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吉野の千本桜
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千本桜の約束
吉野山の桜は「一目千本」と呼ばれ、約3万本の桜が群生している。
4月初旬から末にかけて、下→中→上→奥千本と、山下から山上へ順に開花してゆくため、長く見頃が楽しめる。
山全体が淡いピンクのじゅうたんではんなりと埋め尽くされるのを見るのが、奏と桜は大好きだった。
「幻想的ね」
「まるで、夢の国」
小さな頃から、お弁当を持ってきて朝から晩まで二人で遊んだ。
毛虫やみの虫を見てははしゃいでいた。
薄紅色の桜吹雪が舞い散る春の日、幼馴染の奏と桜は約束を交わした。
「ねえ、奏。この桜の木の下で、ずっと一緒にいようよ。」
桜の花びらを髪に飾りながら、少女は純粋な瞳で少年を見つめる。
「うん、約束だよ。桜が咲くたびに、ここに集まって、ずっと友達でいよう。」
奏は桜の小さな手を握り締め、優しい微笑みを浮かべる。
二人は幼い頃から、この桜の木の下で多くの時間を過ごしてきた。
一緒に遊んだり、秘密を語り合ったり、時には喧嘩をしたり。
春が訪れるたびに、桜の花びらが二人の思い出を彩った。
時は流れ、奏と桜は高校生になった。
奏は音楽に夢中になり、桜は将来の夢のために勉強に励む。
奏はお三味線にたけており、そのばち裁きは、さながら津軽三味線のようにお腹に響くパワフルなものだった。
奏は、和楽器バンドとして大和の心を伝えたかった。
それは、吉野山で培われた癒しの曲だった。
津軽三味線ではないので、全国コンクールはないけど、
名取の免状は取ることができた。
出げいこで生計を立てることもできるようになった。
歌舞伎にも出演することもできた。
その指には、いつもさくらが毛糸で編んだ指すりがあった。
年を重ねるごとに、少しずつ会う回数は減っていった。
それでも、二人は桜の木の下で再会し、互いの成長を喜び合った。
しかし、ある日、桜は突然重い病に倒れてしまう。
余命は数ヶ月と宣告された桜は、絶望に打ちひしがれる。
奏はそんな桜を励まし、毎日病院に通い続けた。
そして、桜の病室で奏はギターを手に歌い始めた。
「桜、覚えてる?あの日、僕たちが出会った桜の木の下で…。」
奏が歌うのは、二人の思い出の曲だった。
桜は目を閉じ、奏の歌声に耳を傾ける。
吉野の千本桜
春風に揺れる
桜の花
一目千本の
美しき桜
春の訪れを告げる
優美な舞い
空に舞い散る
桜の花びら
満開の桜
花見客を魅了し
心を和ませる
桜の下で
愛を囁き
幸せに包まれる
吉野の千本桜
日本の誇り
永遠に輝く
歌声に乗って、あの日の桜吹雪が鮮やかに蘇る。
「奏…ありがとう…。」
桜は涙を流しながら、奏の手を握り締めた。
奏は桜の手にそっと口付けをし、約束を再確認する。
「桜、必ず治るよ。そして、またこの桜の木の下で一緒に…。」
桜は微笑みながら、奏の言葉に頷いた。
小児がんは、抗がん剤治療や放射線治療の効果が高いといわれている。
奏が小児がんサバイバーの記事をネットで探してきてくれた。
縋り付くような思いで、むさぼるように読んだ。
経験の分かち合い。
今その苦しみが美しい宝石に変わる。
希望の雫。
どんどんやつれていき、髪の毛も抜ける。
吐き気もひどく、大好きな苺さえ口のすることはできなかった。
生きていることがとてもつらかった。
早く殺してくれーと叫びそうになる自分をぐっと抑えた。
「奏に嫌われてしまう」
