いとなみ

ありえないなんて言わないで

ありえないなんて言わないで

大企業の重役である58歳の伊達健二（だてけんじ）は、誰もが認める成功者だった。しかし、彼の心の中には、ずっと満たされない孤独があった。そんな彼の前に現れたのは、22歳の美大生、山口茜（やまぐちあかね）だった。

健二と茜の出会いは、偶然だった。ある晩、健二は仕事のストレスを解消するため、美術館を訪れた。そこで、茜が描いた美しい風景画に心を奪われた。茜は、自分の作品に真剣に向き合う姿勢が印象的で、健二はその純粋さに惹かれたのだった。

二人は話をするようになり、やがて親しくなった。茜は、健二の成功や年齢には興味がなく、彼の人柄や芸術に対する情熱に共感した。一方の健二も、茜の若さや純粋さに癒され、次第に彼女に心を開くようになった。

「茜、君と話す時間が、僕にとってどれだけ貴重か分かるかい？」

ある日の夕暮れ、健二は美術館の中庭で茜にそう告げた。茜は笑顔で頷いた。

「私も、健二さんと話すのが楽しいです。いつも新しい視点を教えてくれるし、私の絵も褒めてくれるから。」

二人の関係は深まり、やがて恋愛へと発展した。しかし、周囲の反応は厳しかった。友人や家族からは、「そんな年の差なんてありえない」と言われることが多かった。

36歳差。

親子以上に違う年。

「年の差なんて関係ない、私たちが幸せならそれでいいじゃないか。」

健二は茜を守るために、そう強く言った。茜もまた、健二への愛情を決して揺るがすことなく、二人は困難を乗り越えようと決意した。

「健二さん、私はあなたと一緒にいることで、本当に幸せなんです。」

茜のその言葉は、健二にとって最大の励ましだった。彼女の笑顔を見るたびに、健二は自分の選択が正しかったことを確信する。

ある日、二人は美術館で行われる茜の個展の準備をしていた。展示される茜の作品は、どれも健二との思い出を描いたものばかりだった。

「この絵、健二さんとの初めてのデートを描いたんです。」

茜が指差す絵には、美術館の中庭で夕日を背景に並ぶ二人のシルエットが描かれていた。健二は、その絵を見て涙を浮かべた。

「茜、君は本当に素晴らしいアーティストだ。」

個展は大成功を収め、茜は多くの人々から称賛を受けた。しかし、茜にとって一番大切なことは、健二が隣にいてくれることだった。

「健二さん、ありがとう。あなたがいなかったら、こんなに頑張れなかった。」

茜は健二の手を握りしめ、そう言った。健二もまた、茜の手を強く握り返した。

「僕も、茜がいたからこそ、ここまで来れたんだよ。ありがとう。」

二人は互いの存在に感謝し、これからも共に歩んでいくことを誓った。年齢の差など関係なく、二人の愛は揺るぎないものとなっていた。

「ありえないなんて言わないで。私たちの愛は、本物だから。」

茜のその言葉に、健二は深く頷いた。彼らの未来には、まだまだ多くの困難が待ち受けているかもしれない。しかし、二人ならどんな壁も乗り越えられると信じていた。

あれから10年。68歳の伊達健二。32歳の茜。

二人の間には、９、７、５、３、1歳の5人の子供がいる。

毎朝、ラジオ体操に向かう7人の姿は、少子化とは無縁のようである。