抱いて

たかがSNS、されどSNS

たかがSNS、されどSNS

スマホの画面を覗き込むと、そこには自分のアカウントページが広がっていた。9,942人のフォローをしているが、フォロワー数は11.9K。数字だけが増え続け、現実の自分がその数に飲み込まれていく感覚に、少しだけ嫌気が差す。

「あぁ、まただ…」

ページをスクロールするたびに、無数の「いいね！」や「フォロー返し」のリクエストが目に入る。その一つ一つに丁寧に返していた日々が懐かしい。だが、今やそれはどこか遠い過去のことのように感じられた。

「もう、無理だよね。」

一度に数百、数千の「いいね！」や「フォロー」には対応しきれなくなって、気がつけば心の中に壁ができていた。返せない自分を責める気持ち、フォロワーに対する申し訳なさが募る一方で、どこかでその壁に安心感を覚えている自分がいる。

SNSは便利だ。世界中の誰とでも繋がることができ、思ったことを即座に発信できる。だが、その便利さの裏には、他者とのつながりを「管理」しなければならないプレッシャーがあることを、私は痛感していた。返さなければいけない、見逃してはいけない、無視してはいけない――その思いが、だんだんと重荷に変わり、心の中でひっそりと苦しんでいた。

「こんなにたくさんの人が、自分を気にかけてくれているんだよ。もっと感謝しなきゃ。」

その言葉が頭の中をぐるぐると回る。けれども、感謝の気持ちを形にする余裕がない。画面越しに返事をすることで、相手の期待に応えられると思っていた。でも、現実の自分はいつもどこかで空回りしているような気がしてならなかった。

窓の外を見ると、木枯らしが吹き荒れている。秋も深まり、冷たい風が部屋の中にまで感じられる。部屋の隅に積み上がった未読のメッセージや通知が、まるで無限のように感じられ、ただ眺めているだけで気持ちが萎えていく。今はそれを無視することすらできない自分に、ふと焦りを覚える。

「本当は、もっと気楽にやればいいのに。」

誰かが言っていたことを思い出す。SNSは楽しく使うものだ、と。しかし、現実はそう簡単に割り切れない。つい、何気ない一言にも返さなければならないプレッシャーを感じてしまう自分がいる。大切な人のメッセージにも応えられない日々が続くと、罪悪感だけが積み重なっていく。

「返せない。ごめんね。」

その言葉が自然と口をついて出る。少し前までは「いいね！」を返すことが当然だと思っていたし、それがコミュニケーションの一部だとも思っていた。でも、今の自分にはその余裕がない。返しきれない自分が、自分を嫌いにさせる。画面越しのつながりが現実の孤独を際立たせるように感じられる。

空気が冷たくなり、風が窓を叩く音が耳に届く。外の風景は荒れ模様だが、心の中はさらに静かに、しかし確実に荒れていくようだった。

「返せない…本当にごめん。」

スマホの画面に目を落とし、再度その言葉を呟く。自分にできることは何もない。ただ、ここで立ち止まることしかできないのかもしれない。その背後で、インターネットという無限の世界が回り続ける一方で、私はその中で小さくなっていく気がした。

しかし、そんな時、突然心に浮かんだのは、SNSの利用を初めた頃のことだった。最初は、ただ自分の気持ちを誰かと共有したくて始めた。それが少しずつ大きくなり、知らないうちに義務感に変わっていった。しかし、それが本当に自分の望んだものだったのだろうか？

「SNSって、本当に自分のためになっているのかな？」

ふと疑問が生まれた。それでも、答えはすぐには見つからなかった。目の前のスクリーンに映る数字、通知、メッセージ。それらは確かに自分を大きく見せているような気がしていた。でも、本当は自分が本当に大切にしたいものに気づいていないのではないか。

木枯らしが一段と強く吹き荒れる。外の景色は、まるで心の乱れを映すように見える。冷たい風がすべてを吹き飛ばしていく。自分の心の中でも、何かが吹き飛んでいくような感覚がした。

「少しずつ、自分のペースでいいよね。」

その瞬間、スマホをテーブルに置いた。誰かに返すことができなかった「いいね！」やメッセージたち。それでも、無理に返さなければならないわけではない。自分の気持ちに正直に、少しずつでも前に進んでいくことこそが大切なのだと、ようやく気づいた。

木枯らしの音が心地よく響き、私は静かに深呼吸をした。そして、再び画面を見つめることなく、少しだけ心が軽くなるのを感じた。

SNSは確かに便利で楽しい。でも、それに縛られすぎることはない。大切なのは、自分の心の声を聞くこと。誰かに何かを返すことだけが全てではないのだと、改めて思った。

「ありがとう。少しずつね。」

それを心の中で繰り返しながら、私は自分に優しく、静かに微笑んだ。