いとなみ

春秋花壇

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婚約者は茶番がお好き

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婚約者は茶番がお好き

麻衣は、自宅のリビングで一息つきながら、婚約者の大輔との日々を思い返していた。二人は大学時代に出会い、卒業後すぐに婚約した。大輔は優しくて面白い人だったが、麻衣には一つだけ気になることがあった。

大輔はお芝居が大好きで、しょっちゅう友人たちと演劇を楽しんでいた。麻衣も最初は一緒に楽しんでいたが、次第に大輔の「演劇好き」が度を越していることに気づき始めた。大輔はしばしば日常生活でも演技をしているかのような振る舞いを見せるのだ。

ある日、麻衣は友人の結婚式に大輔と出席した。式の最中、大輔は突然立ち上がり、周囲の視線を集めた。「皆さん、注目してください!」と声を上げ、何かのセリフを口にし始めた。

麻衣は顔を赤らめながら、大輔の袖を引っ張った。「やめて、大輔。これは結婚式よ、茶番じゃないの」と小声で言った。しかし、大輔は気にせず、演技を続けた。

その後、麻衣は大輔に真剣に話し合うことを決意した。「大輔、私たちの関係が演劇の一部になっているように感じるの。もう少し現実に向き合ってほしいの」と切り出した。

大輔は驚いた表情を見せたが、すぐに笑顔に戻った。「麻衣、僕の演技が君を困らせていたなら謝るよ。でも、僕にとって演劇は生きがいなんだ」と真剣な眼差しで答えた。

麻衣はその言葉に少し心を動かされたが、やはり不安は拭いきれなかった。彼の「茶番好き」が彼らの関係に影響を与えるのではないかと心配だったのだ。

ある晩、麻衣は大輔が寝ている間に手紙を書いた。「大輔、あなたを愛しているけれど、私たちの関係が現実でなければ続けるのは難しい。私たちが本当に向き合えるかどうか、一度冷静に考えてみてほしい」と書き残し、実家に戻った。

数日後、大輔からの電話が鳴った。「麻衣、話がある」と静かな声で言われた。麻衣は少し不安になりながらも、約束の場所に向かった。

公園のベンチに座っていた大輔は、麻衣を見ると立ち上がり、真剣な表情で話し始めた。「麻衣、君がいなくなってから自分の行動を振り返ってみた。僕の演劇好きが君を困らせていたこと、本当に申し訳ない。でも、僕は変わるつもりだ。君のために、本当の意味での現実に向き合いたいんだ」と言った。

麻衣はその言葉に涙がこぼれた。「大輔、ありがとう。私もあなたを信じたい。これからはお互いに支え合って、現実の中で幸せを見つけましょう」と答えた。

その日から、二人は新たなスタートを切った。大輔は演劇への情熱を維持しながらも、日常生活では真剣に麻衣と向き合うようになった。麻衣も大輔の情熱を理解し、時には一緒に演劇を楽しむことを学んだ。

二人の関係は、演劇と現実のバランスを取りながら、より強固なものとなった。麻衣は、大輔の「茶番好き」もまた彼の一部であり、それを受け入れることができるようになったのだ。


最近、麻衣は少し心配なことに気づいていた。大輔の隣にはいつも別の女性がいるようになったのだ。その女性、沙織は大輔の演劇仲間であり、彼の一番の理解者のようだった。

ある日、麻衣は大輔と沙織が一緒にいる姿を見かけた。彼らは楽しそうに笑い合い、演劇について熱心に話し込んでいた。麻衣はその光景を見て胸が痛んだ。

「大輔、最近沙織さんと一緒にいることが多いね」とある晩、麻衣は慎重に話を切り出した。

大輔は一瞬戸惑ったが、すぐに答えた。「そうだね。沙織は僕の演劇のパートナーであり、彼女と一緒にいると本当に楽しいんだ。でも、麻衣、誤解しないでほしい。沙織はただの友人で、君との関係を大切にしていることに変わりはないんだ」と彼は真剣に説明した。

しかし、麻衣の不安は消えなかった。彼女は心の中で、沙織との関係がただの友人関係にとどまっているのか疑問に思っていた。

ある日、麻衣は大輔の劇団の公演を観に行くことにした。彼女は公演後、大輔に話しかけようと思っていたが、彼と沙織が舞台裏で抱き合っているのを目撃してしまった。麻衣の胸は再び痛んだ。

その夜、麻衣は家に帰ると、大輔にメッセージを送った。「大輔、話があるの」と短く書き込んだ。

次の日、大輔は麻衣の家を訪ねた。彼の顔には困惑の色が浮かんでいた。「麻衣、何があったの?昨日の公演を見に来てくれてありがとう。でも、何かあったみたいだね」と彼は尋ねた。

麻衣は深呼吸をし、意を決して話し始めた。「大輔、正直に言って、最近あなたと沙織さんの関係が気になっているの。昨日、舞台裏で抱き合っているのを見てしまった」と言った。

大輔の表情が一瞬曇ったが、すぐに真剣な眼差しに変わった。「麻衣、それは誤解だよ。沙織とは本当にただの友人だ。昨日の抱擁は、公演の成功を祝ってのことだったんだ。僕は君を愛しているし、君との関係を壊すつもりはない」と力強く言った。

麻衣はその言葉に少し安心したが、まだ完全には信じきれなかった。「大輔、もし本当にそうなら、もっと私たちの関係に時間をかけてほしい。私もあなたの演劇を理解したいけど、今の状況では不安で仕方ないの」と涙声で言った。

大輔は麻衣の手を握りしめた。「わかったよ、麻衣。これからはもっと君と向き合う時間を増やす。そして、沙織にもきちんと話して、距離を置くようにするよ」と約束した。

その日から、大輔は麻衣との時間を大切にし、彼の演劇活動とバランスを取るように努めた。沙織も状況を理解し、大輔との関係を適切な距離で保つようになった。

麻衣は少しずつ、大輔との関係に自信を取り戻し、彼の演劇にも興味を持つようになった。二人は再び信頼と愛情を深めながら、新たな未来を築いていった。

この物語が、アルファポリスの読者に楽しんでいただけることを願っています。






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