434 / 1,511
加齢臭
しおりを挟む
小満から芒種へ。
万物が次第に成長して、一定の大きさに達して来るころを
二十四節気では小満というらしい。
そして、芒(のぎ 、イネ科植物の果実を包む穎(えい)
すなわち稲でいう籾殻にあるとげのような突起)を
持った植物の種をまくころを芒種というのだそうだ。
(とっくに田植えなんて終わってるのに……)
暦に疎い俺は、持ち前の反抗的精神を示し、
素直に書かれていることを把握するのではなく、
否定しようとしてしまう。
人間て本当に面白い。
同じ間取りの家を買っても、
しばらくたつとその人らしい家に変わっていくのだから……。
俺の名前は、佐藤淳。45歳。
妻 仁美(ひとみ)。39歳。
長女 里佳(りか)。15歳。
3人暮らしだ。
結婚して17年の時が流れた。
最近、娘の様子がおかしい。
中二病も無事に終わり、新しい家も購入して
幸せな家庭生活を思い描いていた。
小さな頃の里佳は、パパっこで、
「大きくなったらパパのお嫁さんになるの」
と、ひらひらしながら可愛い笑顔を浮かべていたのに、
何時の間にか言葉も粗野で、
「臭いからあっちに行ってよ」
「洗濯物は一緒に洗わないで」
「パパの入ったお風呂には入りたくない」
と、お風呂のお湯を抜いてしまう。
ああ……。
問題が起きているのに、対処しようとしなかった。
日伸ばしにして、時が解決してくれるのを待ったのが間違いだった。
妻と里佳の言動について何度も話し合ったが、
「反抗期なんでしょう」
「そのうち、なおるわよ」
と、対処しなかった。
そして、新型感染症のリモートワークも手伝って、最近では
「ATMは、別居して養育費だけ入れてくれればいいのに」
とまでほざくようになってしまったのだ。
娘だけではない。
妻とも何年もセックスレスなのだ。
「もう、私たちそんな関係じゃないでしょう」
と、言われてしまった。
そして、最近では外食さえ一緒に行くことはなく、
妻と里佳の二人で出かけてしまうのだった。
俺はだんだん家に帰るのが苦痛になっていった。
四十肩も始まり、夜中寝ていても肩がうずくように痛い。
余りの痛さに呻くくらいだ。
会社の同僚の竹内君の娘さんと奥さんは、
同じような肩の痛みに対して、優しくシップを張ってくれたり、
なでてくれたり、ストレッチを手伝ってくれたりするという。
(は~、うらやましい…)
俺はなさなくて、悲しくて一体何のために家庭を持ったのか
何のために生きているのかとアンニュイ(仏:ennui)な気持ちに
満たされていった。
今日は本当に家にいるのが嫌で、夜中公園で一人ぽつんとベンチに座り、
今にも泣きだしそうな空を眺めていた。
厚く雲に覆われた空は、俺の心を余計に重くしていく。
(情けない奴だよな、家庭さえ収められないなんて…)
(こんなんだから、役職が上がっても部下の面倒さえ見れない)
俺はどんどん自分を責めさいなんでいく。
この現状をありのままに受け取り、問題解決に向けて
ポジティブに改善点を探すなんて事は出来ないでいるのだ。
天からぽつりぽつりと雨が落ちてくる。
泣きたいのに泣けない俺を慈しむように……。
「おじさん、濡れちゃうよ」
ふと見ると、髪の長い23.4歳の娘さんが俺の前に立っていた。
「いいんだ。おれなんか新型感染症で死んでも誰も悲しむ人なんていない…」
ぽつりとつぶやいてしまう。
「雨に濡れて死ぬなんて今時…。おじさん、よっぽど不幸が好きなんだね」
と、大笑いされてしまった。
(なんだこいつ)
(せっかく俺が浸っていたのに……)
くったくのない美しい笑い顔に心の行き場を失ってしまう。
「こんな夜中に若い娘さんが、危ないじゃないか」
というと、
「家のカギを落としてしまったの」
と、肩をすくめていたずらっ子のように答える。
底抜けの明るさがわざと電気をつけてないで暗がりに溺れている
俺の心を照らし始める。
(不幸が好きか……)
(そうだな。いやだったら何か手を打つよな)
「明日になったら、大家さんにカギを借りるの」
と、今度は真面目な顔で答えた。
「おじさん、ここにいたら濡れちゃうから一緒にファミレスに行かない?」
「まぁ、いいけど」
「もちろん、おじさんのおごりで…」
(人懐っこい子だな)
夕飯も食べていない俺は、小腹も空いていた。
ピザとほうれん草のバター炒め、小エビのサラダ、辛みチキンを注文した。
「グッドチョイス」
彼女は、とっても美味しそうにピザを頬張っている。
屈託のない笑顔に俺はいつしか自分の今の家庭の状況をこの年若い娘に話していた。
「私の名前は、叶(かなえ)」
「今は無職」
「えええ、どうやって生活してるの?」
「職探しはしてるんだけどね」
万物が次第に成長して、一定の大きさに達して来るころを
二十四節気では小満というらしい。
そして、芒(のぎ 、イネ科植物の果実を包む穎(えい)
すなわち稲でいう籾殻にあるとげのような突起)を
持った植物の種をまくころを芒種というのだそうだ。
(とっくに田植えなんて終わってるのに……)
暦に疎い俺は、持ち前の反抗的精神を示し、
素直に書かれていることを把握するのではなく、
