いとなみ

婚約破棄 ADHD2-2

　珍しく続きである。

西田 将　29歳。

関本 幸子　23才。

二人は婚約中なのだが、

突然、彼女のアパートを訪れた俺は、

彼女の世話している美しい色とりどりの花々とは打って変わって

お部屋の中がゴミ屋敷なのに驚きを隠せなかった。

シコンノボタン、葉鶏頭、インパチェンス、

ユーフォルビアダイヤモンドフロスト、

アメリカンブルー（エボルブルス）

ブルーセージ、リンドウ、桔梗、宿根朝顔。

青いお花たちがはしゃぎ、踊り、戯れる。

きちんと手入れしてあって、

本当に美しいマイ・ガーデン。

このきれいなお庭の持ち主がまさか

扉を開ければゴミ屋敷の住人。

誰が想像できるだろう。

ぎょえー。ギョエーですよ。まじで。

何で彼女は、庭の手入れはできるんだろう。

まるで、別人の住処。

まるで、さよりみたいじゃん。

外側は、美しい魚なのに

おなかの中はまっ黒みたいな。

彼女の実生活を見て唖然とした。

言葉をなくした。

二人の明るい未来が、突然の台風で停電になったみたいに。

彼女は、まぎれもないADHD

ADHD（注意欠如・多動症）は、「不注意」と「多動・衝動性」を主な特徴とする発達障害の概念のひとつです。 ADHDを持つ小児は家庭・学校生活で様々な困難をきたすため、環境や行動への介入や薬物療法が試みられています。

だったのである。

「不注意（活動に集中できない・気が散りやすい・物をなくしやすい・順序だてて活動に取り組めないなど）」と「多動-衝動性（じっとしていられない・静かに遊べない・待つことが苦手で他人のじゃまをしてしまうなど）」が同程度の年齢の発達水準に比べてより頻繁に強く認められること
症状のいくつかが12歳以前より認められること
2つ以上の状況において（家庭、学校、職場、その他の活動中など）障害となっていること
発達に応じた対人関係や学業的・職業的な機能が障害されていること
その症状が、統合失調症、または他の精神病性障害の経過中に起こるものではなく、他の精神疾患ではうまく説明されないこと

というのが定理のようである。

「ほー、掃除がんばってるね」

少しずつ、床に置かれていたものが少なくなっている。

彼女は今、必死でADHD、片付けられない女から脱却しようとしていた。

物を減らすこと。

物の定位置、住所をつけて元に戻すこと。

床に物を置かないこと。

それでも、布団のそばに５本のペットボトルが転がっている。

俺も彼女もそして、医者も彼女の病状が

努力で治るのかどうかわからなかった。

気質的なものだとしたら、

海水魚を淡水で飼おうとしているのかもしれないし。

アメリカでは、アンフェタミンという薬が使われているようだが、

依存性もあり、日本ではどうなのか……。

皆さんは、奥さんに貰うならどんな人がいいですか?

奥さんじゃなくても、一緒に住むならどんな人がいいですか?

俺は、やっぱり料理がうまくて、

片づけがうまい人かな。

だって良く、だんなの胃袋をつかめって言うじゃないですか。

衣食住は生活の基本。

家庭はやっぱり、安心できるところにしたい。

別にさ、努力してもどうしても無理だったら、

彼女が住んでいるところに一緒にいる必要はないというか

週末婚みたいにするしかないかなって思うんだよね。

どうしてもだめだったらってことだよ。

多動を抑えるには、ラジオ体操、結構有効みたいなんだ。

しっかり、基本的な運動をすると基本的な生活態度も安定するみたい。

同じ時間に同じ場所に行くことによって、

それを軸にして生活をまわせばいいから

睡眠障害があっても、昼夜逆転するのを防げる。

彼女は、俺が介入する前から

必死でラジオ体操いっていて、

自堕落に暮らしているんじゃないとわかっていたから

俺も何とか協力したいなって思ってるんだ。

流しのあらいものもたまってなかったし、

洗濯物も色物もちゃんと分けて豆に洗濯していたし。

昨日は、乾いたものが山済みされていたけど、

今日はちゃんと整理されていた。

トイレもぴかぴかだし、がんばってる彼女を

ほっとけないじゃないか。

なーんて、結局、俺は彼女が

嫁としてふさわしい特質がなくても

「婚約破棄だ」

とは、言えないくらいまだ惚れているってことなんだろうな。

えへへへ。照れるぜ。

小雨に煙る、初秋の空はご飯を炊く安らぎの香りで包まれていく。

甘く優しいかあさんみたいな穏かなにおい。

ジャガイモとわかめの味噌汁、冷奴、豆苗のおしたし、

目指しの焼いたやつ、高菜のつけもの、フルーツは甲斐路という葡萄。

ヘルシーでとってもおいしい。

冷奴には、彼女が育てた青じそが刻んであった。

彼女、拭き掃除が苦手なんだって。

それでも、昨日来たときは四隅にしっかりごみがたまっていたのに

今日は、きれいに掃き清められていた。

「将さんが喜んでくれるから、お掃除がんばったの」

叱られてばかりいたみたいで、

ほめるとめちゃくちゃ喜んでくれるんだ。

あは、かわいいね。

そして、笑っちゃうのが、

掃除機の紙のパックが一杯になったから、

取り替えようとしたら、どんなにがんばっても

装着できなかった。

仕方なく、使っていた入っていたゴミパックから

ゴミを引きずり出したんだってさ。

そこまでして、掃除しようとしてくれる彼女を

放り出すこともできず、やっぱりとても、

「婚約破棄だ」

とは、いえない。

HARNEY&SONS（ハニー＆サンズ）のホット・シナモン・スパイスが香る。

イタリアの鮮やかなティーカップリチャードジノリが

観葉植物一杯のテーブルに良く映える。

紺色のボタニカル柄が落ち着きを添える。

いいセンスしてるんだけどな。

彼女の選ぶ家具や食器ははんなりとした

品と落ち着きと華やかさがある。

決して、高いだけのブランド志向ではなかった。

じっくり良いものを選ぶ。

大切なことだよね。

だって、人生は選択の連続だと思うから。

ティーソーサーに添えられたドライアップルが

あでやかにシナモンティーとハーモニーを奏でる。

口の中が彼女の共鳴で満たされていく。

ひょっとして俺、エンパス?

エンパスとは、一言で言うと「共感力の高い人」のこと。ただ優しいとか、想像力があって共感しているのではなく、「他人の感情を自分の感情のように感じてしまう」といった体質の人を指します。つまり、人の感情に過剰に影響を受けやすい人

処女に少女に娼婦に淑女

共依存にならないように気をつけないとな。