いとなみ

彼のポテンシャル

彼のポテンシャル

麻美は、都心のカフェの窓際の席に座っていた。窓越しに見える街路樹は、夏の日差しを浴びて青々と輝いている。窓を開け放つと、どこかから吹き抜けてきた風が、彼女の髪をそっと揺らした。テーブルには彼女の手元に広げられた書類と、半分ほど飲んだコーヒーカップが置かれている。カフェの柔らかな照明が、落ち着いた雰囲気を醸し出しており、外の喧騒とは対照的な静けさが漂っていた。

麻美は、静かに溜息をつきながら目の前のリストに目を落とした。次のプロジェクトでチームを構成するにあたり、候補者たちの名前が並んでいる。ふと彼女の目に止まったのは、「高橋大輔」という名前だった。

高橋はまだ入社して2年目だが、その意欲と熱心さは誰もが認めるところだった。麻美は彼がミーティングで真剣な表情を見せながら、上司や同僚の意見に耳を傾けている姿を思い浮かべた。彼の瞳にはいつも強い意志が宿っており、それが彼の成長を支えてきたのだろう。

翌日、オフィスの窓から差し込む朝の柔らかな光が、大輔の机を照らしていた。彼が資料を整理している姿を見かけた麻美は、彼のところへ足を運び、プロジェクトへの参加を提案した。

「俺ですか？本当に僕でいいんですか？」と大輔は驚きながらも、目の奥には興奮と期待が交じり合った光が見えた。

麻美はその瞳を見つめながら、静かに微笑んだ。「もちろんよ。あなたならきっと、素晴らしい成果を上げられると信じているから」

大輔は少し照れたように笑い返し、「頑張ります！」と力強く答えた。その瞬間、オフィスの窓の外では、初夏の風が新しい葉を揺らし、明るい未来を予感させるような空気が流れていた。

プロジェクトが始まり、忙しさが増す中で、二人は自然と信頼関係を深めていった。麻美が彼に細かい指導をするたび、大輔はその指摘を真摯に受け止め、自らの成長の糧としていった。彼が夜遅くまで残業をしているとき、麻美もまたオフィスの灯を消すことなく、共に頑張る姿がそこにあった。

ある日の夕暮れ、プロジェクトの節目となるプレゼンテーションが無事に終わった。オフィスビルの外には、オレンジ色の空が広がり、街の喧騒が徐々に静まっていく時間だった。チームメンバー全員が安堵の表情を浮かべる中、麻美は大輔にそっと声をかけた。

「少し話せる？」彼女は微笑みながら、大輔を近くのカフェへ誘った。カフェのテラス席に座り、コーヒーを飲みながら彼女は静かに感謝の気持ちを伝えた。「本当にありがとう。あなたのおかげでこのプロジェクトは成功したわ」

大輔は照れくさそうに笑いながらも、「いえ、麻美さんの指導があったからこそです。でも…」と少し躊躇しながら、言葉を続けた。「もっとできる気がするんです。自分に限界を感じたくないんです」

麻美は彼の目をまっすぐに見つめ、「あなたには無限の可能性があるのよ」と優しく言った。テラスに吹き抜ける風が、彼らの間に温かい空気を運んでいた。大輔はその言葉を心に刻み込みながら、初めて麻美の手をそっと握り返した。

そしてその夜、帰り道で大輔はついにその気持ちを言葉にした。「麻美さん、ずっと尊敬していました。でも今は…それ以上の気持ちを持っています」

麻美は一瞬驚いたが、やがて微笑みを返した。「私も同じよ。これからも一緒に成長していきたいわ」

二人はその夜、穏やかな風が吹く中、静かに歩き続けた。大輔のポテンシャルは、仕事だけでなく、その人間性や愛情にも現れていた。麻美はその全てを受け入れ、共に歩んでいく未来を見据えていた。