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春秋花壇

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神様の抱擁

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神様の抱擁

最近、寂しくなるとお風呂上がりに裸のまま毛布にくるまるようになった。湯気が立ちのぼる体にふわりと包まる毛布の感触は、まるで誰かの腕に抱かれているようで安心する。それは決して現実にはありえない抱擁だ。だけど、そうでもしなければこの孤独に押しつぶされそうになる。

「神様にだっこしてもらうんだ」
そう自分に言い聞かせながら、毛布にくるまったままソファに横たわる。目を閉じて、頭をなでられる感覚を想像する。優しい声が耳元で囁く。「よく頑張ってるね」「大丈夫、君はそのままでいいんだよ」。誰かにそんな言葉をかけられるのを夢見ていた。だけど、現実はいつだってその期待を裏切る。

中学生のころ、クラスの男子にいじめられた。「お前、女のくせに偉そうだな」「そんな顔で調子に乗るなよ」。その言葉は大人になってからも消えない傷となった。大学に入ってからも、気がつけば噂話の的になっていた。「あの子、男とばっかり遊んでるよね」「軽いっていうか、男好きなんだろうな」。

でも、そんなつもりはなかった。ただ、誰かに必要とされたかっただけだ。誰かに「君がいなくてはダメだ」と言われることで、自分がここにいていい理由を探していた。そうやって心の空白を埋めようとした結果が、周囲から「ビッチ」と呼ばれることだった。それでも、「寂しい」という感情には勝てなかった。

ある夜、アルバイト先の同僚に「一緒に飲もう」と誘われた。二次会で彼の部屋に行くことになり、気がつけば抱かれていた。特別な感情はなかった。ただその瞬間だけ、孤独から解放された気がした。それから何度か同じようなことが繰り返されたけれど、朝になれば心の空白はさらに大きくなっていた。

だから、もうやめた。もう誰にも抱かれないと決めた。かわりに毛布にくるまることで、神様に抱っこされることを想像する。「これなら、もう誰も私をビッチとは呼ばないよね」と呟きながら、自分を慰める。

ある夜、毛布にくるまっていると、突然インターホンが鳴った。出てみると、隣に住む年配の女性が立っていた。「ごめんなさいね、うるさくしてないかと思って」彼女は申し訳なさそうに頭を下げた。その姿を見て、不意に涙がこぼれた。「大丈夫です」と答えながら、心の中で「ありがとう」と呟いた。

それから、その女性と少しずつ話をするようになった。彼女もまた長い間、一人暮らしをしていたらしい。「寂しいときはね、自分を大事にしてあげることが一番よ」と彼女は笑顔で言った。その言葉が胸に染みた。

少しずつ、毛布にくるまる回数が減っていった。代わりに、日常の中で小さな幸せを探すようになった。朝のコーヒーの香りや、近所の花屋の店先に咲く花々。それは、ほんの些細なことだったけれど、確かに心を温めてくれた。

寂しさは今でも完全に消えたわけではない。でも、神様にだっこされる代わりに、自分自身を少しずつ大切にする術を覚えた。誰かに認められるためではなく、自分のために生きること。それが、毛布の中から抜け出すための第一歩だったのかもしれない。






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