いとなみ

春秋花壇

文字の大きさ

大中小

234 / 1,590

穀雨　ステップファミリーの情景

しおりを挟む

俺の名前は、七尾茂樹　30歳。

俺は小さい時から、家庭に恵まれず養護施設で育った。

暖かな家庭生活に憧れ、いつか大人になったら俺も

家族の柱となれるよう夢見てきたんだ。

高校までは施設で行かせてもらった。

そのあと、必死で働きながらSEの勉強をして

対外的にスキルを証明できる

関連知識を体系的に習得できる　

目標の設定によりモチベーションを向上できる

を目的にして、C言語プログラミング能力認定試験などの

資格を取得してきた。

専門学校で知り合った友達や仕事をするようになって

知りあった人たちと起業し、今はかなりの年収をもらえるようになってきた。

友達と始めた、婚活アプリで知り合った4歳年上の

眞田美保子　34歳。

と、1年前、結婚したんだ。

彼女には、16歳の娘

悠佳(はるか)ちゃんの連れ子がいた。

「俺もいよいよ、父親になるんだ。

笑いの絶えない家庭にしたいな」

妻の美保子さんは色白で竹下夢二の絵に出てきそうな

美人さんで掃除や洗濯、料理も上手で

このままいけば理想の家庭生活ができると

楽しみにしていた。

年に2回くらいは家族でキャンプに行けたら嬉しいななんて

期待に胸を膨らませていたんだ。

少しずつ、三人の生活にも慣れてきたころ、

悠佳ちゃんの様子が変だ。

まあ、14歳しか違わないんだから、違和感満載なんだろうなと

反抗期のプロセスと気に留めないようにしていたんだが……。

徐々に態度が激しくなり、

俺をまるで汚物でも見るかのような言動に変わっていった。

長いこと、母子家庭だったんだろうから

慣れないのかなと思いやりを示し、

トイレだけは毎日、笑顔で感謝しながら掃除してたんだ。

親の背中を見て育ってくれたらな淡い期待もあった。

ある時、使った生理用品をそのまま汚物入れに捨ててあったので、

「トイレットペーパーで包んでくれると掃除する人も楽だよ」

と、注意をすると、いきなり、

「くそ、おやじ、うぜーえんだよ。父親顔しやがって。

お前なんか、ママのおもちゃの一つなんだから、大人しくしてな」

って、叫んだんだ。

あまりの言われように、俺はぽかんと口を開けてたたずんでいた。

確かに、実の親子でも難しい年齢なのだろう。

それにしても、すごい人生観だな。

俺はあえて、言い合いになるのを避け、問題から少し距離を取ることにした。

後日、区の教育委員会にステップファミリーについて

相談できるようにアポイントを取った。

妻に相談しても、らちがあかない。

黙認している風なんだ。

これは俺の思っていた家庭生活とは違う。

愛も尊敬もない生活。

人を変えることはできない。

変えられるのは、自分の捉え方と自分自身。

あれから半年、俺なりに努力をしてきた。

どんな反応をされようと、だめはだめ。

最低限の、家庭でのルールを作って実践してきた。

きちんと挨拶をすること。

できるだけ一緒に食事をすること。

出したものは片づけること。

基本的な生活態度は人生の礎だと思っている。

人には人の事情があるし、

タンポポを薔薇に

薔薇をタンポポには変えられない。

俺は、彼女たち親子をありのままに受け入れようとした。

ところが、二人の態度は日増しにひどくなっていった。

金曜日、学校にも行かないでゴロゴロしている悠佳ちゃんに

「起立性調節障害という病気もある。

続くようなら、ママに病院に連れて行ってもらったらいい」

と、優しく声をかけたんだ。

すると、彼女は

「ATMは黙ってろ」

って……。

ああ、無情。

確かに、ステップファミリーは難しいのだろう。

まして、思春期。

今までは、ママと二人で自由に買い物に行ったり

外食してたのかもしれない。

俺は、悠佳ちゃんに何を望んでいるんだろう。

どうしても欲しいものがあるなら、

明確にイメージするんだ。

育てていくんだ。

待つこと、続けること。

大人と子供を分けるプログラムである。

親という字は、木の上に立って見ると書く。

まずはしっかり観察だね。

相手が何に関心があるかに関心を持つ。

ステップファミリーつまり再婚家庭は特有の課題を抱える。

「あらゆる人間関係の中で最も複雑で不自然で難しいもの」

と、心理学者のウィリアム･メルケルは述べている。

即席ラーメンじゃないんだから、

じっくり時間をかけて対処していけばいいいよな。

大丈夫だよ。

美保子さんと悠佳ちゃん。

俺は運のいい男なんだ。

いきなり花は咲かない。

芽が出て、葉が出て光を浴びて成長するんだ。

茎が伸びて、根も張ってやっと蕾が付く。

諦めるな。

投げるな。

逃げるな。

①自分が間違ってるかもしれないと常に自分を疑う事
②世の中には絶対的に正しい意見なんてないと認識する事
③立場が変われば正義も正解も変わると意識しておく事

"人にできて、
きみだけにできないことなんてことあるもんか"
ドラエモン

しおりを挟む