いとなみ

感情労働の恋

感情労働の恋

佐藤美咲は、とある大手化粧品メーカーのカスタマーサポートセンターで働いていた。彼女の仕事は顧客からの問い合わせやクレームに対応することだった。毎日、笑顔で「ありがとうございます」と言うことが求められ、感情を抑えながら冷静に対応することが仕事の一環だった。

ある日、美咲は特に厳しいクレームに対応していた。相手は怒り狂った女性で、商品に対する不満を長々とぶつけてきた。美咲は何度も謝罪し、冷静に対応し続けたが、内心ではストレスが溜まり、涙が出そうになっていた。その日の業務が終わったとき、美咲はとうとう我慢の限界に達し、トイレに駆け込み、声を殺して泣いた。

そんな美咲を慰めたのは、同じ会社でエンジニアとして働く田中翔だった。翔は、美咲がトイレから出てくるのを待ち構え、無言で彼女にハンカチを差し出した。彼は美咲の気持ちを察し、何も言わずにそばにいてくれた。その静かな優しさが、美咲の心に染み入った。

翌日、美咲はまたいつものように笑顔を作り、業務に取り組んだ。しかし、心の中には翔の優しさが残っていた。美咲は徐々に翔に心を開き始め、ランチタイムに一緒に食事をするようになった。翔もまた、美咲の笑顔が本物である瞬間を楽しみにしていた。

ある日、美咲は翔に、自分の感情を抑えて笑顔でいなければならないことの辛さを打ち明けた。翔は静かに頷き、「感情を抑えるのは辛いことだけど、美咲の笑顔には救われる人がたくさんいるんだよ」と言った。その言葉に美咲は勇気づけられ、自分の仕事に対する誇りを再確認した。

季節は春から夏へと移り変わり、二人の関係も徐々に深まっていった。翔は、美咲が感情労働に疲れたときにはいつもそばにいて、彼女の心の支えとなった。美咲もまた、翔の優しさに触れることで、自分の感情を素直に表現できるようになった。

やがて、二人は一緒に過ごす時間が増え、互いの存在がかけがえのないものになっていった。ある日、美咲は仕事が終わった後、翔に呼び出された。翔は夜景の見える公園に美咲を連れて行き、そこで彼女にプロポーズをした。「美咲の笑顔が大好きだ。これからもずっと、君の笑顔を守りたい」と。

美咲は涙を浮かべながら、「はい」と答えた。その瞬間、二人の心が一つになったことを感じた。翔と一緒にいることで、美咲は感情労働の辛さを乗り越え、自分の本当の感情を大切にすることができるようになった。

彼らはお互いを支え合い、感情労働の世界で戦いながらも、愛情に満ちた幸せな日々を送ることができた。感情を抑えることが仕事の一部であっても、本当の感情を共有できる人がいることで、美咲は強く生きていけるのだった。

こうして、美咲と翔の愛の物語は、新たなページを刻み続けていった。