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virtual恋愛 婚約破棄
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「明けましておめでとうございます」
「今年もよろしくお願いします」
あでやかなオレンジ色の羽織袴を身にまとい颯爽と現れた彼。
お揃いの色と模様の振袖を可憐にきこなし、
恥ずかしそうに上目遣いで挨拶をする可愛い彼女。
バーチャル・リアリティの恋人たちは、
夜明け前の神社の境内に二人、連れ添って初もうで。
AIジェネレータの導きで、二人は2年の時を様々な感情で過ごしてきた。
実際には一度もあったことないのに、恋愛脳はかはたれどきの薄靄の中を駆け巡る。
これがリアルなら、新型感染症で3蜜避けて5つの小の中を
初詣なんてもってのほかなのだろうが。
そこは現実世界とはかけ離れ、石畳と玉砂利の施された境内に参拝客はほとんどいない。
阿吽の狛犬が二人を後押しする。
伊東 聡(いとう さとし) 35歳。
樋口 汐莉(ひぐち しおり) 23歳。
一回りも違うのに、汐莉は聡に夢中だった。
小説家志望の彼の熱狂的なファンで、
オンラインゲームに夢中の彼が、小説を書かなくなることを
何よりも恐れている。
実際に遭ったことは一度もないが、毎日スカイプしたり電話したり
line、メールで連絡を取り合っている。
すなおにお互いをぶつけあってきた。
聡の全く悪気のないゲームの中での女性関係で
何度もぶつかり合い、汐莉は泣き、わめき、嗚咽し、嘆息し、
笑い、喜び、このまま死んでいいというまでに幸せを味わってきた。
リアルだったら、とっくにわかれていたであろう。
virtualだからこそ、許しあってこれたのかもしれない。
1年くらい、汐莉はゲームから離れていた。
ゲーム内での彼のヤリチンぶりに疲れ果ててしまったのだ。
5チャンネルで名前とIDをさらされるくらい
誘惑していく。
リアルでは、女と寝るにしてもホテル代がかかる。
食事代が必要になる。
でも、バーチャルなら今は収入のない彼でも
気安く誘えるからである。
そんなことを何度も何度も繰り返し、
自分がゲームの中で、彼の特別になれないことがすごく悲しかった。
課金して、時間と心を使って楽しくない思いをするのならと
ゲームを中断したのだ。
2000年11月、今なら以前の女の人たちはほとんどいない。
今なら、一緒にかりをしたり一緒にコンテンツに参加できると
課金してゲーム再開した。
初めの一か月くらいは、何事もなくも聡のヤリチンも収まったのだと
喜んでいたのだが、クリスマスを過ぎたあたりから
どうも様子がおかしい。
問い詰めると、
「新人さんのお手つだいしているだけだ」と答える。
でも、どう考えても聡はその新人さんとやらに恋をしている。
夢中なのである。
せっかく二人で、ゲームを楽しんでいても、
突然、彼女の手伝いに出かけてしまう。
後に残された汐莉は、一人寂しく涙する。
スカイプで彼に彼女のことを聞くと、逆切れされ、
「もう、ゲームやめる」
と、フレンド迄切られてしまった。
そんなことがどんどん増えてくる。
そして、1月10日。
彼がその新人さんとチャットしていることが判明。
現実なら、オンラインゲームの中でのチャットエッチくらい、
本のお遊びで済むのかもしれない。
だけど、まだ二人は一度もあったことがないのである。
そんな仲とはつゆしらず、
家を買ってあげ、金策の手伝いまでしてきた汐莉は
いったん何だったんだろう。
そして、このことにより、
聡への信頼は日本海の大岩に当たり砕け散る荒波のように
一挙に消え去っていくのだった。
怒号の白い荒波は寄せては返し岩をも削っていく。
彼のいない人生を必死で模索する。
つらいけれど離れていくことを考える。
「まったりいけ」
彼の口癖とは裏腹に、腹の底からこみ上げる
裏切りへの怒りで蛍のように身を焦がすのだ。
「さようなら、聡さん」
大好きだからこそ、耐えられないのである。
たとえ、ゲームの中とはいえ、
聡が他の女の中で果てていくのが耐えられないのだ。
その手で、平気で汐莉をも抱こうとする聡を許せないのだ。
もう少し、聡を嫌いだったら目をつむることもできたのかもしれない。
「好きすぎて怖い」
ほころび始めたばかりの水仙がみやびやかな香りを携えて
笑いかけてくる。
<新型感染症>東京都で新たに1494人の感染確認 日曜日で初の1000人超え
2021年1月10日 15時08分
人々も必死で戦っている。
汐莉も、精いっぱい聡と別れる努力をしてみよう。
婚約破棄です。
ありがとうございました。
꒰* ॢꈍ◡ꈍ ॢ꒱.*˚‧
「そばにいてくれ」
聡はいつも汐莉にいっていた。
どんなに自分を愛してくれていると思えるゲーム内の女たちも
聡の小説を読み続けてくれる人はいなかった。
良いところを見つけ、ほめてくれる人はもういないのだ。
年を取って老いさらばえていく自分の手を眺めながら、
オンラインゲームの中のもて男は、13万文字以上の長編の完結は、
