抱いて

春秋花壇

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はじける泡 したたるシズル感 えへっ よって候

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はじける泡 したたるシズル感 えへっ よって候

今夜、月は薄曇りで、町の灯りをにじませていた。静かな夜の空気に、微かな湿気を含んだ風が流れる。そんな夜に、私の心は少しだけ浮き立っていた。

「今日は、ちょっと飲みに行こうか。」

そう決めた瞬間、仕事帰りの疲れを忘れたような気がした。長い一週間を終えて、疲れ切った体を解放してくれるのは、やっぱりお酒だ。ひとりで飲むのもいいけれど、今日は誰かと一緒に楽しみたくて、スマホを取り出して、いつも気にかけている友人にメッセージを送った。

数秒後、すぐに返事が届く。

『お疲れ様!いいね、どこ行く?』

私は思わずにやけてしまう。このやり取りが、なんだか楽しくて、心がぽっと温かくなる。

「どうしようかな、あの居酒屋でいい?」

『いいよ!あそこ、いつ行ってもおいしいよね。』

約束を取り付けて、私は家を出た。駅近くの居酒屋は、いつも賑やかで、でもどこか落ち着く雰囲気があって、ここが好きだ。玄関を開けると、店内から漏れる笑い声やお酒のグラスを重ねる音が心地よく響く。

「いらっしゃいませ!」

店主が笑顔で迎えてくれた。久しぶりに顔を合わせた店主の笑顔に、私は思わず「久しぶり!」と声をかける。

「お!今日はどうした?いつもより元気そうだね。」

「たまにはね。お酒でも飲んでリフレッシュしようかなって。」

「それはよかった。好きな席に座って。」

カウンター席に腰を下ろすと、すぐにお通しが運ばれてきた。ほんのり温かいお通しが口に入ると、味わい深いスープと共に、身体がぽっと温まる。

その後、友人が到着し、私は彼女と乾杯をした。

「お疲れ様!やっぱりここは落ち着くね。」

彼女がグラスを持ちながら微笑むと、私も笑顔になった。

「ほんと、いいよね。お通しもおいしいし、何より、ここに来ると、日常を忘れられる。」

その言葉にうなずくと、店主が新しいメニューを持ってきてくれた。

「今日はこれ、どうだい?特製の串焼きだ。」

串焼きが目の前に運ばれ、煙が立ち昇る。香ばしい匂いが鼻をくすぐり、食欲をそそる。ビールの泡が、グラスの縁から少しだけ溢れそうになり、その泡がなんとも美しくて、つい目を奪われてしまった。

「これ、美味しそう!」

友人が早速箸を取ると、私はしばらくその光景を見つめていた。泡が弾ける様子、炙られた串焼きから立ち昇る湯気、そして友人の笑顔。それらすべてが、私にとっては大切な瞬間で、日常の中で感じられる幸せだった。

「お酒、どうする?」

店主が聞いてきたので、私はちょっと考えてから答えた。

「今日は、冷酒をお願いしようかな。」

冷酒の瓶を店主が手に取り、グラスに注ぎ始める。その冷たい酒が、グラスに注がれる音が心地よく響き、気持ちが少しだけ軽くなった。泡が細かく立つ冷酒のグラスを手に取ると、私はそれをそっと舐めるように味わった。

「うん、美味しい。」

その瞬間、ふと目の前に浮かんだのは、過去に感じた孤独な夜の記憶だった。あの時も、こんな風に飲んでいたはずだ。周りには誰もいなくて、ただ一人でグラスを片手に、ひとりぼっちの夜を過ごしていた。冷蔵庫に入れてあった酒を取り出し、グラスに注ぐその手は少し震えていた。人がいない部屋の中で、何も感じることができず、ただ時間が過ぎていくのを待っていた。あの夜、何もかもが無意味に思えていた。

そんな記憶が蘇った時、ふと友人の声が耳に届いた。

「どうした?」

私はその声にびっくりして顔を上げると、友人が心配そうな顔で私を見ていた。私は少し笑って、グラスを持ち上げた。

「ううん、なんでもない。ただ、幸せだなって。」

友人も微笑みながらグラスを持ち上げ、もう一度乾杯の合図をする。

「私も、ここに来てよかった。ありがとう。」

『じゃあ、今日の頑張りに!』

友人が言い、私たちはグラスを合わせた。カチン、と心地よい音が店内に響く。

その後、何度も乾杯をし、料理が次々と運ばれてくる。メニューの中には、私が食べたいと思っていたものがいくつもあった。あれもこれも、食べたい。友人と楽しい会話をしながら、私はその一つ一つを心ゆくまで味わった。

『次、どこ行く?』

友人が尋ねてきた。その一言に、私はほんの少し考えた後、答えた。

「今日はもう少しだけここでゆっくりしよう。」

「うん、いいね。」

その夜、私は少しだけ勇気を出して、また新しい一歩を踏み出した気がした。それは、過去の孤独に囚われずに、今の幸せを大切にしようという、小さな決意だったのかもしれない。

そして帰り道に立った時、空の星が普段よりも少しだけ輝いて見えたような気がした。それが、私にとっての新しい一歩の証だった。






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