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春秋花壇

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心を開く言葉

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"心を開く言葉"

里美は、共感力を育むための挑戦を続けていたが、次の課題が待ち構えていた。それは「人の話を最後まで聞く」こと、そして「話の腰を折らない」ことだった。これまで、彼女は話の途中で自分の意見を挟んでしまうことが多かったし、相手が話し終わる前に自分の話をしたくなることがあった。それは、相手の話に興味がないわけではなく、むしろ自分が言いたいことを伝えたくてたまらなかったからだ。

そのことを自覚した里美は、今度こそ自分の癖を変えようと決意した。人の話を最後まで聞くことで、相手の思いをしっかり理解し、心からの共感を示すことができると信じていた。とはいえ、実際にそれを実行するのは簡単なことではなかった。

ある日、里美は友人の美月と再び会うことになった。美月は最近、職場でのトラブルに悩んでいた。それを聞いた里美は、美月が話す前にすぐに自分のアドバイスをしたくなる衝動に駆られた。しかし、里美はその場で深呼吸をし、思い直した。今日は、自分が話す番ではない。美月の心の中にあることを、しっかりと聞くことが大事だ。

「美月、どうしたの?」と、里美は静かに問いかけた。

美月は少し戸惑ったように見えたが、しばらく沈黙を置いた後、ゆっくりと口を開いた。「実は、最近上司に頼まれているプロジェクトで、思うように進んでいなくて...」美月は自分の仕事の問題を語り始めた。里美は、言葉の端々に込められた不安や焦りを感じ取ったが、それを言葉にして相手に伝えることはなかった。ただ、美月が話すペースに合わせて、目を見つめながら静かに頷き、心の中でその言葉を受け入れることにした。

「上司は私にどうしてほしいのか、明確に言ってくれなくて…」美月は続けた。「私はどうすればいいのか、もう分からなくなってきて...」

里美は、美月がその悩みをどれほど抱えているのかを、ただ黙って聞くことで感じ取った。心の中で、彼女がどれほど辛いのか、そしてその気持ちをどうにかしたいという思いが募った。しかし、その思いを口に出すのではなく、ただじっと待った。

美月は話し終わると、少しだけ肩の力を抜いたような表情を見せた。里美はその表情を見て、少し驚いた。「美月、すごく話してすっきりしたね」と言った。美月は微笑みながら、「うん、ありがとう。聞いてくれるだけで、こんなに楽になった」と言った。

里美はその言葉を聞いて、胸の中に温かい感覚が広がった。彼女がただ聞いたことが、相手にとってこんなにも大きな意味を持つとは思っていなかった。自分が何かをアドバイスすることよりも、相手の気持ちをただ受け止めることの方が、時にもっと大切なのだということを実感した。

その後も、里美は他の人々と接する中で、話を途中で遮らず、相手の話を最後まで聞くことを心がけた。ある日、母親が突然、里美に対して不満をぶつけてきた。普段はすぐに自分の考えを言いたくなる里美だったが、今回は違った。母親が話すことを最後まで聞き、彼女の言葉の中に込められた不安や寂しさを感じ取ることができた。

「私もね、あなたがもっと家にいると思ってたんだけど…」母親の声に、里美は少し驚いた。それは、母親が寂しさを感じていたからこその言葉だった。里美はその思いをしっかりと受け止め、何も言わずにただ頷いた。

「ごめんね、お母さん。私はいつも忙しくて気づかなかった。あなたが一人でいることが寂しいんだね」と、里美は言葉を選びながら返した。

母親は少し驚いた顔をしてから、優しく微笑んだ。「ありがとう、里美。あなたが気づいてくれて嬉しいわ。」

その瞬間、里美は初めて、話を聞くことがどれほど深い繋がりを生むものかを理解した。自分の言葉を挟むことなく、相手の言葉を最後まで聞くことが、いかに人間関係を豊かにするかを実感したのだった。

里美の心の中で、何かが大きく変わり始めた。それは、他人の言葉に耳を傾け、その背後にある感情を受け入れることで、彼女自身の世界が広がっていったからだった。そして、彼女は少しずつ、共感力を深めていった。

人の話を聞くこと、その話の腰を折らないこと。それは、里美にとってただのマナーや技術ではなく、心を開く方法であり、真の人間関係を築くための大切な鍵だった。







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