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春秋花壇

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お菓子は心を豊かに

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お菓子は心を豊かに

薄暗いカフェの中、私は窓辺の席に座っていた。店内には、季節の変わり目を感じさせる温かな色合いの照明が灯り、ふわりとした甘い香りが漂っていた。目の前には、一皿のお菓子と一杯の紅茶が置かれている。その香りとともに、私の心に浮かぶのは、あの日の彼の言葉だった。

「お菓子は心を豊かにするんだ」と彼は言った。そう、彼はお菓子が大好きだった。その言葉とともに、彼との思い出が蘇ってきた。

私たちは大学のキャンパスで出会った。彼の名前は大輔、そして彼は甘いものをこよなく愛していた。ある日、彼が私にその言葉を言ったのは、図書館の帰り道だった。彼が突然、カバンから小さな袋を取り出して、私に差し出した。「これ、君に」と笑顔で言うのだった。

中には、手作りのクッキーが入っていた。サクサクとしたその食感と甘い香りは、彼の気持ちをそのまま反映しているようで、私の心を温かく包み込んでくれた。

「お菓子は心を豊かにするんだよ」と彼が言ったその時、私は彼の目の奥に、深い情熱と優しさを感じた。お菓子が単なる食べ物ではなく、彼にとっては感謝や愛情を表現するための手段だったのだと理解した。彼の言葉には、ただの甘いもの以上のものが込められていると感じた。

その後も、私たちはたくさんのお菓子を一緒に作り、食べた。春には桜の花びらを使ったクッキーを、夏にはフルーツタルトを、秋には栗のケーキを、冬にはチョコレートのトリュフを。どれも彼が喜んでくれるようにと、心を込めて作った。お菓子を作ることは、私たちにとっての一つの楽しみであり、また愛を育むひとときだった。

私たちが過ごした時間は、まるで甘いシロップに包まれているようで、どんなに辛い時でも、その甘さが私たちを支えてくれた。彼が「お菓子は心を豊かにする」と言ったその理由が、次第に私にもわかってきた。お菓子を作ることで、私たちはお互いの心を少しずつ開いていった。笑顔でいっぱいの時間が、私たちを繋げてくれるように思えた。

しかし、彼が突然、遠くの都市に転勤となった時、私たちの生活は一変した。距離が生まれ、毎日のように会うことはできなくなった。お互いの生活は忙しくなり、お菓子作りの時間も少なくなっていった。寂しさが募り、私の心は次第に空虚になっていった。

ある日、彼が帰ってくる日が決まった。私は彼に会えることが嬉しくて、久しぶりに一緒にお菓子作りをしようと思った。彼の好物、チョコレートケーキを作ることに決めた。レシピを見ながら、彼が喜んでくれる顔を思い浮かべながら、心を込めて焼いた。

そして、彼が帰ってきた日。私は彼の家のドアをノックした。彼がドアを開けると、彼の顔に浮かんだ笑顔は、私が作ったケーキの甘さ以上に輝いていた。彼は私を優しく抱きしめ、深い感謝の言葉を口にした。

「お菓子は心を豊かにする」と彼が言ったとき、その意味がますます深く理解できるようになった。お菓子はただの甘いものではなく、私たちの心を繋げ、愛を育むための大切な要素だった。そして、その瞬間が私たちの愛を再確認させるものであった。

私たちはケーキを一緒に食べながら、久しぶりに穏やかな時間を過ごした。お菓子が、私たちの心に甘い記憶を刻み込み、互いの愛を深める手助けをしてくれた。これからも、どんなに遠く離れても、この甘さを忘れずに、大切にしていこうと思った。

お菓子の甘さとともに、彼との幸せな時間が私の心に豊かさを与え続けてくれることを願いながら、私は彼との新たな日々を楽しみにしていた。






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