いとなみ

春秋花壇

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失われた風景 はじめての燻炭づくり

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萩(はぎ) 尾花(おばな) 桔梗(ききょう) 刈萱(かるかや) 

女郎花(おみなえし) 葛(くず) 藤袴(ふじばかま) 秋の七草

親父が植えてくれた草花が畑と母屋の間を彩る。

(道路から家までの細い道もいずれ直さないとな)


みんな、咲いた花を見るのは好きだけど、

咲くまでの過程に興味がない。

花が咲くには強い根があってこそ

そして、豊かな土がある。

ということで、有機農業を目指す人は増えている。

だが、しかーし

新型感染症のせいで、とってもおいしい有機野菜を作ったとしても

外食産業で注文のキャンセルが相次いでいた。

従って、手伝いの仕事もキャンセル。

お手伝いをしながら、横のつながりを増やし、

農作業も学べて収入にもなるというWin-Winな生き方は出来なくなってしまった。

それでなくても、過疎の村なのに……。

「こんな時、昔の人ならどうしたのかな」

「何時でも売れる物を作れるように土つくりに励む」

「さすが、ゆきちゃん。結局そうなるのか」

世界的パンデミックのせいで日本以外に市場を求めても無理。

そうだな。基本に戻ろう。

基本を知らない事に本人はまだ気づいていないw

と、言うことで堆肥やミミズの育成、燻炭つくりに力を入れることにする。

人糞の処理は未だに困ってるのだが、

とりあえず、バキュームカーのホースが届く位置に保留することにした。

昔みたいに寝かせて肥料として使いたくても寄生虫や臭いの問題もある。

一緒に住んでいる15歳のゆきちゃんは、親の行方も分からないまま俺の家に住みついている。

まさか、一人っきりだと解っていて自分の家に帰すわけにもいかないしね。

『先本家(さきぼんけ)』という屋号からすると、俺の家の先祖かも知れないし……。

なによりも、俺自身がゆきちゃんを必要としている。

「お兄ちゃんのお嫁さんになる」

という、ゆきちゃんの迷言をDQNみたいに深く考えることもなく喜んでいたんだ。

9月の29.30日の村祭りも終わり、秋たけなわの日曜日。

「よーし、今日は燻炭を作るぞー」

「わーい、お芋焼いていい?」

「もちろん」

二人は、喜びいさんでこの前脱穀したもみ殻の場所にスコップを持って出かける。

この田んぼには、早生の稲が植えてあった。

刈った稲を束ね、杭と竹で作った鉄棒のような形の物に稲を干して、

脱穀をし、ゆきちゃんちの納屋においてある乾燥機でもみを乾燥させた。

モミは精米所に持って行き、もみ殻を貰って来た。

そのもみ殻をいぶして燻炭を作る。

できた燻炭はマルチングに使ったり、PH調整に使ったり、植え付ける土に混ぜ込んだりする。

植物によって、酸性の土を好むもの、アルカリ性の土を好むものがある。

これから何を主流に作付けしていくか決まっていないが、

人間でいうなら、基本的な生活態度と体力作りみたいなものだろうか。

火をつけて燃やして居たら、

そばを通りかかったおじいさんから、

「こらこら、燃やしちゃいかん。いぶらせるんだ」

と、お叱りを受ける。

(そっかー。灰にしちゃダメなんだよな)

前日にネットで学んだはずなのにな。

「あはははは、すみません」

「はじめはみんなそんなもんじゃいねー。

 何回も失敗して上手になる」

「はーい、ありがとうございます」

まるで孫を諭すように教えてくださる。

親父がやっている所に何度もついて行っていたのに、うううう。

「ほれ、前をしっかり見るんじゃ―。今度はもう少し上手に失敗できるさ」

「火から離れちゃいけんよ。風が吹いたら山火事になるからのんた」

方言丸出して話してくる。

「何時間くらいで出来るんですか?」

「そうさのー、丸一日かな。この量のもみ殻なら」

「えええ、眠らないで番するんですか?」

「いやいや、離れる時には水をかけて」

「ああ、なるほど」

「燻炭器は自分で作ったのかの?」

「はい、煙突の部分は買いました」

「がんばっちょるのんた」



うわー。

ありがとうございます。

雪かきのスコップで何度もかき混ぜる。

はじめは黒い煙がモクモク。

だんだん白い煙に変わっていく。

(うん、これでよし)

だから、買うとあんなに高いんだね。

もみがらくんたん 40L、1,670円。

この量だと2万円くらいだろうか。

焼き過ぎてないって書いてあるから加減が難しそう。

そのうちおいおい、うまくなるさ。


そうか、だから子供の時、見張りをさせられていたんだな。

親の意見と茄の花は千に一つの仇も無い。

それにしても、やりたい事がいっぱいあるのに見張りだけで何にもできない。

困ったな。よし、ゆきちゃんと遊ぼう。

しりとり、にらめっこ。あやとり、かけっこ。国盗りゲーム。

そして、しまいには鉄棒のようなもので逆上がり。

これって、子供がする遊びだよね。

ゆきちゃんが16歳になったら、胸ときめくようなこともできるかな。

遠い目。

はじめての燻炭つくり。

着火から、28時間もかかってしまった。

「じょうできじょうでき」

と、たけうちのおじいちゃんは褒めてくれる。

俺、SUGEEEE!!


俺の名前は、矢次誠一32歳。

ニート歴10年の自宅警備員のプロだ。

俺は今、陰キャ引きこもりニートから必至に

回復しようとしている。


そばにいるのは、ゆき(15歳)中学3年生。

白、淡いピンク。濃いピンク、紅。

秋桜が咲き乱れ風にそよぐ10月の初め、

取り敢えず俺達は今生きている。

「おなかすいたー」

ゆきちゃんが、申し訳なさそうに上目遣いで話しかけてくる。

「何が食べたい?」

「提の傍の林の梨はおにいちゃんちの?」

「ああ、おじいちゃんが植えたらしい」

「一杯なってたよ」

「じゃあ、それにしよう」

もみ殻に少しお水をかけて、収穫にGO。

たわわに実った梨、ゆさゆさ木をゆすぶるとぼたぼた落ちてくる。

背中に背負った竹籠(とんのす)に入れて、人工栽培の椎茸も少しキノコ狩。

栗もいくつか落ちてたから、鎌で切り目を付けて足で踏むとパクリとわれる。

きねりと呼ばれる柿も成っていたのでついでに収穫。

「うわー、果物一杯だね」

「何か大して仕事してないのに、疲れたな」

「ねっ」

梨をさっと洗って、皮を剥かないでかぶりつくと、

ぽたぽたと果汁がしたたり落ちる。

「スローライフの醍醐味だよな」

ゆきちゃんは地元で生まれ、地元で育ったから

訳が分からないという顔でキャトンとしている。

「風呂わかすの面倒だな~」

五右衛門風呂なのだ。

10月10日の旧体育の日。

7月に移動して10月の休みはなくなった。

祝日だと思い込んでいた俺は、

「明日も学校」

と、ゆきちゃんいわれ面食らっている。

スマホを見ると、17時だった。

「よし、温泉いこう」

「萩?」

「いや、面白いところを見つけた」

こうして俺たちの気紛れな旅は続く。

お風呂上がりのゆきちゃん

一緒に牛乳を飲んだんだけど、

ポニーテールのおくれ毛がやけに色っぽく感じたな。

不覚にももっこりしてしまってごまかすのにくまったくまった。
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