都市伝説 短編集

春秋花壇

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府中市の都市伝説

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『府中市の都市伝説』

府中市は東京都の多摩地域にある、閑静で穏やかな街だ。緑豊かな公園や古い歴史的な建物が点在し、住みやすい町として多くの人々に愛されている。しかし、その平穏の裏には、誰も口にしない不気味な都市伝説が存在していた。

主人公の美月(みつき)は、府中市に引っ越してきたばかりの若い女性だ。都会の喧騒を離れ、静かな町で新しい生活を始めることに決めた。仕事のストレスから解放され、ここで心を落ち着けようと考えていた。

引っ越して数週間が経ち、美月は町を少しずつ探索し始めた。公園や商店街、そして府中の郊外に広がる畑や山道も歩いてみた。すべてが穏やかで、どこか懐かしさを感じさせる町並みだった。だが、ある日、地元のカフェで思わぬ話を耳にすることになった。

「府中市に住むなら、あの場所には近づかないほうがいいよ。」

カフェの奥に座っていた老婦人が、静かな声で言った。その言葉に美月は驚き、思わず耳を澄ました。

「どの場所ですか?」美月が尋ねると、老婦人は少し間を置いてから話し始めた。

「府中の北端、あそこにある『森の中の小道』のことよ。」老婦人の目が一瞬、遠くを見つめる。「あそこには、昔から変わった噂があってね。特に夜になると、そこを通る人が消えるって話が絶えないの。」

美月はその話に興味をそそられた。消える? そんなもの、ただの都市伝説だろうと思いながらも、どこか心の中でその話に引き寄せられる自分を感じていた。

「それは本当なんですか?」美月は半信半疑で聞いた。

老婦人は一度目を閉じ、深くため息をついた。「わからない。ただ、私も昔、あの道を歩いたことがある。でも、その後、誰もその道を通らなくなった。あの道に何かがあるんだろう、きっと。」

その日以来、美月の中で「森の中の小道」が気になって仕方がなくなった。地図でその場所を調べると、府中市の北端にある森の一部で、確かに小道が記されていた。しかし、そこは普段人々があまり通らないような場所だった。

ある夜、美月は意を決してその小道に向かうことにした。夜の町は静かで、人々が眠りについた後の暗闇に包まれている。美月は不安と興奮が入り混じる心情のまま、小道へ足を踏み入れた。

最初は何事もなく、ただ静かな森の中を歩いていた。月明かりが木々の隙間から漏れ、足元を照らしている。風の音だけが響き、周囲は異様なほどに静まり返っていた。しかし、次第にその静けさが不気味なものに感じられてきた。

しばらく歩いていると、道が突然二股に分かれている場所に差し掛かった。その分かれ道の真ん中に、古びた石の碑が立っていた。碑には何かが刻まれているが、暗くてよく見えない。美月は立ち止まり、碑の方に近づいてみた。刻まれた文字がわずかに見える。

「近づいてはならぬ。」

その文字を見た瞬間、美月の背筋に冷たいものが走った。何かがひしひしと迫ってくるような気配を感じ、思わず振り返った。しかし、背後にはただの森が広がっているだけだった。

その時、足元に何かが落ちてきた。それは一枚の古い写真だった。写真を拾い上げると、そこにはかつての街並みが映し出されていた。その中に、見覚えのある建物や風景が写っている。しかし、写真の一番前には、暗く影を落とした一人の女性が立っていた。彼女の顔は見えない。影に覆われていて、ただ黒い姿が写っているだけだった。

その瞬間、美月は冷たい風を感じ、背後から何かの気配を感じた。振り返ると、遠くに人影が見えた。しかし、それは人間ではないかのように、動きが不自然で、ただじっと立っているだけのように見えた。美月は息を呑み、足を速めてその場を離れた。

翌朝、美月は再びその場所を訪れようとはしなかった。あの夜の出来事が本当に何だったのか、未だにわからない。だが、あの小道には誰も近づこうとしないという話がある限り、その都市伝説はどこかで本当のものだったのかもしれないと思わざるを得なかった。

府中市には、他にもまだ語られない都市伝説がたくさんあるのだろう。それらは、ただの噂に過ぎないのか、それとも真実なのか。美月は、もう二度と「森の中の小道」には近づくことはなかった。






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