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白昼夢だからね

「白昼夢だからね」

昼下がりの柔らかな光が部屋の中に差し込んでいた。窓際のソファに座り、私は外の景色をぼんやり眺めていた。雲が浮かぶ空は青く、時折見せる陽の光が、まるで心の中の不安を照らし出しているかのようだった。何気なく視線を外に向けると、道行く人々の姿が小さく見えた。彼らは忙しそうに歩いている。そんな姿を見ていると、私は自分がこの世界から切り離されているかのような感覚にとらわれる。

「透明になりたい」と、心の中でつぶやいた。誰にも見えない、誰にも気づかれない存在になれたら、どんなに楽だろう。人々の喧騒から離れ、自分だけの静かな時間を持てるのだから。私は夢の中でその透明さを手に入れた。何もかもを忘れて、ただ心の中に抱えた思いを解放できる世界へと飛び込むことができる。

その瞬間、夢が広がり始めた。私はまるで雲の上を漂うように、ふわふわとした気持ちで空を飛んでいた。雲が優しく包み込むように、私はその中に吸い込まれていく。周りには、かつての記憶が漂っていた。友人たちの笑い声、懐かしい風景、そして何よりも大切だった君の姿。君はどこにいるのだろうか。夢の中で出会えることはできるのだろうか。

「君に会いたい」と心の中で叫ぶ。そう思うたびに、夢はどんどん色彩を増していく。透明になりたいと思う自分がいる一方で、君と一緒にいたいという欲望もまた強くなっていた。

その時、夢の中に現れたのは君だった。ふわりとした白い服を着て、まるで天使のように輝いていた。私の目の前に立ち、優しい笑顔を浮かべている。君は何も言わずに、私の手を取った。その瞬間、全てが鮮明になり、私の心は温かい感情で満たされた。周りの景色が変わり、夢の中の世界が現実のように感じられた。

「一緒に行こう」と君が言った。その言葉に、私は無条件に頷いた。君と一緒なら、どんなところでも行きたいと思った。私たちは手を繋ぎ、星空の下を歩き始めた。君の笑顔は、夜空に輝く星々よりも明るく、美しい。夢の中の私は、心の底から幸せを感じていた。

しかし、その瞬間は長くは続かなかった。ふと現実の音が耳に入ってきた。外の車の音、通り過ぎる人々の声。夢が溶けていく感覚が襲ってきた。私はそのまま、夢の中で君の姿を求めた。透明になりたい、でも君と一緒にいたい。その矛盾した思いが私を苦しめる。

「白昼夢だからね」自分に言い聞かせる。夢の中での出来事は、現実ではない。目を閉じて、心を静めて、君の笑顔を思い出そうとする。でも、その努力もむなしく、現実が私を引き戻してくる。

目を開けると、周りはいつもの部屋。雲のように軽やかだった心は、再び重く沈んでいた。もう一度、夢の中で君に会いたい。透明になって、誰にも気づかれずに、君と一緒にいられるなら。そう思うたびに、涙が頬を伝った。

「でも、これは白昼夢だからね」と、自分に言い聞かせる。夢の中での君は、いつも私の心の中にいる。君の笑顔が私を支えている。それを信じて、私はまた日常へと戻っていくのだった。次の瞬間、私は窓の外に目を向ける。雲がまた、龍の形を作り出していた。その姿を見ていると、少しだけ心が安らいだ。

「透明になりたい」と願う気持ちは消えない。それでも、夢の中で君と出会うことができるなら、それが私の幸せなのかもしれない。白昼夢の中で、君と一緒にいることができるなら。そう思いながら、私は再び外の景色に目を凝らした。雲は流れ続け、私の心の中に、静かな夢を描き続けている。

この小説は、夢と現実のはざまで揺れる主人公の心情を描きつつ、愛する人とのつながりを求める切なさを表現しています。透明になりたいという願望が、実際には大切な人との関係を大切にしたいという思いに繋がっていることを描いてみました。