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婚約破棄 霜月
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「もういやだー。生きてる価値がない」
おお泣きに泣いた。
わたしの中にこれほどの水分があるのかと思うくらい、
涙でビショビショになった。
そう、わたしは、婚約破棄されたのだ。
それからは、何もする気になれず、
一日中、ぼーと部屋に閉じこもって過ごした。
食事は、部屋の前に毎日置かれていた。
トイレは、2階にもあるので、困らなかった。
お風呂も、最初は毎日入っていたのに、
だんだん、2日に一回になり、
3日に一回になり、
1週間に一回くらいになっていった。
女の子なのに。
だれか、早く殺してよ。
もっともっとめちゃくちゃにしてよ。
もうどうでもよかった。
自分は生きるのに、あたいする人間です。
自分は、自分のままでいいのです。
自分は愛するに、あたいする人間です。
自分は、自分の居所をつくっていいのです。
自分を、うんと好きになります。
この言葉を読み、何度も泣いた。
なんで、こんなになっちゃうの。
どうすればいいの。
何から手をつければいいの。
部屋はどんどんゴミだらけになり、
それでも気にならなくなった。
そう、わたしはインターネット依存症になり、
朝から晩まで、オンラインゲームやネットサーフィンをしていた。
SNSも楽しい。
ネットの中では、私は美しい聡明なヒロインだった。
お父様が来て、説教しても、
お母様が来て、なだめてくれても、
わたしはその場は「はい」と、返事をするのだが、
次の日から、具合が悪くなり、
言われたことは愚か、前よりもひどい状態になっていった。
窓ガラスも曇り、外の景色がよく見えない。
明るい希望なんて言葉は、とうにわたしの辞書からは外れていた。
時価2億を直に置く。
アニソンショーで兄、損傷
あん畜生にアンチ苦笑
鷺宮の詐欺飲み屋
案内係にあんな言いがかり
マニアウヨウヨいるけど間に合う様よ
弱い菅、野田では世はいかんのだ。
「ジュースうめぇ」と言う十数名
あなた毛布取らないで!
お前ももう太らないで!!
アラブ総選挙で、あら武装占拠?
やめろー、おやじも真っ青になって逃げる。
そう、わたしはセルフネグレクトしたのだ。
父と母は、わたしを何とかしようとあの手この手を使って、
いろんな人を連れてきたり、連れて行こうと試行錯誤するのだが、
私は心を硬く閉ざしたまま、
自分を変える気力は全くなかった。
生命力がない。
息をしているだけで、精一杯という感じ。
この苦しみを誰がわかってくれるだろう。
あるとき、一人のマッチョな男が部屋のドアを壊して入ってきた。
「さあ、いこう。新しい自分が待っている」
「そんなもん、無理に決まってる」
「まあ、そうかもな。お前しだいだ」
と、色の浅黒い口からこぼれる真っ白な歯が笑う。
それが妙に清潔感があって、さわやかだった。
婚約破棄から、何年たったんだろう。
わたしは今いくつなんだろう。
自分の年もわからないほど、
月日の感覚がなかった。
山奥の小さな施設。
そこでは、スパルタ教育だった。
まるで刑務所のような生活。
刑務所を経験したことがないのでよくわからないが、
眠れようが眠れなかろうが、朝5時起床。
感謝行トイレ掃除、笑顔歯磨き、ラジオ体操。
食事、部屋の掃除。10キロのマラソン、作業、畑仕事。
夕方には、くたくた。
お風呂も毎日入った。
そりゃあ、入りますよ。
泥んこの汗だくなんだから。
手紙を両親に書く。
「助けてください。こんなところにいたら殺されてしまいます」
「人権はどうなっているんだ。私はロボットではない」
「勝手に産んだくせに、こんなところに閉じ込めるな」
「お願いです。迎えに来てください」
怒ったり、すねたり、嘆願したり、おねだりしたり
いろんなことを書き込んだ。
父も母も、
「あなたが大好きです。会えるようになる日を楽しみにしています」
と、返事が来た。
厄介払いしやがって。
私がいないことを喜んでいるくせに。
春が来て、夏が来て、秋が来て、1年が過ぎた。
ふと気づくと、わたしは笑っている。
微笑んでいる。
あれ?
