いとなみ

好きと言えなくて……

好きと言えなくて……

高層ビルが立ち並ぶ東京のオフィス街。仕事に追われる日々を過ごしている中、私はいつも彼のことを考えていた。彼の名前は翔太。私の部署の先輩で、入社当時からずっと憧れている人だった。

しかし、私は内気な性格で、自分の気持ちをうまく伝えられない。何度も「好き」と言おうと思ったけれど、そのたびに心の中で言葉が絡まってしまう。だから、私はただ彼の隣で働くことに満足していた。

ある日の昼休み、オフィスの近くにある公園でランチを食べていると、翔太が隣に座ってきた。

「やあ、優香。今日は一緒にランチを食べてもいいかな？」

「もちろんです、翔太さん。」私は緊張しながらも笑顔を見せた。

「最近、仕事どう？忙しそうだけど、大丈夫？」翔太が優しく問いかける。

「うん、大丈夫です。翔太さんのおかげで色々教えてもらって助かってます。」

彼と話すたびに胸が高鳴る。だけど、言いたいことが喉まで来ても、どうしても「好き」と言えない。その日はただ普通の会話で終わった。

その夜、私は友人の美咲と電話をしていた。美咲は大学時代からの親友で、私の気持ちを唯一理解してくれる人だ。

「優香、また今日も翔太さんと話したの？でも、まだ気持ちを伝えてないの？」

「うん…。何度も言おうと思ったけど、どうしても言えないの。彼の前に立つと、言葉が出なくて…。」

「勇気を出して、優香。翔太さんもきっと気付いてるんじゃない？今度の飲み会で、少しだけ酔ってみたらどう？」

美咲の提案に、私は少し勇気をもらった。今度の金曜日には、会社の飲み会がある。少しだけお酒の力を借りて、翔太に気持ちを伝える決意をした。

飲み会の夜、私は少しだけワインを飲んでリラックスしようとした。しかし、緊張は消えない。翔太はいつも通り楽しそうに仲間と話していたが、私の方を何度も見ている気がした。

「優香、調子はどう？」翔太が私の隣に座ってきた。

「大丈夫です。翔太さんこそ、楽しんでますか？」

「うん、でもなんだか君が元気ないように見えるから、心配でね。」

彼の優しさに触れるたび、私はますます好きになってしまう。お酒の力もあって、少しだけ勇気が出た。

「翔太さん…、実は私…。」

言いかけたその時、同僚が話しかけてきて、中断されてしまった。私の心はまたしても言葉にできなかった。

その夜、帰り道で私は一人悩んでいた。どうしても「好き」と言えない自分が情けなくて、涙がこぼれた。その時、後ろから翔太が駆け寄ってきた。

「優香、待ってくれ！」

驚いて振り返ると、翔太が真剣な表情で立っていた。

「さっきの話、何か言いたいことがあったんだよね？」

私は言葉を失ったまま、彼の瞳を見つめた。心臓が早鐘のように打っている。

「うん…でも、どうしても言えなくて…。」

翔太は優しく微笑んで、私の手を取った。

「優香、君が何を言いたいか、わかってるよ。実は、俺も同じ気持ちなんだ。君のことが好きだ。」

その言葉を聞いた瞬間、私は涙が溢れた。嬉しさと驚きが混ざり合い、何も言えないまま彼を見つめた。

「翔太さん…、私も…好きです。」

ついに言葉にできたその瞬間、翔太は私を優しく抱きしめた。冷たい夜風が吹く中、彼の温もりが心に沁み渡った。

その後、私たちは静かに歩きながら、これまでのことやこれからのことを話した。好きと言えなかった自分に悔しさを感じていたけれど、翔太の言葉に励まされ、心から幸せを感じた。

これからも仕事は忙しいだろうけど、彼と一緒ならどんな困難も乗り越えられる。翔太の隣で、私は少しずつ自分の気持ちを素直に伝えられるようになっていく。好きと言えなかった時間があったからこそ、今の幸せを噛みしめることができるのだろう。

私たちの新しい日々が、これから始まる。