いとなみ

春秋花壇

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失われた風景 ひまわりロード

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「蒔いた種は刈り取るのです」

どんだけ、引きこもりで筋肉を衰えさせてきたのか

ちょっと動いただけで、怪我をする。

筋肉痛になる。

汗疹が出来る。

あうう。

この村には、ひまわりロードと言う

ひまわりがたくさん植えられている場所があるみたい。

俺が子供の頃には多分なかった。

新盆とやらを無事に施主として熟せた俺は、

慣れない人間関係に疲れ果てできればまったりと一人で過ごしたかった。

だか、しかーし、ご親切な隣人たちによってその儚い望みは朝から

食器や座布団や提灯の片付けと言うありがたい仕事へと変えられて行く。

「早く、お嫁さんがもらえるようになるといいね」

と、いじられる。

「子供が2.3人居てもおかしくない年だものね」

はいはい、どうせいきおくれじゃねー、貰い遅れですよ。

俺の住んでいる村はものすごい過疎。

人口を増やす手っ取り早い方法は、結婚して子供をもうけることだそうだ。

メンタル豆腐で体も軟弱な俺の子供を増やしても仕方ないと俺は思うんだけどな。

一通りの片付けが終わったのが、朝の8時から初めて12時半くらいだろうか。

差し入れの塩黄な粉をまぶしたおにぎりをほおばりながら、

蝉時雨を縁側で聴いていた。

そう言えば今年はなぜか

「かなかなかな」

「つくつくほーうし」

聞いてないな。

立秋も過ぎてお盆も終わったというのに……。


何故かとなりに美少女がいる。

「名前は?」

「ゆき」

「何年生?」

「中学2年生」

「高校生に見えるね」

「お兄ちゃんのお嫁さんになるの」

「へ?」

俺は今、多分鳩が豆鉄砲食らったような顔をしていると思う。

「お兄ちゃんてだれ?」

「この人」

人差し指で俺を指して居る。

さくら貝のような淡いピンクの爪がかわいい。

何を言ってるんだか、全くこの子は。

頬の産毛が桃のようにきらきらして美しい。

まついくでもしてるのかと思うほどまつ毛が長い。

髪の毛は軽くお団子にしてほつれ毛がうなじに張り付いて

妙に色っぽい。

どことなく淡い感じがして、守ってあげたいような男心をそそられる。

やべー。

18歳も年下なのに、どすとらいく。

俺、ロリコンなのかな?

「冗談はさておき、ひまわりロードに行くけど一緒に行く?」

「車?」

「いや、自転車」

「いく~♪」

18歳も下の子になんで俺が…。

とにかく、この訳の解らない二人きりの状態から解放されたかった。

登り坂を自転車押しながら、

「ところでさ、君は一体どこの子?」

「さきぼんけのこ」

「ああああああああ」

そういえば、小さな女の子がいたな。

こんなに大きくなったのか。

このあたりでは、矢次の名字が多い為か

屋号で呼ぶことが多かった。

「で、なんで俺の嫁になるの?」

「ちっちゃい時から大好きだったから」

「ほえ」

わけがわからない。

たしかに、うちの庭でおままごとでたまに遊んだのは知ってるけど。

「おにいちゃん、約束したよね」

「何を約束?」

「大きくなったらお嫁さんにしてくれるって」

……。

ひまわり畑が見えてくる。

伏馬山の山すそ一面にはひまわり畑が広がる。

4.0haの広大な場所に25万本のひまわりが咲き誇っている。

そろそろ終わりなのだろう。

種がかなり大きくなり、花びらがなくなりかけているものもある。

俺の子供の頃にはなかった。

何日か続いた雨で、終わりそうになっていたひまわりも息を吹き返したように

ちゃんと上を向いて咲いている。

「よかったね。元気なひまわりが観れて」

「元気じゃなかったの?」

「うん、今にも枯れそうだった」

語尾をきちんと最後まで言う話し方が好感が持てる。

水色と白のピンドットのワンピースも爽やかだ。

麦藁帽子があどけない。

嫁に貰っても悪くはない存在だが、今、手を出したら犯罪だーー。

俺の心の中にこんなスケベ―心があったとは知らなかった。

むふふふ。

だめだ。こりゃ。

「よし、帰ろう」

降りて登って後は平たんな道。

と、安堵したのもつかの間、

がらがらと自転車のペダルが空回りする。

結構古い自転車なので、チェーンが伸びているのかも知れない。

「あ」

その瞬間、わずかに体をひねってしまったらしい。

足は何ともなかったのだが、腕に痛みが走る。

前腕伸筋群か前腕屈筋群あたり。

確かめるように撫でたり押したりするが…。

「大丈夫?」

ゆきちゃんが心配そうに俺の顔を覗き込んでいる。

「ああ、たぶん」

「ひびとかはいってないといいね」

その瞬間、そういえばカルシウムあんまり取ってないな。

過疎の村では、病院がないから健康には気を付けないと。

この村に自転車屋さんはない。

子供の頃にはあったんだけどね。

パンク位なら自分で修理できるけど、

伸びたチェーンはな~><

「ゆきちゃん、今日はありがとう。送って行こう」

彼女はちょっと残念そうに俺の顔を上目遣いで見る。

ドキッとするくらいそそられる。

俺、ひょっとしてロリコン?

うっすらと紅くなっていく空がからかうように俺を包む。
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