こんな辛い生活なのに、
何で私笑っているの?
2年がたち、3年がたった。
何度も何度も、家に帰ろうとする。
その度に、母の悲しそうな顔を思い出す。
父の大きな目から流れ落ちた涙を思い出す。
わたしは一人っ子で、大切に大切にされてきた。
父と母は、子育てに一生懸命だった。
自分たちが間違った時は、キチンとわびてくれた。
わがままになり過ぎないように、
自分の意見をちゃんと言える子に。
人の話を聞ける子に。
言葉のキャッチボールができる子に。
必死で育ててくれていた。
それがわかっていたから、
余計に自分をぶん投げたくなったのだ。
4年も終わり、5年が過ぎた。
わたしは今一体いくつなのだろう。
最初にここにわたしを連れてきた人が、
「もう、いいだろう」
と、両親を呼んでくれた。
嬉しかった。
土下座して謝った。
「ごめんなさい。そして、ありがとう」
わたしは、父母の家のそばに小さなアパートを借り、
そこから、介護の仕事にいっている。
仕事は決して楽ではないが、一人で暮らすには、
十分なお金をいただいていた。
そして、施設にいる間に貯めた500万円は、
そっくり両親に渡した。
両親も年をとった。
いつの日か、私が世話をすることあるかもしれない。
わたしは、心をこめて、両親のお世話ができる人になりたい。
明るい笑顔同封で。
霜月の風は冷たく頬をなでる。
背筋を伸ばす。
今日も新しい一日。
そう、わたしは生まれ変わったのだ。
11月の茶花、ウィンターコスモスが優しく微笑む。
淡いお色が
風に揺れ
夢と希望を運んでくる
この時期は
背の低いものが多いから
とっても助かる
ウインターコスモス
少し大人な人生のように
平面だけじゃつまらない
高さと奥行きと深さと幅を
旬と彩が醸し出す
より快適な
生活のために
片付け、掃除、整理整とん
いつの間にか笑ってる自分に
敬礼
ありがとうございます。
おお泣きに泣いた。
わたしの中にこれほどの水分があるのかと思うくらい、
涙でビショビショになった。
そう、わたしは、婚約破棄されたのだ。
それからは、何もする気になれず、
一日中、ぼーと部屋に閉じこもって過ごした。
食事は、部屋の前に毎日置かれていた。
トイレは、2階にもあるので、困らなかった。
お風呂も、最初は毎日入っていたのに、
だんだん、2日に一回になり、
3日に一回になり、
1週間に一回くらいになっていった。
女の子なのに。
だれか、早く殺してよ。
もっともっとめちゃくちゃにしてよ。
もうどうでもよかった。
自分は生きるのに、あたいする人間です。
自分は、自分のままでいいのです。
自分は愛するに、あたいする人間です。
自分は、自分の居所をつくっていいのです。
自分を、うんと好きになります。
この言葉を読み、何度も泣いた。
なんで、こんなになっちゃうの。
どうすればいいの。
何から手をつければいいの。
部屋はどんどんゴミだらけになり、
それでも気にならなくなった。
そう、わたしはインターネット依存症になり、
朝から晩まで、オンラインゲームやネットサーフィンをしていた。
SNSも楽しい。
ネットの中では、私は美しい聡明なヒロインだった。
お父様が来て、説教しても、
お母様が来て、なだめてくれても、
わたしはその場は「はい」と、返事をするのだが、
次の日から、具合が悪くなり、
言われたことは愚か、前よりもひどい状態になっていった。
窓ガラスも曇り、外の景色がよく見えない。
明るい希望なんて言葉は、とうにわたしの辞書からは外れていた。
時価2億を直に置く。
アニソンショーで兄、損傷
あん畜生にアンチ苦笑
鷺宮の詐欺飲み屋
案内係にあんな言いがかり
マニアウヨウヨいるけど間に合う様よ
弱い菅、野田では世はいかんのだ。
「ジュースうめぇ」と言う十数名
あなた毛布取らないで!
お前ももう太らないで!!
