都市伝説 短編集

春秋花壇

文字の大きさ
上 下
72 / 182

府中市の都市伝説

しおりを挟む
『府中市の都市伝説』

府中市は東京都の多摩地域にある、閑静で穏やかな街だ。緑豊かな公園や古い歴史的な建物が点在し、住みやすい町として多くの人々に愛されている。しかし、その平穏の裏には、誰も口にしない不気味な都市伝説が存在していた。

主人公の美月(みつき)は、府中市に引っ越してきたばかりの若い女性だ。都会の喧騒を離れ、静かな町で新しい生活を始めることに決めた。仕事のストレスから解放され、ここで心を落ち着けようと考えていた。

引っ越して数週間が経ち、美月は町を少しずつ探索し始めた。公園や商店街、そして府中の郊外に広がる畑や山道も歩いてみた。すべてが穏やかで、どこか懐かしさを感じさせる町並みだった。だが、ある日、地元のカフェで思わぬ話を耳にすることになった。

「府中市に住むなら、あの場所には近づかないほうがいいよ。」

カフェの奥に座っていた老婦人が、静かな声で言った。その言葉に美月は驚き、思わず耳を澄ました。

「どの場所ですか?」美月が尋ねると、老婦人は少し間を置いてから話し始めた。

「府中の北端、あそこにある『森の中の小道』のことよ。」老婦人の目が一瞬、遠くを見つめる。「あそこには、昔から変わった噂があってね。特に夜になると、そこを通る人が消えるって話が絶えないの。」

美月はその話に興味をそそられた。消える? そんなもの、ただの都市伝説だろうと思いながらも、どこか心の中でその話に引き寄せられる自分を感じていた。

「それは本当なんですか?」美月は半信半疑で聞いた。

老婦人は一度目を閉じ、深くため息をついた。「わからない。ただ、私も昔、あの道を歩いたことがある。でも、その後、誰もその道を通らなくなった。あの道に何かがあるんだろう、きっと。」

その日以来、美月の中で「森の中の小道」が気になって仕方がなくなった。地図でその場所を調べると、府中市の北端にある森の一部で、確かに小道が記されていた。しかし、そこは普段人々があまり通らないような場所だった。

ある夜、美月は意を決してその小道に向かうことにした。夜の町は静かで、人々が眠りについた後の暗闇に包まれている。美月は不安と興奮が入り混じる心情のまま、小道へ足を踏み入れた。

最初は何事もなく、ただ静かな森の中を歩いていた。月明かりが木々の隙間から漏れ、足元を照らしている。風の音だけが響き、周囲は異様なほどに静まり返っていた。しかし、次第にその静けさが不気味なものに感じられてきた。

しばらく歩いていると、道が突然二股に分かれている場所に差し掛かった。その分かれ道の真ん中に、古びた石の碑が立っていた。碑には何かが刻まれているが、暗くてよく見えない。美月は立ち止まり、碑の方に近づいてみた。刻まれた文字がわずかに見える。

「近づいてはならぬ。」

その文字を見た瞬間、美月の背筋に冷たいものが走った。何かがひしひしと迫ってくるような気配を感じ、思わず振り返った。しかし、背後にはただの森が広がっているだけだった。

その時、足元に何かが落ちてきた。それは一枚の古い写真だった。写真を拾い上げると、そこにはかつての街並みが映し出されていた。その中に、見覚えのある建物や風景が写っている。しかし、写真の一番前には、暗く影を落とした一人の女性が立っていた。彼女の顔は見えない。影に覆われていて、ただ黒い姿が写っているだけだった。

その瞬間、美月は冷たい風を感じ、背後から何かの気配を感じた。振り返ると、遠くに人影が見えた。しかし、それは人間ではないかのように、動きが不自然で、ただじっと立っているだけのように見えた。美月は息を呑み、足を速めてその場を離れた。

翌朝、美月は再びその場所を訪れようとはしなかった。あの夜の出来事が本当に何だったのか、未だにわからない。だが、あの小道には誰も近づこうとしないという話がある限り、その都市伝説はどこかで本当のものだったのかもしれないと思わざるを得なかった。

府中市には、他にもまだ語られない都市伝説がたくさんあるのだろう。それらは、ただの噂に過ぎないのか、それとも真実なのか。美月は、もう二度と「森の中の小道」には近づくことはなかった。






しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【総集編】 1分怪談短編集

Grisly
ホラー
⭐︎登録お願いします。 1分で読めるホラー、怪談、サスペンス。 ひんやりしませんか。 

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

赤い部屋

山根利広
ホラー
YouTubeの動画広告の中に、「決してスキップしてはいけない」広告があるという。 真っ赤な背景に「あなたは好きですか?」と書かれたその広告をスキップすると、死ぬと言われている。 東京都内のある高校でも、「赤い部屋」の噂がひとり歩きしていた。 そんな中、2年生の天根凛花は「赤い部屋」の内容が自分のみた夢の内容そっくりであることに気づく。 が、クラスメイトの黒河内莉子は、噂話を一蹴し、誰かの作り話だと言う。 だが、「呪い」は実在した。 「赤い部屋」の手によって残酷な死に方をする犠牲者が、続々現れる。 凛花と莉子は、死の連鎖に歯止めをかけるため、「解決策」を見出そうとする。 そんな中、凛花のスマートフォンにも「あなたは好きですか?」という広告が表示されてしまう。 「赤い部屋」から逃れる方法はあるのか? 誰がこの「呪い」を生み出したのか? そして彼らはなぜ、呪われたのか? 徐々に明かされる「赤い部屋」の真相。 その先にふたりが見たものは——。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々

yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【Vtuberさん向け】1人用フリー台本置き場《ネタ系/5分以内》

小熊井つん
大衆娯楽
Vtuberさん向けフリー台本置き場です ◆使用報告等不要ですのでどなたでもご自由にどうぞ ◆コメントで利用報告していただけた場合は聞きに行きます! ◆クレジット表記は任意です ※クレジット表記しない場合はフリー台本であることを明記してください 【ご利用にあたっての注意事項】  ⭕️OK ・収益化済みのチャンネルまたは配信での使用 ※ファンボックスや有料会員限定配信等『金銭の支払いをしないと視聴できないコンテンツ』での使用は不可 ✖️禁止事項 ・二次配布 ・自作発言 ・大幅なセリフ改変 ・こちらの台本を使用したボイスデータの販売

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

処理中です...