いとなみ

神による裁き 婚約破棄を受け入れます

「わたくし佐藤 洋一は、　伊藤 理恵との婚約を破棄する」

月並みな婚約破棄なら、こうはじまるのだろう。

ところが、私たちは違う。

神により裁かれたのだ。

いや、厳密に言うと、一般大衆の口コミによって……。

BGMは、フジ子・ヘミング～雨だれのプレリュード

大好きなショパンの曲です。


世論は常に死刑であり、
死刑はまた常に娯楽である。
芥川龍之介「侏儒の言葉」

おはようございます
ペンの暴力
自分の仲間内で、話の種 酒の肴程度で他者を裁いていたものが、
ネット環境　SNS等の普及により、
他者を裁くつぶやきが地球全体に行き渡ってしまう。
蒔いた種は自分で刈り取るのです

#花 pic.twitter.com/XSqhKKv879


わたくしが婚約したのは１０歳の時。

お相手は、私を溺愛する父が選びに選んだ佐藤家次男の洋一さま１６歳だった。

父は私の幸せを心から願って、神による裁きつきの神前契約とした。

契約内容は、『誠実』

これだけだった。

不完全な人間のする事ですもの。

筆卸成る名目で、女を買おうが侍らせようが

心さえ渡さなければすんだものを……。

お互いの手首に白のミサンガがまかれた。

通常の物なら、何年もつけているうちに色あせたり、

薄汚れたりする。

でも、これは墨をかけても誠実でさえあれば汚れる事は無かった。

そして、決して擦り切れたりしない。

洋一さま、あなたは神様の力を侮ったんですよね。

京都の祇園の舞妓さんを筆卸成る名目で、水揚げし、

連日連夜のどんちゃん騒ぎ。

一昔前なら、それも男の甲斐性だったかもしれません。

でも、不況のあおりを受けて人々は妬みの鬼となっております。

隣の芝生は青く見えるではなく、

青々と見えるのでございます。

パパラッチをはじめ、一般大衆までもが、

洋一さまと舞妓さんのツーショットが連日、SNSをにぎわした。

ハイエナの様に群がり、いじりはじめたのでございます。

「新型感染症の中、三密避けて俺らはがんばってるのに」

という妬みはメラメラと音を立てて燃え上がっていく。

別に洋一さまが芸者遊びをやめても誰かの懐が潤う訳じゃないのにね。

どうしたことでしょう。

まっ白だった洋一さまの左手のミサンガが薄汚れて来たのでございます。

そして、今では誰が見ても真っ黒。

洋一さまのSNSは大炎上。

TwitterもFacebookもInstagramも週刊誌までも

「まっくろくろすけ」

と、のたもうたのでございます。

断っておきますが、世評でミサンガが汚れる事は御座いません。

あくまでも、洋一さまの『誠実』なのでございます。

ということは、水揚げをした舞妓さんを

心から愛してしまったと言う事なのでしょうか。

智に働けば角が立つ

情に棹させば流される

意地を通せば窮屈だ

とかくに、人の世は住みにくい

夏目漱石「草枕」

父は洋一さまのミサンガを確かめると、

何事も無かったかのような顔でご神託を求めた。

当然のように『婚約破棄』

「ご神託により佐藤 洋一と伊藤 理恵との婚約を破棄する」

バンザーイ。

晴れて私は、厳律シトー会 天使の聖母トラピスチヌ修道院へ

にこやかに出発できるのでございます。

第63回さっぽろライラックまつり（2021年度）オンライン開催されております。

白、淡いピンク、濃いピンク、薄紫、濃い紫。

札幌の遅い春は、パソコンやスマホを通して旬と彩を添えて居ります。

内密のお話しですが、わたくしは婚約をする時に

お父さまとかけをしたのでございます。

もしも、そのまま結婚まで無事に進むならば

わたくしは修道院に入りたいと言う夢をあきらめます。

でも、もしも婚約が破棄されるならば

わたくしは修道院に入りたいと言う夢を叶える事ができるのでございます。

五月晴れの空の元、わたくし伊藤 理恵は佐藤 洋一との婚約を破棄し、

イエス・キリストの花嫁となるのでございます。

空は今日も灰黄緑、蕎麦切色、薄雲鼠、幾重にも重なる薄い雲で

絨毯のようにおおわれております。

東京では16日（日）から20日（木）までの5日間の合計日照時間が1時間半。

わたくしの心のような走り梅雨。

ちょっと、せつないのはどうしてなのかしら……。

ありがとうございました。