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お届け物の娘です。ご賞味ください。9
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この家に来て、2カ月が過ぎようとしている。
洋子の胸は今にも張り裂けそうなほど、
悲しみとやるせなさでいっぱいになっていく。
祐介さまのお父様の膵臓がんの末期は、
痛みとの闘いだった。
どんなにつらくても、自分が少しでも役に立っているという
自己肯定感がもてたらそれは耐えられる。
でも、のたうち回るお義父様を見ているのが耐えられない。
自分の無力を責めてしまうのだ。
はじめは、背中をさすってあげたり、
足をマッサージしたりして少しでも痛みが和らぐように
頭寒足熱を試みたりしていた。
本当に痛い時って、触られるのもいやだったりします。
お部屋に誰かがいる事さえ、煩わしかったり……。
でも、段々痛みは増していき、
主治医の処方でぶどう酒にモルヒネを混ぜて与えるほど
人知を超えた壮絶なものに変わっていく。
通常なら、薬物とアルコールを混ぜたりしない。
4倍の相乗効果があるからだ。
しかも、尊厳死をお義父さまは求められるので
むやみに入院させて医者や看護師さんに委ねると言う事も出来ないでいる。
よほど、精神の安定した人でも末期がんを看取るのは大変なことだと思う。
血は繋がっていないとはいえ、時間を共に過ごし
愛情が少しずつ増していく。
そんな洋子の苦悩を余所に、
夫の祐介さまは毎夜、お散歩に出かけられ
その時間はどんどん長くなっていった。
紗織さまの所に行かれているのだろうか。
洋子は自分の中にめらめらと沸き起こる嫉妬を抑えるのに必死だった。
使用人たちは噂している。
「やっぱり、紗織さまの勝なのね」
「いまだに洋子さまは処女のままだとか」
「手つかずと言う事か」
ああ、もう、そんな言葉は聞きたくない。
だって、お義父さまのことだけで精一杯なのに。
もうすぐ、洋子は16歳になる。
親の許可があれば、結婚できる年齢に達する。
誰もお祝いしてもらえない誕生日なのだろうか。
沢山の人々の中で一人ぼっちの寂しい16歳を迎えるのだろうか。
この家に私の味方はいない。
受け入れがたい現実に対処できなくて、
このまま消えてしまえばいいとさえ思ってしまう。
朝食が終わり、お義父まの清拭も終わってひと息つこうとしたら、
祐介さまからLINEが入った。
少しお話がしたいとのこと。
珍しい事もあるものだ。
午前中に祐介さまとお話しするのはこの家に来て初めてかも。
「洋子さん、明日は16歳のお誕生日だね」
白地に紺のボーダーのボートネックの綿セーターをさわやかに着こなして
薄曇りの中を中庭の噴水の傍に現れた祐介さまに見とれてしまう。
どことなく品と清潔感があり、であった頃よりは大人の色気を醸し出している。
もうすぐアラサーを意識してか、最近、髪型も髪色も変わってきている。
「祐介さま、きょうのお洋服素敵です」
その都度、洋子は祐介をほめる。
「洋子さんは、ほめ上手だな~」
少し照れながら、それでも嬉しそうに頭を撫でてくださる。
そんなさりげないひと時でさえ、ドキドキしている自分が少し恥ずかしい。
頬だけではなく、耳まで赤くなってしまうのだ。
雫を纏ったアジサイがほんのりと色を変えていく。
若草色から淡い水色へ
白から淡いピンクへ
まるで洋子の心のように変幻自在。
突然、祐介さまが白い長い指を洋子の唇に当て、
「旅行に行こう。疲れただろう」
「えええ?」
「明日、婚姻届けを出してその足で二人で旅に出るんだ」
まるで光のシャワーでも浴びたように祐介間が光って見える。
だって、突然のお話しにびっくりしてしまう。
お義父が身罷るまではどこも出かけられないんだと思っていたもの……。
洋子の胸は今にも張り裂けそうなほど、
悲しみとやるせなさでいっぱいになっていく。
祐介さまのお父様の膵臓がんの末期は、
痛みとの闘いだった。
どんなにつらくても、自分が少しでも役に立っているという
自己肯定感がもてたらそれは耐えられる。
でも、のたうち回るお義父様を見ているのが耐えられない。
自分の無力を責めてしまうのだ。
はじめは、背中をさすってあげたり、
足をマッサージしたりして少しでも痛みが和らぐように
頭寒足熱を試みたりしていた。
本当に痛い時って、触られるのもいやだったりします。
お部屋に誰かがいる事さえ、煩わしかったり……。
でも、段々痛みは増していき、
主治医の処方でぶどう酒にモルヒネを混ぜて与えるほど
人知を超えた壮絶なものに変わっていく。
通常なら、薬物とアルコールを混ぜたりしない。
4倍の相乗効果があるからだ。
しかも、尊厳死をお義父さまは求められるので
むやみに入院させて医者や看護師さんに委ねると言う事も出来ないでいる。
よほど、精神の安定した人でも末期がんを看取るのは大変なことだと思う。
血は繋がっていないとはいえ、時間を共に過ごし
愛情が少しずつ増していく。
そんな洋子の苦悩を余所に、
夫の祐介さまは毎夜、お散歩に出かけられ
その時間はどんどん長くなっていった。
紗織さまの所に行かれているのだろうか。
洋子は自分の中にめらめらと沸き起こる嫉妬を抑えるのに必死だった。
使用人たちは噂している。
「やっぱり、紗織さまの勝なのね」
「いまだに洋子さまは処女のままだとか」
「手つかずと言う事か」
ああ、もう、そんな言葉は聞きたくない。
だって、お義父さまのことだけで精一杯なのに。
もうすぐ、洋子は16歳になる。
親の許可があれば、結婚できる年齢に達する。
誰もお祝いしてもらえない誕生日なのだろうか。
沢山の人々の中で一人ぼっちの寂しい16歳を迎えるのだろうか。
この家に私の味方はいない。
受け入れがたい現実に対処できなくて、
このまま消えてしまえばいいとさえ思ってしまう。
朝食が終わり、お義父まの清拭も終わってひと息つこうとしたら、
祐介さまからLINEが入った。
少しお話がしたいとのこと。
珍しい事もあるものだ。
午前中に祐介さまとお話しするのはこの家に来て初めてかも。
「洋子さん、明日は16歳のお誕生日だね」
白地に紺のボーダーのボートネックの綿セーターをさわやかに着こなして
薄曇りの中を中庭の噴水の傍に現れた祐介さまに見とれてしまう。
どことなく品と清潔感があり、であった頃よりは大人の色気を醸し出している。
もうすぐアラサーを意識してか、最近、髪型も髪色も変わってきている。
「祐介さま、きょうのお洋服素敵です」
その都度、洋子は祐介をほめる。
「洋子さんは、ほめ上手だな~」
少し照れながら、それでも嬉しそうに頭を撫でてくださる。
そんなさりげないひと時でさえ、ドキドキしている自分が少し恥ずかしい。
頬だけではなく、耳まで赤くなってしまうのだ。
雫を纏ったアジサイがほんのりと色を変えていく。
若草色から淡い水色へ
白から淡いピンクへ
まるで洋子の心のように変幻自在。
突然、祐介さまが白い長い指を洋子の唇に当て、
「旅行に行こう。疲れただろう」
「えええ?」
「明日、婚姻届けを出してその足で二人で旅に出るんだ」
まるで光のシャワーでも浴びたように祐介間が光って見える。
だって、突然のお話しにびっくりしてしまう。
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