いとなみ

俺がお前と結婚しない理由

俺がお前と結婚しない理由

夕陽が沈む頃、東京の街は金色に輝き、ビルの窓がまるで宝石のように光っている。そんな風景をバックに、俺はカフェのテラス席に座っていた。向かいに座る彼女、麻美はコーヒーカップを手にしている。彼女の目は俺を見つめ、まるで何かを求めるかのように輝いている。俺は深呼吸をし、覚悟を決めた。

「麻美、今日は話したいことがあるんだ。」

麻美は微笑んだ。「何でも聞くよ、翔太。」

俺はしばらく黙っていた。どう言葉を選ぶべきか考えていたからだ。麻美は俺の幼馴染で、長い付き合いだった。俺たちはお互いの成長を見守り、時には支え合ってきた。そんな彼女に、俺がこれから言おうとしていることは、きっと傷つけるだろう。でも、俺には言わなければならない理由があった。

「俺、お前と結婚しないことにした。」

その言葉を聞いた瞬間、麻美の顔から笑顔が消えた。彼女の目は大きく開かれ、唇が震えている。俺はその瞬間、心が痛むのを感じた。でも、これは避けて通れない道だった。

「どうして？」麻美の声は震えていた。「私たち、ずっと一緒にいるって言ってたじゃない。何が変わったの？」

俺は視線をそらし、遠くのビルを見つめた。夕陽が完全に沈み、夜の帳が降り始めている。街の灯りが一つずつ点灯していく様子は、まるで俺たちの未来が一つずつ消えていくように思えた。

「麻美、お前と一緒にいることは、俺にとっても幸せだった。でも、結婚は違う。俺は、もっと自由でいたいんだ。」

麻美は黙って俺を見つめていた。その目には涙が浮かんでいる。俺は続けた。

「お前との未来を考えるとき、俺はどうしても不安になる。責任や期待が重く感じられるんだ。俺はまだ、自分の夢を追いかけたい。世界を旅して、新しいことを経験したい。結婚は、その自由を奪うものだと思ってしまうんだ。」

麻美は涙を拭いながら、「でも、私は翔太と一緒にいられれば、それで幸せだった。翔太の夢を支えたいと思ってた。」

「ありがとう、麻美。でも、それが俺にとっての幸せかどうかは別なんだ。お前には、もっと素晴らしい未来が待っているはずだよ。俺なんかより、ずっと良い人が現れるはずだ。」

麻美は俯き、しばらく沈黙が続いた。夜風が吹き、テラス席のカーテンが揺れる。俺たちの間には、もう何も残っていないかのような静けさが広がっていた。

「わかったよ、翔太。」麻美が顔を上げ、微笑もうとしたが、その笑顔は悲しみに満ちていた。「翔太の気持ちはわかった。でも、私はいつまでも翔太の友達でいたい。それだけは、変わらないで欲しい。」

俺はうなずき、「もちろんだよ、麻美。俺たちはずっと友達だ。お前は俺にとって、大切な存在だ。」

その夜、俺は麻美と別れた後、一人で街を歩いた。心の中には重い痛みが残っていた。だが、それでも俺は自分の選択が正しいと信じていた。自由を求める心と、彼女を愛する心の間で揺れ動いていたが、最終的に自分の道を選んだのだ。

数ヶ月後、俺は仕事を辞めてバックパック一つで世界を旅し始めた。新しい場所、新しい人々、そして新しい経験。俺は自分の夢を追いかけることに全力を注いだ。

一方、麻美は地元で新しい仕事を見つけ、少しずつ新しい生活を築いていった。時折、俺たちはメールや電話で連絡を取り合った。彼女は少しずつ、俺のいない生活に慣れていったようだった。

ある日、俺はヨーロッパの小さな街でふと、麻美のことを思い出した。彼女の笑顔、泣き顔、そして一緒に過ごした数々の思い出。俺はその瞬間、自分の選択が本当に正しかったのかと疑問に思った。

でも、どれだけ時間が経っても、あの夜に感じた気持ちは変わらなかった。俺は自由を求める心と彼女を愛する心の間で、やはり自由を選んだのだ。

「麻美、元気でいてくれ。」俺は心の中で呟き、再び旅を続けることにした。どこかでまた会える日が来るかもしれない。でも、その時はお互いにもっと成長した姿で、再会できることを願っていた。

俺が麻美と結婚しない理由。それは俺の心が自由を求めていたから。そして、その選択が俺たちの未来にとって最善だと信じていたからだ。麻美の幸せを祈りつつ、俺は自分の道を進んでいく。