不安と恐怖でいっぱいになる。
その度に、奏は優しく頭をなでハグしてくれる。
「俺をそんなケチな男と思ってるのか」
と、叱責される。
奏が自分で作ったという八重桜のしおりをプレゼントしてくれた。
そこには、毛筆で
「いきろ!!」
と、書かれてあった。
そして、ディオールのSAKURAのたおやかな香りのフレグランスの小箱。
ゆっくりと揺るぎない愛を感じることができていく。
つらい時、悲しい時、早く死んでしまいたいと思う時、
栞と香で奏を感じることができた。
数ヶ月後、桜は奇跡的に病を克服し、退院する。
約束通り、二人は桜の木の下で再会を果たした。
春の日差しが降り注ぎ、桜の花びらが舞い散る中、奏は桜にプロポーズをする。
そこには、長唄の社中の兄弟子たとバンドのメンバーがサプライズを手伝ってくれた。
「桜、ずっと一緒にいてください。僕と結婚してください。」
桜は涙を浮かべながら、奏の腕に抱きつく。
「はい、奏の…。」
二人は桜の木の下でキスを交わし、永遠の愛を誓った。
「おめでとう」
その後、奏と桜は結婚し、幸せな家庭を築いた。
毎年春が訪れるたびに、二人は桜の木の下で二人の出会いを祝い、愛を確かめ合う。
あれから何度も再発の疑いをかけられたけど、何故か痕跡に変わっていった。
千本桜の樹の下で、奏と桜の永遠の愛情は咲き続ける。
千本桜から生命を頂いている。
生かされている
「奏、ありがとう」
「さくら、愛 LOVE 優 ♡」
はらりはらりと桜舞い散る中で、
「お母さんこのお茶、しょっぱいよ」
と、二人の子供が口をとがらせている。
ほんのりしょっぱい桜茶には、八重桜の塩漬けが浮かんでいた。
桜の優しいにおいが鼻をくすぐる。
「お母さん、このきなこ結びもしょっぱいよ」
「はい、それ食べたら、道明寺と長命寺の桜餅があるからね」
「わーい」
子供たちのはしゃぐ姿に幸せそうに目を細める奏と桜だった。
吉野山の桜は「一目千本」と呼ばれ、約3万本の桜が群生している。
4月初旬から末にかけて、下→中→上→奥千本と、山下から山上へ順に開花してゆくため、長く見頃が楽しめる。
山全体が淡いピンクのじゅうたんではんなりと埋め尽くされるのを見るのが、奏と桜は大好きだった。
「幻想的ね」
「まるで、夢の国」
小さな頃から、お弁当を持ってきて朝から晩まで二人で遊んだ。
毛虫やみの虫を見てははしゃいでいた。
薄紅色の桜吹雪が舞い散る春の日、幼馴染の奏と桜は約束を交わした。
「ねえ、奏。この桜の木の下で、ずっと一緒にいようよ。」
桜の花びらを髪に飾りながら、少女は純粋な瞳で少年を見つめる。
「うん、約束だよ。桜が咲くたびに、ここに集まって、ずっと友達でいよう。」
奏は桜の小さな手を握り締め、優しい微笑みを浮かべる。
二人は幼い頃から、この桜の木の下で多くの時間を過ごしてきた。
一緒に遊んだり、秘密を語り合ったり、時には喧嘩をしたり。
春が訪れるたびに、桜の花びらが二人の思い出を彩った。
時は流れ、奏と桜は高校生になった。
奏は音楽に夢中になり、桜は将来の夢のために勉強に励む。
奏はお三味線にたけており、そのばち裁きは、さながら津軽三味線のようにお腹に響くパワフルなものだった。
奏は、和楽器バンドとして大和の心を伝えたかった。
それは、吉野山で培われた癒しの曲だった。
津軽三味線ではないので、全国コンクールはないけど、
名取の免状は取ることができた。
出げいこで生計を立てることもできるようになった。
歌舞伎にも出演することもできた。
その指には、いつもさくらが毛糸で編んだ指すりがあった。
