都市伝説 短編集

春秋花壇

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環状七号線戦車走行説

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環状七号線戦車走行説

東京の夜は、いつも通りネオンが街を照らし、車が行き交う音で溢れていた。その中でも、環状七号線は特に忙しない。昼も夜も関係なく、車の流れは途切れることがない。だが、そんな環七には誰もが聞いたことがある都市伝説があった。
「環七は戦車が走るために作られている」

その噂は、一部の人々の間で長い間囁かれていた。高架橋が異常に頑丈に作られている理由が、実は戦車の走行を想定しているからだというのだ。戦車が通れるほどの道幅、頑丈な構造、それらはただの偶然ではなく、国家の秘密計画の一環だと信じられていた。ほとんどの人はそれをただの噂と笑い飛ばしたが、中には真実を探ろうとする者もいた。

その夜、ユウタはその都市伝説を確かめるために、仲間と共に環七を走っていた。彼は都市伝説を調べることを趣味としており、その夜のテーマはまさに「環七戦車走行説」だった。
「本当に戦車なんて走るのかな?」助手席に座るミカが、不安げな声で問いかけた。
「さあな。でも、調べてみる価値はあるだろ?」ユウタはハンドルを握りながら笑みを浮かべた。「もし本当に走れるなら、面白い話になるしな」

彼らは夜遅く、人気のない時間帯を狙って環七をぐるりと回り始めた。車の窓から見える高架橋は、確かに異様なまでに頑丈に見える。ユウタはその頑丈さが戦車の走行を許すためのものだと仮定し、さらに詳しく調べるために何か証拠を探そうと目を凝らしていた。

やがて彼らは環七の一部が工事中で、立ち入り禁止のフェンスが張られている区間に差し掛かった。ユウタは迷わずそのフェンスを乗り越え、工事現場に足を踏み入れた。ミカと他の仲間たちは、少し後ろをついてきた。
「大丈夫か?こんなとこ入ってさ」ミカが不安げに言った。
「大丈夫だって。ちょっと見てみるだけだから」ユウタは自信満々だった。

工事現場の奥には、巨大なコンクリートの柱がいくつも並んでいた。その一つに近づくと、ユウタは奇妙な痕跡を見つけた。それは、戦車のキャタピラ跡のようなものだった。
「これ、見てみろよ!」ユウタは仲間たちに声をかけた。「本当に戦車の跡だぜ」

その瞬間、ユウタの興奮はピークに達した。しかし、彼がその痕跡を見つけたことが、彼らの夜をさらに奇妙なものに変えた。突然、工事現場の奥から低い振動音が響いてきた。仲間たちは顔を見合わせ、不安げな表情を浮かべた。
「なに?この音…」ミカが小声で呟いた。

その時、視界の奥から巨大な影が現れた。照明が当たると、それは間違いなく戦車だった。軍のマークが描かれた黒光りする車体は、まるで環七を守るかのように堂々と立ち並んでいた。ユウタたちはその光景に言葉を失った。

「やばい、逃げよう!」ユウタが声を上げると、全員が一斉にフェンスの方へと駆け出した。しかし、戦車はその動きを察知したかのように、ゆっくりとこちらに向かって進み始めた。高架の下を抜けるその巨体は、静かに迫り来る恐怖そのものだった。

仲間たちは必死に逃げ出し、なんとかフェンスを越えて車に戻った。エンジンをかけると同時に、ユウタはアクセルを踏み込んでその場から一気に逃げ出した。後ろを振り返ると、戦車は高架の影に姿を消していた。
「本当に走ってたんだな…」ユウタは息を切らしながら呟いた。ミカと他の仲間たちも、未だに信じられない表情を浮かべていた。

「これ、どうする?」ミカが震える声で言った。「誰かに話すの?」
ユウタはしばらく考えた後、首を横に振った。「いや、誰にも話さないでおこう。どうせ信じないさ。それに、俺たちが見たものは…きっと見なかったことにするべきだ」

彼らはそれ以降、環七のことを話題にすることはなかった。しかし、ユウタの中では確信が生まれていた。環七は、ただの道路ではなかった。いつか、何かが起こる時のために、戦車が走ることができるように作られていたのだ。環七に隠された秘密は、都市伝説以上のものだった。

彼らの経験は誰にも語られることはなかったが、その夜見た戦車の姿は、彼らの心の中に深く刻まれた。そして、環七を走る車の中には、また新たな都市伝説の種が蒔かれた。環七は、ただの道路ではない。いつか、何かが起こるその時のために、その存在を待ち続けているのかもしれない。










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