いとなみ

お届け物の娘です。ご賞味ください。10

今日は洋子の１６歳のお誕生日。

祐介さまと一緒に結婚届を役所に出してそのまま新婚旅行に出かける。

思ってもいなかったサプライズに未だに胸がときめいている。

こんなにわくわくする日は、同じ景色がきらめいて見える。

そよぐ風でさえ、さらさらと音が聞こえるくらい

五感が研ぎ澄まされて行く。

空は靄に包まれ、紫陽花は丸い小さな雫でびっしりとおおわれている。

庭の紫陽花の淡い若草色が少しずつ透明感のある水色に変わっていく姿が、

少女から乙女に変わっていく自分を表わしているようで

とても嬉しかった。

まるで万華鏡でも見ているかのような花弁のグラデーションに

心が揺らぐ。

ロココ時代の宮廷のお姫様たちでさえこんなに美しいドレスを

身に纏って居た者はいなかっただろう。

ふと聖書の、野のユリに思いを馳せた。

野のユリ: この花をアネモネと同定する人もいるが，チューリップ，ヒヤシンス，アイリス，グラジオラス，ユリなど，さまざまな花が含まれていたかもしれない。イエスはその地方で育つ多くの野生の花のことを言っていただけだと考えて「野の花」と訳す人もいる。「野のユリ」が「野の草木」と言い換えられているので，そのような推論もできる。（マタ 6:30。ルカ 12:27，28）

では，神が，今日ここに生えていて明日火に投げ込まれる野の草木にこのように服を与えているなら，ましてあなたたちには服を与えてくださるのではないでしょうか。信仰の少ない人たち。

ユリがどのように育つかを考えなさい。苦労して働いたり，糸を紡いだりはしません。しかし，華やかな生活を送ったソロモン王でさえ，このような花の1つほどにも装ってはいませんでした。神が，今日は生えていて明日火に放り込まれる野の草木にこのように服を与えているなら，ましてあなたたちには服を与えてくださるのです。信仰の少ない人たち。

知識として知ってる言葉が、心にストンと落ちてくる。

人はそれぞれ事情をかかえ、平然と生きているふりをする。

お義父様に仕えていた女の人たちは、

これからどうなるのか不安で仕方ない人もいるかも知れない。

一度お手を付けられた女性には、毎月のおてあてが支給されていると言う。

その収入減がすい臓がんの末期で幾ばくも無い命だとすると、

必死になっても仕方がない。

いや、なる方が普通だと思う。

夫である祐介さまは、それらも含めて家督を相続する。

どんなことがあろうと、そっとそばに居て補い手となる事が出来たら嬉しい。

１６歳の洋子に出来る事は限られていても、

いいところを見つけ、褒め続ける事は出来るよね。

そして、私自身も様々に変わっていく自分自身と折り合いを付けていこう。

変わる事が生きる事なのだから。

昨日までは、祐介さまが夜、

長い時間お出かけになる事を気にして、

とても憂鬱な気分で居たのに、

今日は打って変わって、さえずる雀にさえ優しい気持ちになれている。

色づいて円熟へと向かっている自分が嬉しかった。

そして、今日これから行われるであろう

新婚旅行先のあんなことやこんなことを想像して

独りで真っ赤に成っている洋子だった。

は・ず・か・し・い

「洋子さま～」

「だんな様が大変です」

「お義父さまがどうしたの」

容体が急変したと言う。

さっきまでキラキラと輝いていた周辺はあっという間に濃い霧に包まれてしまった。