都市伝説 短編集

春秋花壇

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引きこもりゲーマーの街

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引きこもりゲーマーの街

その街は、いつからか「引きこもりニートゲーマーばかりの街」と呼ばれるようになった。正式な名前はもちろん存在したが、もはや誰もそれを覚えていなかった。昼も夜もほとんど人影が見えず、静まり返った通りには雑草が生い茂り、古い電柱の看板には時代遅れの広告が色褪せて残っていた。人々がこの街について語るとき、決まって話題に上るのはその奇妙な現象だった。

一部では、都市伝説としてその街が語り継がれている。どこから来たのかも分からない引きこもりたちが、この街に集まり、やがて外の世界との関係を断ち切ったというのだ。誰もが家から一歩も出ず、窓にカーテンを引いたまま。日中はもちろんのこと、夜になるとまるで街全体が眠りについてしまったかのように静まり返る。ごみ収集車も来ないし、郵便配達員もその存在を忘れたかのように通り過ぎていく。

ある日、都市伝説に興味を持つ若いジャーナリスト、早坂はその街を取材しようと決意した。彼女は都市伝説の真実を暴き、記事にすることで一躍有名になることを夢見ていた。彼女が街に足を踏み入れると、まるで時間が止まっているかのような異様な静けさに包まれた。

「本当に誰もいないのかしら……」

早坂は車を降りて、周囲を見渡した。街は見た目こそ普通の住宅地だったが、どの家も窓が閉じられ、人の気配がまるで感じられなかった。静けさの中、風がかすかに吹き抜け、遠くで何かがカタカタと音を立てるのが聞こえるだけだった。

彼女は意を決して、一軒の家のインターホンを押してみた。だが、何度押しても反応はなく、応答がある気配は全くなかった。しばらく考え込んだ後、彼女は次々と他の家のインターホンも試してみたが、状況は同じだった。誰も出てこない。それはこの街全体がまるで人々の存在を拒んでいるかのように感じられた。

「本当に引きこもりばかりの街なのか……?」

早坂は疑問を抱きつつも、何か手がかりがないかと歩き回った。そしてようやく、一軒の家の窓が少しだけ開いているのを見つけた。そっと覗き込むと、薄暗い部屋の中でモニターの青白い光がちらついているのが見えた。そこには、椅子に座ったまま微動だにしない若い男の姿があった。

「すみません!」

早坂は声をかけたが、男は一切反応しない。近づいてみると、男はヘッドセットを付け、じっと画面を見つめていた。画面にはゲームの画面が映し出され、キャラクターが動き回っている。彼の目はその動きに追随しているものの、彼自身はまるでその場にいないかのように無表情だった。

「ここで何してるの?」

再び声をかけるも、男は反応しない。まるでゲームの世界に魂を奪われているかのようだ。早坂は困惑しながらも、次の家へと足を運んだ。そこにも同じように、薄暗い部屋で光るモニターがあり、その前に座る人物がいた。彼らは皆、まるで別世界に取り込まれているかのように、外界との接触を拒んでいた。

歩けば歩くほど、その光景が繰り返される。家ごとに異なるゲームが映し出されていたが、プレイヤーたちは皆一様に無言で、外界への興味を失っていた。その光景に早坂は寒気を覚えた。街全体が一つの巨大なオンラインゲームに取り込まれているかのようだった。

「これは一体、何が起きてるの……?」

早坂は恐怖と好奇心に駆られながら、街の中心部に向かった。そこには古びた大きな建物があり、その入り口には「ゲームセンター」と書かれた看板があった。かつては賑わっていたであろうその場所も、今では誰もいない。ドアは固く閉ざされ、内部は闇に包まれていた。

その時、彼女のスマートフォンに通知が届いた。確認すると、それは知らないアカウントからのメッセージだった。

「この街に来てはいけない。すぐに立ち去れ。」

驚いて周囲を見回したが、誰もいない。ただ、風が音を立てるだけだった。そのメッセージには、続けてこう書かれていた。

「この街はゲームに囚われた者たちの終着点だ。彼らは外界を捨て、ゲームの中に生きることを選んだ。決して外には出ない。決して、ここから出ることは許されない。」

早坂は一瞬、足がすくんだ。だが、彼女は引き返すことを決意した。街を抜け出すと、背後に広がるその静寂の街は、まるで現実の一部ではないかのように感じられた。

彼女は車に乗り込み、その場を後にした。バックミラーに映る街の姿は、まるで幻のようだった。そして、その都市伝説が現実であることを確信した時、彼女は二度とこの街に近づくことはないと誓ったのだった。

その後、早坂が街について書いた記事は話題になったが、誰もその真相を確かめに行こうとはしなかった。なぜなら、この街の伝説を知る者は、皆が口を揃えて言うのだ。

「引きこもりニートゲーマーの街。そこに足を踏み入れたら、戻って来られない」

それは都市伝説の域を超えた、現実そのものだったのかもしれない。









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