アラブ総選挙で、あら武装占拠?
やめろー、おやじも真っ青になって逃げる。
そう、わたしはセルフネグレクトしたのだ。
父と母は、わたしを何とかしようとあの手この手を使って、
いろんな人を連れてきたり、連れて行こうと試行錯誤するのだが、
私は心を硬く閉ざしたまま、
自分を変える気力は全くなかった。
生命力がない。
息をしているだけで、精一杯という感じ。
この苦しみを誰がわかってくれるだろう。
あるとき、一人のマッチョな男が部屋のドアを壊して入ってきた。
「さあ、いこう。新しい自分が待っている」
「そんなもん、無理に決まってる」
「まあ、そうかもな。お前しだいだ」
と、色の浅黒い口からこぼれる真っ白な歯が笑う。
それが妙に清潔感があって、さわやかだった。
婚約破棄から、何年たったんだろう。
わたしは今いくつなんだろう。
自分の年もわからないほど、
月日の感覚がなかった。
山奥の小さな施設。
そこでは、スパルタ教育だった。
まるで刑務所のような生活。
刑務所を経験したことがないのでよくわからないが、
眠れようが眠れなかろうが、朝5時起床。
感謝行トイレ掃除、笑顔歯磨き、ラジオ体操。
食事、部屋の掃除。10キロのマラソン、作業、畑仕事。
夕方には、くたくた。
お風呂も毎日入った。
そりゃあ、入りますよ。
泥んこの汗だくなんだから。
手紙を両親に書く。
「助けてください。こんなところにいたら殺されてしまいます」
「人権はどうなっているんだ。私はロボットではない」
「勝手に産んだくせに、こんなところに閉じ込めるな」
「お願いです。迎えに来てください」
怒ったり、すねたり、嘆願したり、おねだりしたり
いろんなことを書き込んだ。
父も母も、
「あなたが大好きです。会えるようになる日を楽しみにしています」
と、返事が来た。
厄介払いしやがって。
私がいないことを喜んでいるくせに。
春が来て、夏が来て、秋が来て、1年が過ぎた。
ふと気づくと、わたしは笑っている。
微笑んでいる。
あれ?
こんな辛い生活なのに、
何で私笑っているの?
2年がたち、3年がたった。
何度も何度も、家に帰ろうとする。
その度に、母の悲しそうな顔を思い出す。
父の大きな目から流れ落ちた涙を思い出す。
わたしは一人っ子で、大切に大切にされてきた。
父と母は、子育てに一生懸命だった。
自分たちが間違った時は、キチンとわびてくれた。
わがままになり過ぎないように、
自分の意見をちゃんと言える子に。
人の話を聞ける子に。
言葉のキャッチボールができる子に。
必死で育ててくれていた。
それがわかっていたから、
余計に自分をぶん投げたくなったのだ。
4年も終わり、5年が過ぎた。
わたしは今一体いくつなのだろう。
最初にここにわたしを連れてきた人が、
「もう、いいだろう」
と、両親を呼んでくれた。
嬉しかった。
土下座して謝った。
「ごめんなさい。そして、ありがとう」
わたしは、父母の家のそばに小さなアパートを借り、
そこから、介護の仕事にいっている。
仕事は決して楽ではないが、一人で暮らすには、
十分なお金をいただいていた。
そして、施設にいる間に貯めた500万円は、
そっくり両親に渡した。
両親も年をとった。
いつの日か、私が世話をすることあるかもしれない。
わたしは、心をこめて、両親のお世話ができる人になりたい。
明るい笑顔同封で。
霜月の風は冷たく頬をなでる。
背筋を伸ばす。
今日も新しい一日。
そう、わたしは生まれ変わったのだ。
11月の茶花、ウィンターコスモスが優しく微笑む。
淡いお色が
風に揺れ
夢と希望を運んでくる
この時期は
背の低いものが多いから
とっても助かる
ウインターコスモス
少し大人な人生のように
平面だけじゃつまらない
高さと奥行きと深さと幅を
旬と彩が醸し出す
より快適な
生活のために
片付け、掃除、整理整とん
いつの間にか笑ってる自分に
敬礼
ありがとうございます。
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