年を重ねるごとに、少しずつ会う回数は減っていった。
それでも、二人は桜の木の下で再会し、互いの成長を喜び合った。
しかし、ある日、桜は突然重い病に倒れてしまう。
余命は数ヶ月と宣告された桜は、絶望に打ちひしがれる。
奏はそんな桜を励まし、毎日病院に通い続けた。
そして、桜の病室で奏はギターを手に歌い始めた。
「桜、覚えてる?あの日、僕たちが出会った桜の木の下で…。」
奏が歌うのは、二人の思い出の曲だった。
桜は目を閉じ、奏の歌声に耳を傾ける。
吉野の千本桜
春風に揺れる
桜の花
一目千本の
美しき桜
春の訪れを告げる
優美な舞い
空に舞い散る
桜の花びら
満開の桜
花見客を魅了し
心を和ませる
桜の下で
愛を囁き
幸せに包まれる
吉野の千本桜
日本の誇り
永遠に輝く
歌声に乗って、あの日の桜吹雪が鮮やかに蘇る。
「奏…ありがとう…。」
桜は涙を流しながら、奏の手を握り締めた。
奏は桜の手にそっと口付けをし、約束を再確認する。
「桜、必ず治るよ。そして、またこの桜の木の下で一緒に…。」
桜は微笑みながら、奏の言葉に頷いた。
小児がんは、抗がん剤治療や放射線治療の効果が高いといわれている。
奏が小児がんサバイバーの記事をネットで探してきてくれた。
縋り付くような思いで、むさぼるように読んだ。
経験の分かち合い。
今その苦しみが美しい宝石に変わる。
希望の雫。
どんどんやつれていき、髪の毛も抜ける。
吐き気もひどく、大好きな苺さえ口のすることはできなかった。
生きていることがとてもつらかった。
早く殺してくれーと叫びそうになる自分をぐっと抑えた。
「奏に嫌われてしまう」
不安と恐怖でいっぱいになる。
その度に、奏は優しく頭をなでハグしてくれる。
「俺をそんなケチな男と思ってるのか」
と、叱責される。
奏が自分で作ったという八重桜のしおりをプレゼントしてくれた。
そこには、毛筆で
「いきろ!!」
と、書かれてあった。
そして、ディオールのSAKURAのたおやかな香りのフレグランスの小箱。
ゆっくりと揺るぎない愛を感じることができていく。
つらい時、悲しい時、早く死んでしまいたいと思う時、
栞と香で奏を感じることができた。
数ヶ月後、桜は奇跡的に病を克服し、退院する。
約束通り、二人は桜の木の下で再会を果たした。
春の日差しが降り注ぎ、桜の花びらが舞い散る中、奏は桜にプロポーズをする。
そこには、長唄の社中の兄弟子たとバンドのメンバーがサプライズを手伝ってくれた。
「桜、ずっと一緒にいてください。僕と結婚してください。」
桜は涙を浮かべながら、奏の腕に抱きつく。
「はい、奏の…。」
二人は桜の木の下でキスを交わし、永遠の愛を誓った。
「おめでとう」
その後、奏と桜は結婚し、幸せな家庭を築いた。
毎年春が訪れるたびに、二人は桜の木の下で二人の出会いを祝い、愛を確かめ合う。
あれから何度も再発の疑いをかけられたけど、何故か痕跡に変わっていった。
千本桜の樹の下で、奏と桜の永遠の愛情は咲き続ける。
千本桜から生命を頂いている。
生かされている
「奏、ありがとう」
「さくら、愛 LOVE 優 ♡」
はらりはらりと桜舞い散る中で、
「お母さんこのお茶、しょっぱいよ」
と、二人の子供が口をとがらせている。
ほんのりしょっぱい桜茶には、八重桜の塩漬けが浮かんでいた。
桜の優しいにおいが鼻をくすぐる。
「お母さん、このきなこ結びもしょっぱいよ」
「はい、それ食べたら、道明寺と長命寺の桜餅があるからね」
「わーい」
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