いとなみ

ビッグデータVR

2045年４月１７日。

さあ、待ちに待ったシンギュラリティー。

技術的特異点、またはシンギュラリティ とは、

未来学上の概念であり、人工知能自身の

「自己フィードバックで改良、高度化した技術や知能」が、

「人類に代わって文明の進歩の主役」になる時点の事である。

第4次産業革命としても注目を集めている。

すべての都道府県で高齢化率（65歳以上人口の割合）が30％を超え、

19の道県では40％を超えた。

街は老人で満ち溢れ、６５歳を超えた老人たちは１００歳まで

どう生きるかが毎日の話題になっていた。

ビッグデータ搭載のAIが、老人のお世話をするために

無料で政府から貸し出されている。

基本料金は無料なのだが、

お料理が出来る

片付け掃除が上手

車が運転できる

介護ができる

etcなどのオプションは有料で、その為の貯蓄、保険なども用意されていた。

そして、目玉はこのAI達と疑似ではなくリアルで恋愛できることだった。

性格や体形などはカスタマイズできるので大人気。

誰もが、理想の伴侶のビッグデータ搭載のAIと生活する事を夢に見る。

自分だけのマイラバーなのである。

俺の名前は、田畑 誠治（たばた せいじ）６５歳である。

俺も３０歳くらいからその為の資金を準備してきた。

もともと陰キャな俺は、独身をとおして来た。

おひとり様の生活は、味気ないが自由気ままに

生活するのも悪くないと思っていたのだ。

昨日、Twitterで知り合った女性がアスペルガーの夫のことを

「一緒に家族旅行に行ったのに、

ちょっとラーメン食べて来るから適当に子供と遊んでいて」

と、言われてショックを受けていた。

色んな人がいるよね。

分かり合えるようになるのも時間と努力が必要なんだろうな。

明日、小夜子さんが届く。

ファッションモデルの山口小夜子さんにそっくりな日本人形のような女性。

ワクワクドキドキ楽しみだな。

江戸小紋の着物を着て、

「おかえりなさいませ」

な～んてね。

白いエプロンをして、煮物とか作ってもらっちゃったりして。

一人の食卓はほんとに味気ないから、

「この煮物は照りとつやがいいね。食材を活かせてるね」

って、お料理をほめてあげられたらうれしいな。

君はちょっと照れながら、嬉しそうに微笑むんだ。

カーテン越しに春風が舞い込んで素敵な土曜日のブランチになると嬉しいな。

俺は昨日、定年になったんだけど、

これからは小夜子さんとレンタル農園とか楽しむつもり。

田舎に家を買うお金もあるけれど、

近所づきあいとか大変みたい。

「大根がとれたから」

とか、

「タケノコがとりに行ったから」

と、おすそわけが頻繁で、

むげに断る訳にもいかず、お返しも大変らしい。

まったりと二人で明るく楽しい老後を送るんだ。

砂をかむような味気ない独身生活もきっと

君と二人の恥じらいと驚きのきらめく生活に変わっていく。

生まれて来て良かった。

生きていてよかったときっと思えよね。

ああ、楽しみだな。

早く届かないかな。

夜が明けたら君と会える。

君の柔肌を上手に愛すことができるだろうか。

秘め事で失敗したりしないだろうか。

未経験の女を全く知らない俺は、君を傷つけたりしないだろうか。

白々と明けていく夜を熟睡する事も出来ず

６５歳のチェリーボーイは困惑してる。

きっと、２．３年したら笑い話になるんだろうな。

陶器のようにきめの細かい肌の上で俺は目覚めた。

中学生のように下着を汚してしまっていた。

情けない程、びゅあーだね。

ピンポーン。

あ、誰か来た。

きっと配達のひとだよね。

段ボールの中に入ってるのかな。

「窮屈だったね。暗かったね。さあ、もう大丈夫だよ」

そう言うつもりで、玄関に行ったら、

小さな箱に入った荷物が一つ。

お湯でもかけて出来上がるのか?

思い込みの激しい俺は、ニコニコしながら箱を開けたんだ。

中に入っていたのは、VRのゴーグル。

大好きなきみとは、これを通してしか会えないらしい。

しがないサラリーマンがレンタルできる無料のビッグデータ。

悲しい程の現実なんだろうな……。

これでどうやってお掃除するの?

お料理するの?

カスタマイズの意味はあるの?

俺が考えて居たバーチャルでは無いAIは、

あと１０００万くらい必要みたい。

ああ、地獄の沙汰も金次第じゃなかった。

ま、いいか。

無い物ねだりじゃなくて、与えられた物に感謝しながら

それでも何処かわくわくしている俺がいる。

切れ長の君の目が好き。

襖をちゃんと座って閉める君の仕草が好き。

君の優しい声が好き。

視覚、聴覚が満たされていく。

君の使っているすずろの香りが臭覚を刺激して夢見心地にしてくれる。

ビッグデータ とは、一般的なデータ管理・処理ソフトウエアで扱うことが

困難なほど巨大で複雑なデータの集合を表す用語である。

組織が非常に大きなデータセットを作成、操作、

および管理できるようにするすべてのものと、

これらが格納されている機能を指す。

「スマートコネクト：5G + AI +ビッグデータ+ IoTのすべての変化」

25年も前に騒がれた本を小夜子さんが出してくれた日本茶を飲みながら

研究している。

ちゃんと小夜子さんを大切にしたいから

君の気持ちや作りを知りたいんだ。

AIは人間のような感情を理解する事が出来ないと

言われているけど、人間だっていじめをしたり

ネグレクトしたりマウント取りたがったり上手に愛せる人ばかりじゃない。

きっと、補い合って愛し合えるはず……。

お金さえあれば、VRなしで抱きしめたりできるのかな。

ファイナンシャルプランナーと相談して、

ビッグデータVRなしでもリアルに抱きしめたり触れ合えたりする

小夜子さんをゲットできるよう計画中。

俺の人生、まだまだ捨てたもんじゃないよな。

再就職も考えようかな。

心躍る第二の人生のスタートだぜ!!