いとなみ

春秋花壇

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わたしは不幸癖とれない女

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涼やかな風にスカビオサの小さな藤色の花が揺れる。

和名マツムシソウ。

外側の花びらは、放射状に広がり、

中心部には小さなお花がびっしりと咲く可憐なお花。


「わたしは不幸癖とれない女」

ぽつりと寂しそうに諦めるようにつぶやいてみた。

わたしの名前は、山田 麻衣。

毒親に好きでもない男の人と結婚させられた女。

しかも、相手のお義父様とお義母様は私を気にいってはくださらなかった。

わたしは、家政婦のように朝から晩まで働いた。

朝5時に起きて、ゴミ出しをし、お風呂場とトイレの掃除。

旦那様とお義父様の靴を磨いた。

お弁当を作って、朝食の支度をし、旦那様とお義父様を起こし、

給仕をして洗濯、掃除、買い物を熟していく。

えっ?お義母さまは何をしてるのかですって?

う~ん、何をしてらっしゃるんでしょうね。

ある日、お義父様が倒れられて自宅介護する事になったわ。

お父様がまだ、入院している時に『介護職員初任者研修』の資格を取ったの。

介護の仕事は大きく分けると、

食事、排せつ、入浴など利用者さんの身体に直接触れる「身体介護」と、

買い物や料理、送迎など身の回りのサポートをする「生活援助」の2種類があるの。

この資格を取ることでより的確なお世話ができるようになると思ったの。

上に書いた家事の他に毎日、車椅子に載せてお散歩、通院、清拭、おむつのお世話が加わり、

わたしは前より忙しく過ごしていたの。

3年寝たっきりでお義父様は身罷ったの。

その間、旦那様からもお義母さまからもねぎらいの言葉も感謝の言葉もかけられたことはなかった。

ある日、鏡をふと見ると、眉間にしわを寄せて唇がへの字になっている醜いおばさんが映っていたわ。

でも、悪い事ばかりじゃない。

わたしには、かわいい赤ちゃんが生まれたの。

その子の笑顔を見るだけで、私はどんなに忙しくてもがんばろうと思えたの。

娘の名前は、愛美(まなみ)

親バカなのか、よそのどの子よりもかわいかった。

ひらひら蝶々のように歩いて、転ぶと一瞬泣きそうになるんだけど

ぱんぱんと払って、ニーって笑うの。

きっとわたしの悲しそうな顔を見るのが嫌なのね。

我慢強い子。

娘が3歳になった時、お義母さまが倒れられたの。

旦那様は、わたしをすごく責めたわ。

「一緒にいるのに、気が付かなかったのか」

って……。

お義母さまとは一緒にお料理する事もお掃除する事もお茶を飲む事もなかったから、

ごめんなさい。

旦那様は仕事が忙しいらしく、出張に行くことが増えて行ったの。

はじめは、一日だけ。

それが少しずつ、三日になり。一週間になり。

海外に行くとかで一か月になり。

その間、お義母さまの嫁いびりも酷くなっていった。

「あなたがどんどんブスになっていくから息子は帰って来なくなった」

「そんなに構わないでいると余所に女を作られても仕方ないわよね」

う~ん、正論なんだけど幼稚園前の子供を抱えてワンオペ育児と介護。

そんな余力は残っちゃいない。

そうね、わたしは悲しい程不幸癖とれない女。


人生は99%
思い込みで出来ている

わたしもOK
あなたもOK

禁止令と構えによってつくられた
うまくいかないのは
あなたの書いた人生脚本のせい
ポジティブなストロークを
他人に与えよう

#カサンドラ症候群
#発達障害

https://pin.it/1gRmCD0 via @pinterest https://pic.twitter.com/mZ7DFScqkq



きっと今頃、旦那様は綺麗な女の人とドバイにでも遊びに行ってるんでしょうね。

わたしはこの時、きっぱりと決断した。

「今を生きる」

わたしはその日から、自分のお手入れを始めたわ。

わたしの人生の主人公は私なんだから。


旦那様には旦那様の言い分が……。

お義母さまにはお母さまの言い分があると思ったの。

そして、二人を変えるのはとっても難しい。

でも、自分の機嫌は自分でとれる。

わたしは、不幸癖とれない女だけど

幸せかどうかは自分で決めることができる。


お義母さまと愛美が寝ている間に24時間営業のスポーツジムに通ったの。

そして、お義母さまが寝たきりでもこぎれいでいられるように気を付けるようになった。

「ママ、きれい」

3カ月もすると、娘がわたしをほめてくれる。

少しずつ、旦那様も家に帰ってくるようになったわ。

わたしは徹底して旦那様を認めて褒めて理解しようとした。

「世界一のパパで良かったね」

と、愛美に言うと

「うん、愛美のパパは世界一」

って、くるくる踊りながらパパに近づいていく。

旦那様もまんざらでもないようで、少しうれしそうに抱っこしてた。

(((uдu*)ゥンゥン、良い感じ。

食べ物もできるだけバランスのとれた彩のよい物にして彼が食事を楽しめるように努力したの。

「この肉団子はね、パパ、愛美とママが祈りを込めて作ったのよ」

って首に抱き付くと嬉しそうに頷いている。

お義母さまもだんだん嫌味を言わなくなったの。

愛美は天使のような子で、お義母さまを車椅子で散歩に連れて行ったときに

「おばあちゃま、ママに何時もありがとうでしょう」

って甘えるように言うものだから、

お義母さまも

「そうね、いつもありがとう」

って言ってくださるようになった。

そして、パパにも

「愛美は幸せになる為に生まれて来たのよ。だから、幸せにしてね」

っておねだりしてる。

「愛美もパパやママやおばあちゃまを幸せにするね」

って……。

子は鎹(かすがい)。

子どもを通して、親にしてもらう。

もう、わたしは不幸癖とれない女じゃないのかもしれない。

だって、自分の思う通りには何一ついかない。




スカビオサ(マツムシソウ)の花言葉は、

「不幸な愛、私はすべてを失った」
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