おはよう、紗良! なんか今日、いつもより可愛いじゃん!」

「え? ほんと? 嬉しい!」

褒められて少し照れながらも、紗良は内心ドキドキしていた。もしかしたら、蓮も気づいてくれるかもしれない。そんな期待を胸に、美咲と一緒に教室に向かった。

教室に入ると、すでにクラスメートたちが集まり、夏休みの思い出話で盛り上がっていた。蓮の姿もすぐに見つけた。彼は教室の後ろの席で友達と談笑していた。紗良は思わず目が合いそうになり、慌てて目をそらした。

「どうしよう、どうしよう…」

紗良は自分の席に座り、心の中で小さく呟いた。その時、蓮がゆっくりとこちらに向かって歩いてくるのが見えた。紗良の心臓はドキドキと速くなり、緊張で息が詰まるような感覚に襲われた。

「おはよう、紗良。夏休み、どうだった?」

蓮は紗良の隣に立ち、自然な笑顔で話しかけてきた。紗良は驚きながらも、必死に平常心を保とうとした。

「おはよう、蓮! 夏休みは…まぁ、普通に楽しかったかな。蓮は?」

「俺もまあまあだったよ。でも、休みが長すぎるとやっぱり退屈だよな。だから、今日から学校始まってちょっと嬉しい。」

蓮の言葉に、紗良は心の中で頷いた。自分も同じ気持ちだったからだ。新しいことが始まる予感、それが紗良をわくわくさせていたのだ。

「そうだね。私も学校が始まるの、なんだかんだで楽しみだった!」

自然に会話が続くことが嬉しくて、紗良は蓮と笑い合った。少しずつ、彼との距離が縮まっていく感覚があった。

その日の放課後、紗良は一人で中庭にいた。お気に入りのベンチに座り、風に揺れる木々の音を聞きながら、蓮との会話を思い出していた。あの時の笑顔や、少し照れたような蓮の仕草が、何度も頭の中をよぎる。

ふと、背後から足音が聞こえて振り返ると、そこにはまた蓮の姿があった。彼は少し息を切らしながら、紗良の元へとやってきた。

「紗良、ここにいたんだ。さっきまで教室で探してたんだよ。」

「え、私を?」

「うん。ちょっと話したいことがあってさ。」

蓮は少しだけ視線を下に向けた後、目をしっかりと紗良に向けた。その表情には、どこか決意のようなものが感じられた。

「紗良…俺、君ともっと話したいんだ。もっと…仲良くなりたいって思ってる。」

紗良の心は一瞬で熱くなった。言葉が出なくて、ただ頷くことしかできなかった。彼もまた、同じ気持ちだったのだと知り、嬉しさで胸がいっぱいになった。

「私も…私もそう思ってた。」

それだけの言葉だったが、二人の間に流れる空気は温かくて、やわらかかった。蓮は満足げに笑い、隣に座った。そして、二人はこれからのことを話し始めた。まだ具体的な約束はないけれど、お互いの存在が大きくなることを感じていた。

新しい学期、新しい日々。そして、蓮との新しい関係。それは紗良にとって、かけがえのない宝物になると確信していた。わくわくとした気持ちが、これからもずっと続いていくように。
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