都市伝説 短編集

小金井市の都市伝説

小金井市の都市伝説

小金井公園の桜並木は、春になると見事な桜のトンネルを作り出す。しかし、夜になるとその景色は一変し、どこか不気味な雰囲気を帯びる。特に、SL展示場のあたりは、かつてこの地が処刑場だったという噂もあり、心霊スポットとして知られている。

大学生の拓也は、小金井市に引っ越してきたばかりだった。民俗学を専攻している彼は、地域の伝承や都市伝説に興味を持っており、小金井公園の噂も耳にしていた。ある夜、拓也は好奇心に駆られ、夜の小金井公園を散策することにした。

公園内は街灯が少なく、足元もおぼつかないほど暗かった。時折、風の音や木の葉の擦れる音が聞こえるだけで、静寂が支配していた。SL展示場に近づくと、ひときわ暗い場所に古い井戸があることに気づいた。柵で囲まれており、中を覗き込むことはできない。

その時、背後からかすかな声が聞こえた。「水を…」

振り返ると、誰もいない。気のせいかと思ったが、再び声が聞こえた。「水を…ください…」

拓也は恐怖を感じ、急いで公園を後にした。

後日、拓也は小金井市立図書館で小金井の歴史について調べてみた。すると、小金井公園一帯は、江戸時代には処刑場として使われていたという記録を見つけた。また、かつてこの地にあった村では、旱魃の際に井戸に人柱を捧げるという風習があったという伝承も発見した。

拓也は、あの夜聞いた声は、人柱として井戸に沈められた者の霊ではないかと考えた。

数日後、拓也は再び小金井公園を訪れた。今度は昼間だった。井戸の周りをよく観察してみると、柵のそばに小さな花束が供えられていることに気づいた。地元の人に話を聞いてみると、この井戸は「祟りの井戸」として知られており、時々花を供えに来る人がいるという。

さらに調べていくうちに、拓也は意外な事実を知った。かつてこの井戸は、近隣の農民にとって貴重な水源だったが、ある時期から水が枯れてしまったという。人々は困り果て、様々な方法で水を呼び戻そうとしたが、結局水は戻らなかった。

拓也は、あの夜聞いた声は、水不足に苦しんだ人々の嘆き、そして水への切なる願いが形を変えて現れたものではないかと考えた。

その後、拓也は何度か小金井公園を訪れたが、あの声を聞くことはなかった。しかし、彼は小金井公園を訪れるたびに、かつてこの地で生きていた人々のことを思い出すようになった。

夕暮れの小金井公園は、今日も静かに時を刻んでいる。