都市伝説 短編集

魔のトライアングル

魔のトライアングル

南の海に浮かぶ孤島、アルファ・マウロ。この島は、その存在がほとんど知られていないにもかかわらず、古くから海賊たちの隠れ家として使われてきた。だが、最も恐れられていたのはその島にまつわる伝説だった。海の深淵に沈んだ都市、そしてその上に浮かぶ島の周辺に広がる三角形のエリア。通称、「魔のトライアングル」と呼ばれるその地域は、数百年にわたる航海者たちの間で忌まれていた。

その地域には数々の船が失われ、事故や失踪の原因として、自然の力や未知の存在が語られてきた。だが、最も恐ろしい話は、人々がその三角形の中で見た「影」に関するものだった。船の乗組員が海上で突然、目の前に現れる影に取りつかれると、彼らは皆、無言で暴走を始め、船を沈め、最後には消えていくのだという。

伝説が広まる中で、何人もの海洋冒険家たちがその真実を確かめるべく挑んできたが、誰一人として生還することはなかった。それでも、ある日、島を探し出し、その真実を暴くという意気込みを持った若き探険家、松永拓真（たくま）が現れた。

拓真は、祖父からこの島と三角形に関する話を聞いて育ち、その謎に魅了されていた。祖父は、かつて「魔のトライアングル」に挑んだ一人だったが、途中で消息を絶ち、帰らぬ人となった。祖父の死を契機に、拓真は自分の力でその謎を解明し、家族の悲しみを晴らす決意を固めていた。

拓真は、最新の技術を駆使した探険チームを結成した。そのメンバーには、機械工学の天才であるエンジニアの佐藤優花、海上探査のプロである船長の田島、そして、伝説に関する知識を深く研究してきた歴史学者の加藤博士がいた。彼らは皆、拓真の情熱に引き寄せられ、共にその島の謎に挑むことを決意した。

出発の日、彼らはアルファ・マウロの近くに位置する港を出航した。大きな船に乗り込み、進行方向に向かって海を渡る。しかし、船が魔のトライアングルの区域に差し掛かると、異変が起き始めた。空は不気味な暗雲に覆われ、海面は途端に激しく波立ち始めた。船のエンジンが不調をきたし、機械の音が次第に消えていく。船長の田島は冷静に指示を出し、エンジニアの優花は機械の点検を始めたが、いずれも上手くいかなかった。

その時、加藤博士が驚きの声を上げた。「見ろ、あれは…！」

彼の指差す先には、海面から浮かび上がる奇妙な構造物が見えた。それは、古代の遺跡のようなもので、海底から伸びる巨大な石柱が幾重にも絡み合っていた。拓真は目を凝らしてその遺跡を見つめた。これは、祖父が伝えた「沈んだ都市」の一部に違いないと確信した。

だが、その瞬間、船が激しく揺れた。船体が歪み、乗組員たちは転げ落ちそうになった。突然、海中から上がってきたものがあった。それは、まるで生き物のようにうねり、奇怪な形をしていた。船の側面に触れると、何かが引き寄せられるような感覚があった。

「これは…ただの波ではない。」優花が息を呑んだ。

その影は、海から出てくると、周囲に異常なエネルギーを放ちながら、船に迫ってきた。拓真は冷静に、すぐに彼らの装置を活用して影の正体を探ろうとしたが、突然、影は船の全てのシステムを無力化させ、船が完全に停止してしまった。

その時、影が一度大きく広がり、まるで呪文のように乗組員たちの耳に響く言葉が響いた。「この島には、かつて亡びた者たちが封じられている。その力を借りて、永遠に支配することができる。」

拓真はその声に反応し、「祖父が言っていたことだ…」と呟いた。伝説は本当だった。この「魔のトライアングル」に封じられた力が、長年の間、眠っていたのだ。

船は完全に止まり、何もできなくなった。乗組員たちは動揺し始め、拓真は自分の決意を胸に抱きしめながら、最後の一歩を踏み出した。

「これが運命だ。」拓真はそうつぶやき、船の舵を握り締めた。その瞬間、奇怪な力が再び現れ、全てが静寂に包まれた。

船が完全に消えた後、誰もその行方を知る者はいなかった。そして、「魔のトライアングル」の伝説は、さらに恐ろしいものとして語り継がれることとなった。