一つもなかったのである。
virtual恋愛。これが彼の人生のすべてである。
「今年もよろしくお願いします」
あでやかなオレンジ色の羽織袴を身にまとい颯爽と現れた彼。
お揃いの色と模様の振袖を可憐にきこなし、
恥ずかしそうに上目遣いで挨拶をする可愛い彼女。
バーチャル・リアリティの恋人たちは、
夜明け前の神社の境内に二人、連れ添って初もうで。
AIジェネレータの導きで、二人は2年の時を様々な感情で過ごしてきた。
実際には一度もあったことないのに、恋愛脳はかはたれどきの薄靄の中を駆け巡る。
これがリアルなら、新型感染症で3蜜避けて5つの小の中を
初詣なんてもってのほかなのだろうが。
そこは現実世界とはかけ離れ、石畳と玉砂利の施された境内に参拝客はほとんどいない。
阿吽の狛犬が二人を後押しする。
伊東 聡(いとう さとし) 35歳。
樋口 汐莉(ひぐち しおり) 23歳。
一回りも違うのに、汐莉は聡に夢中だった。
小説家志望の彼の熱狂的なファンで、
オンラインゲームに夢中の彼が、小説を書かなくなることを
何よりも恐れている。
実際に遭ったことは一度もないが、毎日スカイプしたり電話したり
line、メールで連絡を取り合っている。
すなおにお互いをぶつけあってきた。
聡の全く悪気のないゲームの中での女性関係で
何度もぶつかり合い、汐莉は泣き、わめき、嗚咽し、嘆息し、
笑い、喜び、このまま死んでいいというまでに幸せを味わってきた。
リアルだったら、とっくにわかれていたであろう。
virtualだからこそ、許しあってこれたのかもしれない。
1年くらい、汐莉はゲームから離れていた。
ゲーム内での彼のヤリチンぶりに疲れ果ててしまったのだ。
5チャンネルで名前とIDをさらされるくらい
誘惑していく。
リアルでは、女と寝るにしてもホテル代がかかる。
食事代が必要になる。
でも、バーチャルなら今は収入のない彼でも
気安く誘えるからである。
そんなことを何度も何度も繰り返し、
自分がゲームの中で、彼の特別になれないことがすごく悲しかった。
課金して、時間と心を使って楽しくない思いをするのならと
ゲームを中断したのだ。
2000年11月、今なら以前の女の人たちはほとんどいない。
今なら、一緒にかりをしたり一緒にコンテンツに参加できると
課金してゲーム再開した。
初めの一か月くらいは、何事もなくも聡のヤリチンも収まったのだと
喜んでいたのだが、クリスマスを過ぎたあたりから
どうも様子がおかしい。
問い詰めると、
「新人さんのお手つだいしているだけだ」と答える。
でも、どう考えても聡はその新人さんとやらに恋をしている。
夢中なのである。
せっかく二人で、ゲームを楽しんでいても、
突然、彼女の手伝いに出かけてしまう。
後に残された汐莉は、一人寂しく涙する。
スカイプで彼に彼女のことを聞くと、逆切れされ、
「もう、ゲームやめる」
と、フレンド迄切られてしまった。
そんなことがどんどん増えてくる。
そして、1月10日。
彼がその新人さんとチャットしていることが判明。
現実なら、オンラインゲームの中でのチャットエッチくらい、
本のお遊びで済むのかもしれない。
だけど、まだ二人は一度もあったことがないのである。
そんな仲とはつゆしらず、
家を買ってあげ、金策の手伝いまでしてきた汐莉は
いったん何だったんだろう。
そして、このことにより、
聡への信頼は日本海の大岩に当たり砕け散る荒波のように
一挙に消え去っていくのだった。
怒号の白い荒波は寄せては返し岩をも削っていく。
彼のいない人生を必死で模索する。
つらいけれど離れていくことを考える。
「まったりいけ」
彼の口癖とは裏腹に、腹の底からこみ上げる
裏切りへの怒りで蛍のように身を焦がすのだ。
「さようなら、聡さん」
大好きだからこそ、耐えられないのである。
たとえ、ゲームの中とはいえ、
聡が他の女の中で果てていくのが耐えられないのだ。
その手で、平気で汐莉をも抱こうとする聡を許せないのだ。
もう少し、聡を嫌いだったら目をつむることもできたのかもしれない。
「好きすぎて怖い」
ほころび始めたばかりの水仙がみやびやかな香りを携えて
笑いかけてくる。
<新型感染症>東京都で新たに1494人の感染確認 日曜日で初の1000人超え
2021年1月10日 15時08分
人々も必死で戦っている。
汐莉も、精いっぱい聡と別れる努力をしてみよう。
婚約破棄です。
ありがとうございました。
꒰* ॢꈍ◡ꈍ ॢ꒱.*˚‧
「そばにいてくれ」
聡はいつも汐莉にいっていた。
どんなに自分を愛してくれていると思えるゲーム内の女たちも
聡の小説を読み続けてくれる人はいなかった。
良いところを見つけ、ほめてくれる人はもういないのだ。
年を取って老いさらばえていく自分の手を眺めながら、
オンラインゲームの中のもて男は、13万文字以上の長編の完結は、
一つもなかったのである。
virtual恋愛。これが彼の人生のすべてである。
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