都市伝説 短編集

春秋花壇

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蒸しタオルの都市伝説

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蒸しタオルの都市伝説

古びたアパートの一室。空気は冷たく、湿気を含んでいた。響(ひびき)は部屋の中でうつむきながら、疲れた様子でテーブルに向かっていた。目の前には、彼の好きな緑茶と、母親が生前によく使っていた蒸しタオルが置かれていた。最近、彼はよくこの部屋で一人で過ごし、精神的に追い込まれていた。

「また、あの都市伝説だ。」

都市伝説。それは、ネットや噂話で語られる都市の怪談や恐怖話だった。最近、響は特に「蒸しタオル」にまつわる不気味な話を耳にすることが多かった。話によれば、蒸しタオルを顔にのせると、命を奪われるというのだ。その話を信じる気はなかったが、夜になるとそのことが頭から離れず、気が気でない日々を送っていた。

ある夜、響はふとした拍子にその伝説を思い出し、ため息をついた。彼は眠れぬ夜を過ごしながら、自分がその伝説の犠牲者になりたくない一心で、精神的に追い詰められていた。そこで、蒸しタオルを顔に乗せるという行為が本当に自分を危険にさらすのかを確かめようと決心した。半ば好奇心、半ば恐怖心から、彼は蒸しタオルを使ってみることにした。

「これが、都市伝説の正体なのか。」

響は息を深く吸い込み、蒸しタオルを顔にそっと乗せた。最初はただの温かさに包まれているだけだったが、次第にその温もりが圧迫感に変わってきた。心臓が速く打ち始め、息苦しさを感じる。目を閉じて、しばらくその状態を我慢していたが、次第に恐怖が心の中に広がっていった。

「これが本当に…」

彼は意を決してタオルを取り外そうとしたが、その瞬間、部屋の中で異様な音が響いた。響はタオルを急いで外し、周囲を見回した。部屋の隅には、かすかに光る黒い物体が見えた。それは、古びたお棺に載せられた黒い手錠のように見えた。

その物体は、まるで彼に向かって言葉を発しているかのような不気味な存在感を放っていた。響は背筋が凍る思いで、その物体をじっと見つめた。黒手錠が彼を見守っているかのように思えた。

「これは一体…」

そのとき、部屋のドアが静かに開いた。響は振り返ると、そこには亡き母の幻影が立っていた。彼女は穏やかな表情で、ただ立っているだけだったが、その姿は何とも言えない恐怖感を与えた。母親は何も言わず、ただ手に持った黒手錠を指さしていた。

響はその瞬間、理解した。都市伝説は単なる噂話ではなく、実際に誰かがその話に引き寄せられていたのだと。彼は急いで部屋を出ようとしたが、体が思うように動かなかった。恐怖が彼を固定しているかのように感じられた。

「どうして…」

彼は心の中で叫びながらも、どうすることもできなかった。視界がぼやけ、心臓が激しく打ち始める。彼は必死で黒手錠を取り除こうとするが、それがどうしても外れない。手錠が彼の腕に食い込む感覚が、現実と幻影の境界を曖昧にしていた。

「これは…夢だよな…」

そのとき、突然、部屋の光が消えた。真っ暗な中で、響は体が軽くなり、恐怖から解放される感覚を覚えた。目を開けると、部屋は元通りに戻っていた。黒手錠も消えており、ただの空間が広がっていた。

「本当に、ただの夢だったのか…?」

響は放心状態で部屋を見渡し、しばらくその場に立ち尽くしていた。何が現実で、何が妄想だったのか、彼にはわからなかった。ただ、一つだけ確かなことがあった。それは、彼がこの恐怖の体験を通じて、都市伝説に対する恐怖心が少し薄れたということだった。

次の日、響は再び平穏無事な日常に戻った。都市伝説の話を耳にすることはあったが、彼の心にはもう以前のような恐怖は残っていなかった。彼はその後も普通に過ごしながら、自分が体験したことを時折思い出し、その影響を受けることはなかった。

それからも、都市伝説の話は町の中で語り継がれたが、響はそれを単なる噂話として受け入れ、深刻には考えなかった。彼にとって、それはただの一時的な恐怖体験であり、実際の人生には何も影響を与えるものではなかった。

そして、響はまた平穏無事な日常を過ごし続けた。それは、都市伝説の恐怖から解放された、彼自身の新たな一歩だった。









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