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失われた風景 礎
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桃栗3年
柿8年
柚子は9年でなりさがり
梨の馬鹿野郎18年
何をやるにも実るまでには相当の努力と時間が必要なのだ。
なのに、なんか最近焦ってる。
俺の名前は、矢次誠一32歳。
ニート歴10年の自宅警備員のプロだ。
俺は今、陰キャ引きこもりニートから必至に
回復しようとしている。
両親が身罷ったせいで、引きこもりでは生活できなくなった。
なんせここは、都会とは違って過疎の無医村で
小売店もないからおやじが植えた苺一つ食べるにも
外に出なければ話にもならない。
お風呂だって、スイッチ押せばお湯が出るなんて
贅沢なシステムじゃないから木小屋から小木を持ってきて
五右衛門ぶろを沸かさなければいけないのだ。
スローライフ、ばんざーい。
おかげで一日中、動画とオンラインゲームという
ていたらくからは、脱却できそうなのだけど……。
リア充まっしぐら、良い感じに生活できているのに
もっともっと、はやくはやくって。
あううう。
深呼吸。
今日は自動車学校は休み。
そろそろ、親父が植えた「巴旦杏」と呼ばれるスモモも食べごろかな。
基本的に俺は、卑しいのかもしれない。
食い物のためなら、とことこ出かけていくよな。
水田には、熟れた巴旦杏がいくつもぷかぷか浮かんでる。
梅の実を収穫するときと同じように
ブルーシートを敷いて、木をゆするんだ。
光沢のあるその実は、口に含むと甘酸っぱく
子供の頃のおやつには最高の品だった。
おやじは、いろんな木や植物を植えてくれた。
初めて、親父のようになりたいと思った。
「人生は一生勉強」
広辞苑と字源をいつも傍らに置き、
答えを教えてくれるのではなく、
勉強の仕方、調べ方を教えてくれた。
俺はこんなにもおやじを好きだし、尊敬しているのに
重症うつ病になり、大学を卒業し就職したのに
へたってしまう自分が受け入れられなくて、
ずいぶんあることないこと、親のせいにしてきたな。
完璧な人間なんていないのにな。
食べきれないくらい豊作なプラムを竹で編んだ
とんのすと呼ばれる籠に入れて背中に背負った。
丁寧に洗って、布巾で拭き、へたをとって
氷砂糖を入れてジュースを作るんだ。
ホワイトリカーをいれて、果実酒も楽しもう。
野菜をもらった時のためのお返しにもなる。
俺は、このお返しが気になって仕方なかった。
田舎暮らしのスローライフのメリットデメリットの
近所付き合いの問題点は、
このお返しをどう対処するかにかかっているような気がする。
もらいっぱなしは、ほんとに気が引ける。
コミュニケーション障害だけど、
お年寄りの話には生活の知恵が詰まってる。
「ええ、てんきですのんたい」
声をかけてくださることが嬉しい。
そうだ。玉ねぎをたくさんいただいたから
オニオンスープを作って持っていこう。
チョッパーに玉ねぎを入れ、みじん切りにした。
フライパンに入れ、じっくり火を通す。
あめ色になるまで根気よくかき回しながら焦がさないように炒める。
鍋に水と炒めた玉ねぎを入れコンソメ一つ入れて
ことこと煮込む。
とろとろの甘みのあるオニオンスープの出来上がり。
タッパーに入れてパセリを彩に添えた。
次の日、おばあちゃんがあんこを煮たからと
タッパーに入れて持ってきた。
はー。永遠に心のおもてなしは続く。
ありがとうございます。
柿8年
柚子は9年でなりさがり
梨の馬鹿野郎18年
何をやるにも実るまでには相当の努力と時間が必要なのだ。
なのに、なんか最近焦ってる。
俺の名前は、矢次誠一32歳。
ニート歴10年の自宅警備員のプロだ。
俺は今、陰キャ引きこもりニートから必至に
回復しようとしている。
両親が身罷ったせいで、引きこもりでは生活できなくなった。
なんせここは、都会とは違って過疎の無医村で
小売店もないからおやじが植えた苺一つ食べるにも
外に出なければ話にもならない。
お風呂だって、スイッチ押せばお湯が出るなんて
贅沢なシステムじゃないから木小屋から小木を持ってきて
五右衛門ぶろを沸かさなければいけないのだ。
スローライフ、ばんざーい。
おかげで一日中、動画とオンラインゲームという
ていたらくからは、脱却できそうなのだけど……。
リア充まっしぐら、良い感じに生活できているのに
もっともっと、はやくはやくって。
あううう。
深呼吸。
今日は自動車学校は休み。
そろそろ、親父が植えた「巴旦杏」と呼ばれるスモモも食べごろかな。
基本的に俺は、卑しいのかもしれない。
食い物のためなら、とことこ出かけていくよな。
水田には、熟れた巴旦杏がいくつもぷかぷか浮かんでる。
梅の実を収穫するときと同じように
ブルーシートを敷いて、木をゆするんだ。
光沢のあるその実は、口に含むと甘酸っぱく
子供の頃のおやつには最高の品だった。
おやじは、いろんな木や植物を植えてくれた。
初めて、親父のようになりたいと思った。
「人生は一生勉強」
広辞苑と字源をいつも傍らに置き、
答えを教えてくれるのではなく、
勉強の仕方、調べ方を教えてくれた。
俺はこんなにもおやじを好きだし、尊敬しているのに
重症うつ病になり、大学を卒業し就職したのに
へたってしまう自分が受け入れられなくて、
ずいぶんあることないこと、親のせいにしてきたな。
完璧な人間なんていないのにな。
食べきれないくらい豊作なプラムを竹で編んだ
とんのすと呼ばれる籠に入れて背中に背負った。
丁寧に洗って、布巾で拭き、へたをとって
氷砂糖を入れてジュースを作るんだ。
ホワイトリカーをいれて、果実酒も楽しもう。
野菜をもらった時のためのお返しにもなる。
俺は、このお返しが気になって仕方なかった。
田舎暮らしのスローライフのメリットデメリットの
近所付き合いの問題点は、
このお返しをどう対処するかにかかっているような気がする。
もらいっぱなしは、ほんとに気が引ける。
コミュニケーション障害だけど、
お年寄りの話には生活の知恵が詰まってる。
「ええ、てんきですのんたい」
声をかけてくださることが嬉しい。
そうだ。玉ねぎをたくさんいただいたから
オニオンスープを作って持っていこう。
チョッパーに玉ねぎを入れ、みじん切りにした。
フライパンに入れ、じっくり火を通す。
あめ色になるまで根気よくかき回しながら焦がさないように炒める。
鍋に水と炒めた玉ねぎを入れコンソメ一つ入れて
ことこと煮込む。
とろとろの甘みのあるオニオンスープの出来上がり。
タッパーに入れてパセリを彩に添えた。
次の日、おばあちゃんがあんこを煮たからと
タッパーに入れて持ってきた。
はー。永遠に心のおもてなしは続く。
ありがとうございます。
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