いとなみ

春秋花壇

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埋み火(うずみび) 3

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小宮妙子84歳。

彼女の顔は、四谷怪談のお岩さんのように青と緑と黄色の痣で鏡の前に立ちたくない程、

痛々しく腫れていた。

新型感染症のせいで、小柄な妙子が顔の半分以上を覆うマスクをして、

薄く色のついたサングラスをすると全くと言っていいほど、

彼女の痣にきずく者はいなかった。

この痣だらけの顔になってからも普通にラジオ体操に行っていた。

点字ブロックは、視力が無かったり、視力が低下している人が安全に移動するために、

地面や床面に設置された四角形の案内表示です。 

正式には「視覚障害者誘導用ブロック」といいます。 

ブロックには突起があり、目の不自由な人は、

この突起を足の裏や白杖で確認しながら進みます。

その視覚障碍者にとっては命綱の点字ブロックで躓いて転んでしまった。

年を取ると、自分でもびっくりするくらい小さな凹凸で躓く。

足が上がらないのだ。

そして、通常なら、幼児でもあるまいに転んで顔を打つことはほとんどない。

ところが、手は出ていたはずなのに、顔面をもろに打ってしまった。

その結果が、このありさまである。

そして、ラジオ体操から帰ると何故かトイレにも這っていくほど

動けない。

どうして、ラジオ体操だけは行けるのか不思議だった。

たぶん、みんなが心配するからかもしれない。

そして、肋骨も打ち付けてしまったのか思わず呻き声を出してしまっていた。

あの、毎日のように通報のあった呻き声は多分私……。

でも、どうしてわざわざ公衆電話から通報するんだろう。

何時もの仲良しの人たちなら、住所はわからなくても、

名前くらいは知っているだろうに……。

そんな事を考えながら、アルバムを何冊か物置から出してほうじ茶を飲みながら

回想にふけっていた。

彼女と亡くなった夫の間には子供はいなかった。

なので、二人でよく旅行に行った。

オーロラを見に行ったり、エジプトのピラミッド見学、

人もうらやむ仲のよさだった。

たった一つの秘密を除いては……。

彼女は前夫との間に一人の息子がいた。

亡くなった夫と結婚する前に、自分の実家に預けて

一度もあった事がない。

もう半世紀も前の話だ。

息子が元気に生きていれば、とっくに還暦も過ぎている事だろう。

産んだだけで育てる事も無かった息子を思い出すと、

関を切ったかのように涙があふれる。

日本の警察は優秀である。

なんども公衆電話から、彼女がうめいていると通報したのは

この息子であった。

息子は、自分にも妻子供がいて、今更表立って逢いに行けない。

だが、恋い焦がれるは母親は心配で仕方がない。

いつか名乗りを上げて、テレビのご対面番組のように

涙を流し合って抱き合えたら……。

そんな事を夢みていていたのである。

息子は任意の出頭で、警察官にその事を話している。

自分を捨てた母親だけど、世界でたった一人の母親。

一度だけでもいい。

逢って、「ごめんなさい」と言ってもらいたかった。

これが俺の中の誰にも言えない『埋火』……。


親の別居や結婚の解消は児童にも青年にも不利な影響を及ぼす大きな衝撃となると考えて」います。離婚した親の子供は離婚していない家庭の子供に比べ,非行や反社会的行動に走る率が高い; 離婚した親の子供が精神病院に入院する率は,離婚していない家庭の子供の場合の2倍にもなることがある; 子供のうつ病の主な原因は親の離婚かもしれない。
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