否定しようとしてしまう。
人間て本当に面白い。
同じ間取りの家を買っても、
しばらくたつとその人らしい家に変わっていくのだから……。
俺の名前は、佐藤淳。45歳。
妻 仁美(ひとみ)。39歳。
長女 里佳(りか)。15歳。
3人暮らしだ。
結婚して17年の時が流れた。
最近、娘の様子がおかしい。
中二病も無事に終わり、新しい家も購入して
幸せな家庭生活を思い描いていた。
小さな頃の里佳は、パパっこで、
「大きくなったらパパのお嫁さんになるの」
と、ひらひらしながら可愛い笑顔を浮かべていたのに、
何時の間にか言葉も粗野で、
「臭いからあっちに行ってよ」
「洗濯物は一緒に洗わないで」
「パパの入ったお風呂には入りたくない」
と、お風呂のお湯を抜いてしまう。
ああ……。
問題が起きているのに、対処しようとしなかった。
日伸ばしにして、時が解決してくれるのを待ったのが間違いだった。
妻と里佳の言動について何度も話し合ったが、
「反抗期なんでしょう」
「そのうち、なおるわよ」
と、対処しなかった。
そして、新型感染症のリモートワークも手伝って、最近では
「ATMは、別居して養育費だけ入れてくれればいいのに」
とまでほざくようになってしまったのだ。
娘だけではない。
妻とも何年もセックスレスなのだ。
「もう、私たちそんな関係じゃないでしょう」
と、言われてしまった。
そして、最近では外食さえ一緒に行くことはなく、
妻と里佳の二人で出かけてしまうのだった。
俺はだんだん家に帰るのが苦痛になっていった。
四十肩も始まり、夜中寝ていても肩がうずくように痛い。
余りの痛さに呻くくらいだ。
会社の同僚の竹内君の娘さんと奥さんは、
同じような肩の痛みに対して、優しくシップを張ってくれたり、
なでてくれたり、ストレッチを手伝ってくれたりするという。
(は~、うらやましい…)
俺はなさなくて、悲しくて一体何のために家庭を持ったのか
何のために生きているのかとアンニュイ(仏:ennui)な気持ちに
満たされていった。
今日は本当に家にいるのが嫌で、夜中公園で一人ぽつんとベンチに座り、
今にも泣きだしそうな空を眺めていた。
厚く雲に覆われた空は、俺の心を余計に重くしていく。
(情けない奴だよな、家庭さえ収められないなんて…)
(こんなんだから、役職が上がっても部下の面倒さえ見れない)
俺はどんどん自分を責めさいなんでいく。
この現状をありのままに受け取り、問題解決に向けて
ポジティブに改善点を探すなんて事は出来ないでいるのだ。
天からぽつりぽつりと雨が落ちてくる。
泣きたいのに泣けない俺を慈しむように……。
「おじさん、濡れちゃうよ」
ふと見ると、髪の長い23.4歳の娘さんが俺の前に立っていた。
「いいんだ。おれなんか新型感染症で死んでも誰も悲しむ人なんていない…」
ぽつりとつぶやいてしまう。
「雨に濡れて死ぬなんて今時…。おじさん、よっぽど不幸が好きなんだね」
と、大笑いされてしまった。
(なんだこいつ)
(せっかく俺が浸っていたのに……)
くったくのない美しい笑い顔に心の行き場を失ってしまう。
「こんな夜中に若い娘さんが、危ないじゃないか」
というと、
「家のカギを落としてしまったの」
と、肩をすくめていたずらっ子のように答える。
底抜けの明るさがわざと電気をつけてないで暗がりに溺れている
俺の心を照らし始める。
(不幸が好きか……)
(そうだな。いやだったら何か手を打つよな)
「明日になったら、大家さんにカギを借りるの」
と、今度は真面目な顔で答えた。
「おじさん、ここにいたら濡れちゃうから一緒にファミレスに行かない?」
「まぁ、いいけど」
「もちろん、おじさんのおごりで…」
(人懐っこい子だな)
夕飯も食べていない俺は、小腹も空いていた。
ピザとほうれん草のバター炒め、小エビのサラダ、辛みチキンを注文した。
「グッドチョイス」
彼女は、とっても美味しそうにピザを頬張っている。
屈託のない笑顔に俺はいつしか自分の今の家庭の状況をこの年若い娘に話していた。
「私の名前は、叶(かなえ)」
「今は無職」
「えええ、どうやって生活してるの?」
「職探しはしてるんだけどね」
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
季節の織り糸
春秋花壇
現代文学
季節の織り糸
季節の織り糸
さわさわ、風が草原を撫で
ぽつぽつ、雨が地を染める
ひらひら、木の葉が舞い落ちて
ざわざわ、森が秋を囁く
ぱちぱち、焚火が燃える音
とくとく、湯が温かさを誘う
さらさら、川が冬の息吹を運び
きらきら、星が夜空に瞬く
ふわふわ、春の息吹が包み込み
ぴちぴち、草の芽が顔を出す
ぽかぽか、陽が心を溶かし
ゆらゆら、花が夢を揺らす
はらはら、夏の夜の蝉の声
ちりちり、砂浜が光を浴び
さらさら、波が優しく寄せて
とんとん、足音が新たな一歩を刻む
季節の織り糸は、ささやかに、
そして確かに、わたしを包み込む
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる