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婚約破棄:偽りの花嫁修業

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婚約破棄:偽りの花嫁修業

冬空が鉛色に沈み、冷たい風が街を吹き抜ける。早苗は、コートの襟を立てて、新宿駅へ向かう。

数ヶ月前、婚約者である有希人から一方的に婚約破棄を告げられた。理由は「価値観の違い」。華やかな社交界に生きる彼と、質素な生活を望む早苗の間には、埋められない溝があったのかもしれない。

だが、納得できない。花嫁修業と称して、茶道、華道、着付け…必死に努力してきたのに。

早苗は、手にした封筒をぎゅっと握り締める。そこには、弁護士からの書類が入っていた。婚約破棄は債務不履行であり、慰謝料請求が可能だという。

「お金が欲しいわけじゃない…」

それでも、理不尽な仕打ちに抗うために、早苗は一歩を踏み出す。

弁護士事務所は、高層ビルの30階にあった。緊張しながらドアを開けると、眼鏡をかけた知的な女性が迎えてくれた。

「早苗さんですね。お待ちしていました。」

弁護士の言葉に、早苗は静かに頷く。

「私の婚約者は、婚約を破棄して去りました。何もかも虚しかった…。」

早苗は、これまでの経緯を弁護士に説明した。

弁護士は、書類を丁寧に読み上げ、真剣な表情で早苗を見つめた。

「早苗さん、あなたは何も間違っていません。彼は、あなたに婚約破棄の責任を負うべきです。」

弁護士の言葉に、早苗の心に初めて希望の光が灯る。

「では、慰謝料請求は可能でしょうか?」

「はい、可能です。彼の経済状況や婚約期間などを考慮すると、50万円程度が妥当と考えられます。」

50万円…決して大きな金額ではない。しかし、早苗にとっては、彼への抵抗の証であり、未来への一歩だった。

「お願いします。」

早苗は、決意を込めて弁護士に告げた。

数ヶ月後、裁判所から和解案が提示された。有希人側は、早苗に50万円の慰謝料を支払うことに同意したのだ。

書類に署名し、和解が成立した。早苗は、複雑な思いで空を見上げた。

「これで…終わりなのね。」

失恋の痛みは、まだ癒えていない。それでも、早苗は前を向く。

「私は…私の人生を歩んでいく。」

偽りの花嫁修業は、虚しさだけを残した。しかし、それは新たな旅立ちの序章でもあった。

冬の風に吹かれながら、早苗は決意を新たにする。

いつか、自分の力で幸せを掴み取るために。

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