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春秋花壇

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トンネルの先に見えた未来

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トンネルの先に見えた未来

トンネルの中に入ると突然彼は「あゝ淋しいなア。」と快活に叫んで僕の肩に腕を投げた。すると僕にも妙な遣瀬ない気持が浮んで、左程の不自然もなく彼の腕を荷ふて歩けた。

真夏の暑さから逃れ、涼しいトンネルの中を歩いていると、彼の言葉が余計に心に響いた。暗いトンネルの中、僕たちの足音だけが反響し、静寂の中に包まれていた。彼の腕の温かさが、なぜか僕の心をほっとさせた。まるで彼の孤独と僕の孤独が重なり合い、互いに癒しを求めているかのようだった。

「淋しいな。」彼がもう一度言った。

「そうだね。」僕は答えた。

僕たちはずっと友人として過ごしてきたが、この瞬間、彼の言葉が何か特別な意味を持っているように感じた。何かが変わろうとしている。そんな予感がした。

トンネルの先に光が見えてきた。出口が近い。彼の腕が僕の肩から離れるのが、なぜか名残惜しかった。

「外に出たら、またいつもの日常が戻ってくるんだね。」僕が言った。

「そうだね。でも、今日は特別な日だよ。」彼は笑った。

僕たちはトンネルを抜け、再び明るい日差しの中に出た。彼の腕が僕の肩から離れた瞬間、僕は胸の中にぽっかりと穴が開いたような気がした。でも、その穴は同時に何か新しい感情で満たされていた。

「どこか行きたいところある?」彼が尋ねた。

「君が行きたいところなら、どこでも。」僕は答えた。

僕たちは再び歩き始めた。街の喧騒の中でも、彼と一緒にいると不思議と落ち着く。彼の隣にいると、まるで時間が止まったような感覚になる。それが恋だということに、僕はまだ気づいていなかったのかもしれない。

僕たちはカフェに入った。静かな席に座り、彼と向かい合って話をした。彼の瞳の奥には、いつも何か深い感情が隠れている。それが何なのか、僕は知りたくてたまらなかった。

「君は、どうして淋しいって思うの?」僕は勇気を出して尋ねた。

彼は一瞬驚いたように僕を見つめた後、静かに微笑んだ。

「君も同じ気持ちを抱えているからさ。僕はそれを感じるんだ。」彼は答えた。

その言葉に、僕の心は大きく揺れた。彼は僕のことを理解してくれている。そして僕も、彼の孤独を感じ取っている。

僕たちはお互いの存在に慰めを見出していたのだろう。彼の言葉が、僕の心を温かく包み込んだ。カフェの中で交わす言葉の一つ一つが、僕たちの距離を縮めていく。

夕方になり、カフェを出ると街は夕焼けに染まっていた。彼の横顔が赤く照らされ、その美しさに息を飲んだ。僕は、自分の中に芽生えた感情が何であるか、ようやくはっきりと理解した。

「君に伝えたいことがあるんだ。」僕は勇気を出して言った。

彼は振り返り、優しい眼差しで僕を見つめた。

「何?」彼が聞いた。

「君のことが好きだ。」僕は言葉にした。

彼は驚いたように目を見開き、その後すぐに微笑んだ。

「僕も君のことが好きだよ。」彼は答えた。

その瞬間、僕たちの世界は輝き始めた。僕たちはお互いの手を取り、夕焼けの中を歩き続けた。これまでの淋しさが嘘のように消えていく。僕たちは、ようやくお互いの心の中に居場所を見つけたのだ。

それからの僕たちは、以前にも増して仲良くなった。彼との関係が変わったことにより、僕の世界は色鮮やかになった。彼の存在が、僕にとってかけがえのないものになったのだ。二人の間に流れる時間は、いつも優しく、温かかった。

トンネルの中で始まったこの物語は、これからも続いていく。僕たちが共に歩む未来には、どんな困難が待ち受けているか分からない。でも、彼と一緒ならどんなことでも乗り越えていけると、僕は信じていた。
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