いとなみ

春秋花壇

文字の大きさ
上 下
755 / 1,108

沈黙の恋

しおりを挟む
「沈黙の恋」

リナは中学生の頃からコミュニケーション障害を抱えていた。言葉が思うように出てこないことで、友達との会話もままならず、学校生活は常に孤独だった。しかし、彼女には一つの楽しみがあった。それは図書室で過ごす時間だ。静かな環境で本を読むことが、彼女の心を落ち着かせてくれた。

ある日、図書室でいつものように本を読んでいたリナは、ふと目の前の席に誰かが座るのに気付いた。見上げると、そこには同じクラスのタクヤがいた。タクヤは無口で目立たない存在だったが、その優しい目にリナは心を引かれた。

次の日も、その次の日も、タクヤはリナの向かいに座り、本を読んでいた。二人の間には一言も交わされなかったが、その静寂が心地よかった。リナは次第にタクヤに対する気持ちが恋に変わっていくのを感じた。しかし、自分の障害が原因で、どうしてもその気持ちを伝えることができなかった。

ある日、リナが図書室でタクヤと顔を合わせたとき、タクヤはリナに小さなノートを差し出した。「これ、読んでみて」と短く言っただけで、また本に目を戻した。リナは驚きと不安を抱えながらノートを受け取り、その日の夜、家でページを開いた。

そこには、タクヤの心の内が綴られていた。彼もまた、コミュニケーションに困難を抱えており、人前で話すのが苦手だったこと、リナと同じ図書室で静かに過ごす時間が彼の唯一の安心できる場所だったこと、そして、リナに対して特別な感情を抱いていることが書かれていた。

リナはそのノートを読み終えた後、涙が止まらなかった。自分と同じように孤独を感じていた人が近くにいたこと、その人が自分に対して特別な感情を持っていたことが、嬉しくてたまらなかった。

次の日、リナは勇気を出して自分の気持ちをタクヤに伝えようと決心した。しかし、言葉にすることができず、彼女もまた一冊のノートを用意し、そこに自分の心を綴った。「私も同じ気持ちです。あなたと一緒に過ごす時間が、私にとって一番の幸せです。」

リナはそのノートをタクヤに渡すと、彼は驚いた表情を浮かべ、静かにノートを受け取った。そして、ページをめくりながら微笑み、「ありがとう」と短く言った。その一言が、リナの心を温かく包み込んだ。

それからというもの、二人はお互いの気持ちをノートを通じて伝え合うようになった。言葉がなくても、心が通じ合うことができるということを知り、リナとタクヤの絆はますます深まっていった。

高校に進学した後も、二人の関係は変わらなかった。リナは少しずつ言葉を紡ぐことができるようになり、タクヤもまた彼女の支えとなり続けた。二人の間には、言葉を超えた深い愛情が育まれていた。

そして、ある日、タクヤはリナにプロポーズした。リナは涙を浮かべながら「はい」と答え、その瞬間、二人の未来が輝き始めた。

言葉がなくても、心が通じ合うことができる。リナとタクヤの物語は、そんな奇跡を証明するものだった。








しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

生意気な女の子久しぶりのお仕置き

恩知らずなわんこ
現代文学
久しくお仕置きを受けていなかった女の子彩花はすっかり調子に乗っていた。そんな彩花はある事から久しぶりに厳しいお仕置きを受けてしまう。

おむつオナニーやりかた

rtokpr
エッセイ・ノンフィクション
おむつオナニーのやりかたです

女子高校生集団で……

望悠
大衆娯楽
何人かの女子高校生のおしっこ我慢したり、おしっこする小説です

同僚くすぐりマッサージ

セナ
大衆娯楽
これは自分の実体験です

意味がわかるとえろい話

山本みんみ
ホラー
意味が分かれば下ネタに感じるかもしれない話です(意味深)

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

処理中です...